第131話 ナイの肉体の秘密

――木の枝が地面に落ちた瞬間、ナイとゴンザレスは同時に動き出す。この時にナイはゴンザレスの動向を「観察眼」で捉え、彼の行動を決して見逃さないように動く。



(発動しろ!!)



ナイはゴンザレスと戦う事を決めた理由、それは自らを窮地に追い込む事で「迎撃」の技能を目覚めさせるためだった。迎撃の技能はこれまでにナイが追い込まれた時に発動し、彼を守ってきた。否、ナイ自身が生き残るために発動させたと言った方が正しい。


これからの魔物との戦闘で迎撃の技能は必要不可欠であり、どうしてもナイは迎撃を身に付ける必要があった。だからこそナイはゴンザレスの動向を観察し、自分が動くべき瞬間を見極める。



(……ここだっ!!)



ゴンザレスが丸太をナイに向けて振り下ろし、頭上に迫りくる瞬間、ナイは身体の中が熱くなる感覚に襲われ、勝手に身体が動き出す。迎撃の発動に成功したナイは肉体の方が反応して丸太を手放す。


自分の武器を敢えて手放したナイはゴンザレスが振り下ろした丸太を避けると、地面に衝撃が走った。あまりの怪力で地面に叩きつけられた丸太はめり込み、その様子を見たゴンザレスは驚く。



「うおおおっ!!」

「ぬうっ!?」



ナイはゴンザレスの攻撃を躱すだけではなく、彼が振り下ろした丸太を足場にして駆け上がると、ここで「剛力」と「跳躍」を同時に発動させてゴンザレスの顔面に飛び込む。


丸太を足場にしてナイは跳び膝蹴りをゴンザレスの額に叩き込み、思いもよらぬ攻撃にゴンザレスは体勢を崩し、後ろ向きに倒れ込む。一方でナイの方は地面に着地すると、倒れ込んだゴンザレスを見て興奮したように息を切らす。



(やった、発動出来た……でも、何だこの感覚?)



倒れ込んだゴンザレスを見てナイは自分の身体を確認し、戸惑いを隠せない。現在のナイは貧弱の効果によってレベルがリセットされ、昨日よりも身体能力は落ちているはずだった。


だが、先ほどの自分の攻撃によって巨人族のゴンザレスが倒れた事にナイは動揺を隠せず、本当に自分のレベルが下がっているのかと疑う。レベルが1に戻ったはずなのに巨人族であるゴンザレスを倒した事にナイは信じられなかった。



(いったい、どうなってるんだ?確かに身体を鍛えればレベル1でも強くなれるって爺ちゃんが言ってたけど……)



混乱したナイは自分の肉体が本当にレベルリセットされたのか疑うが、ここで彼の耳にゴンザレスではない声が響く。



「ふむ、話には聞いていたが……まさか、これほどとはのう」

「えっ……マホ、老師?」

「うぐっ……ろ、老師!?」



声が聞こえた方にナイは振り返ると、そこにはマホが立っていた。何故か彼女は猫の絵が全体に描かれた寝間着を身に付けており、倒れているゴンザレスの元に歩む。


ゴンザレスはマホに気付くと慌てて起き上がろうとしたが、それをマホは抑えると彼の額に掌を向ける。ナイが蹴りつけた箇所は赤く晴れており、それを見たマホはナイに声をかけた。



「これは驚いたのう。まさか儂の弟子を倒すとは……しかも武器も使わずに素手で」

「ろ、老師……まだ、俺は戦える」

「阿呆、動いてはならん。そういえばお主、回復魔法も扱えると言っていたな。ちょっとこいつの怪我を治してはくれんか?」

「あ、はい!!」



ナイはマホに声を掛けられて慌ててゴンザレスの額に掌を差し向けると、回復魔法の「ヒール」を発動させる。ナイはこの時に詠唱を短縮して治療を行う。



「ヒール!!」

「うっ……痛みが、引いてきた?」

「ほう、詠唱を短縮できるのか。余程、練習をしてきたようじゃな」

「毎日扱っていたので……よし、腫れは治ったよ」



回復魔法を発動してから10秒ほどでゴンザレスの額の怪我は治り、彼は驚いた様に額を摩りながら起き上がる。その様子を見てマホは考え込み、ナイに掌を見せる様に促す。



「ナイ、お主の手を見せてくれんか?」

「え?手を……?」

「ほれほれ、早くせんか」



ナイの了承を得る前にマホは彼の手を掴むと、何かを確かめる様に覗き込む。まるで占い師が手相を見るかのようにマホはナイの手を凝視すると、しばらくは誰も喋らずに沈黙の時が訪れる。


マホがナイの手を握りしめてから30秒ほど経過すると、流石にナイもマホに声を掛けようとした時、彼女は手を離してくれた。そしてナイに視線を向け、目つきを鋭くさせて問い質す。



「ナイ……お主、これまでどんな風に生きてきたんじゃ?」

「え?」

「お主の身体は明らかに普通ではない。普通の人間の子供とはかけ離れた筋力、更に体内に宿った魔力量……魔術師にも決して劣らぬ。いったいどんな鍛錬を繰り返せばこんな肉体になれるのじゃ?」

「えっと……」



マホの言葉を聞いてナイはどう説明するべきか悩み、ここで嘘を吐く理由もなく、ナイは素直に自分がこれまでどんな人生を送ってきたのかを話す――

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