第143話 ゴブリンメイジ
「「グギィイイッ!!」」
「ナイ、来るぞ!!さっきの奴等だ!!」
「分かってる!!」
最初に仕掛けてきたのは甲冑を身に纏った2体のホブゴブリンであり、戦斧を振りかざす。それに対してゴンザレスは棍棒を構え、ナイも旋斧を振り払う。
(こいつらはここで倒すしかない!!)
全身を甲冑で身に纏っている相手とはいえ、かつてナイは鋼鉄の塊のような硬度を誇る赤毛熊を倒した事がある。ナイは剛力を発動させ、限界まで腕力を上昇させるとゴンザレスと同時に旋斧を振りかざす。
「「はぁあああっ!!」」
「「グギャアアアッ!?」」
『ッ……!?』
ゴンザレスの棍棒がホブゴブリンの兜ごと叩き潰し、頭部を押し潰す。その一方でナイが振り払った旋斧はホブゴブリンの胴体を鎧ごと切り裂き、上半身と下半身が別れたホブゴブリンの死骸が倒れ込む。
甲冑で身を守っていたホブゴブリン達が一撃で敗れた姿に他の魔物達は戸惑い、その一方でナイとゴンザレスは邪魔者であったホブゴブリンを討伐した事で安堵する。この魔物の大群の中にこの2体以上に厄介な存在はおらず、このまま戦闘を続けようとした時、ゴンザレスは何かに気付いたようにナイに声をかけた。
「むっ!?ナイ、危ない!!」
「えっ……うわっ!?」
ゴンザレスはナイに覆いかぶさるように彼を庇うと、その直後にゴンザレスの背後から炎の塊のような物が接近し、背中に直撃した瞬間に爆発する。ナイはゴンザレスに庇われる形となって傷を負わずに済んだが、ゴンザレスの方は苦痛の表情を浮かべながら白目を剥く。
「がはぁっ……!?」
「ゴンザレス!?」
ナイは慌ててゴンザレスを支え、ゆっくりと地面に降ろす。彼の背中を確認すると、服が破れて皮膚が黒焦げになっていた。その様子を見てナイは何が起きたのかと振り返ると、そこには思いもよらぬ存在が立っていた。
「ギッギッギッギッ……!!」
「ご、ゴブリン……!?」
ゴンザレスの後方に立っていたのは赤色の水晶玉が取り付けられた杖を構えたゴブリンが立っており、それを見てナイは混乱する。恐らく、先ほどのゴンザレスの背中が爆発したのはこのゴブリンの仕業なのだろうが、何をしたのかナイには理解できない。
杖を持ったゴブリンはよくよく観察すると普通のゴブリンとは異なり、通常種のゴブリンと違う点は皮膚が若干赤みがかっており、後頭部が出っ張っている。普通のゴブリンには見えないが、上位種であるホブゴブリンとも異なる雰囲気を放つ。
(今の、まさか魔法なのか!?という事はこいつは魔法が使えるのか!?)
信じがたい事だが先ほどゴンザレスの背中が爆発したのはナイの前に現れた異様な姿形をしたゴブリンのせいだとしか思えず、この時にナイは子供の頃にゴマンから聞いた話を思い出す。
『そういえばナイ、こんな話は知ってるか?魔物の中には魔法が使える奴もいるみたいだぞ』
『え?魔法って……魔物が魔法を使えるの?』
『親父が酔っ払った時に言ってたんだ。例えば、ゴブリンの亜種の中にはゴブリンメイジと呼ばれる魔物がいるって……そいつは人間みたいに魔法が使えるみたいだぞ』
『え〜それ本当?』
『まあ、親父も相当に酔ってたから適当な事を言っていた可能性もあるけどな……』
ゴマンの話を聞いた時はナイは彼の父親の作り話だと思ったが、その話は印象的だったのでよく覚えていた。ゴブリンの亜種の中には魔法を扱える存在が生まれた時、それは「ゴブリンメイジ」と呼ばれるらしい。
(こいつがゴブリンメイジだとしたら……あの杖の色、それにさっきの爆発、という事は火属性の魔法を使えるか!?)
ゴンザレスが攻撃を受けた時に彼の背中は爆発し、その様子を見たナイはゴブリンメイジが扱えるのは火属性の攻撃魔法だと判断する。
魔術師から奪ったと思われる杖を構えたゴブリンメイジはナイとゴンザレスに杖の先端を構え、口元を開く。この時にナイはゴブリンメイジが告げた言葉を耳にした。
『ホノオヨ、テキヲヤキツクセ……ファイアボール!!』
「なっ……!?」
発音は酷いが、明らかに人語を話したゴブリンメイジにナイは驚き、どうやらゴブリンメイジは人間の言葉を使えるらしく、しかも呪文の詠唱までも行う。
呪文を告げた途端、ゴブリンメイジが握りしめる杖の水晶玉が光り輝き、やがて空中に火の塊が出現する。その火球は徐々に大きくなり、やがてナイとゴンザレスの元へ放たれる。
(これを受けたらまずい!!でも、避けたら……!!)
火球の移動速度はそれほどでもなく、ナイが一人だけならば簡単に避ける事が出来るだろう。だが、ナイの傍にはゴンザレスが倒れており、ここで彼を置いていくことなどナイは出来ない。
この時にナイはゴマンの盾を構え、この盾で魔法を防げるのかどうかは分からないが、かつてアルはゴマンの盾は魔法金属と呼ばれる特殊金属で構成された代物だと語った事を思い出す。魔法金属という名前が付けられるぐらいなのだから魔法に対して何らかの耐性を持っていてもおかしくはない。
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