第130話 巨人族との組手
「ナイ……と呼んでいいか?」
「え?あ、はい……すいません、騒がしかったですよね。鍛錬の邪魔をしちゃって……」
「いや、それはいいんだ。それよりもナイ……いきなりでなんだが、俺と組手をしてくれないか?」
「え?組手?」
ナイはゴンザレスに話しかけられて驚き、しかも内容を聞いて更に戸惑う。急にどうしたのかと思ったが、ゴンザレスは地面に降ろしていた棍棒を持ち上げる。
「昨日の戦いの時から気になってはいたが、人間でありながら俺の攻撃を受け止める力……いったいどうやって身に付けた?」
「どうやって……と言われても」
「もう一度だけお前の力を確かめたい、だから戦ってくれないか?」
ゴンザレスは棍棒を構えると、それを見たナイは彼が本気で自分の力を試そうとしている事に気付き、非常に困ってしまう。昨日の時点と比べてもナイはレベルがリセットされているので力は衰えており、今度はゴンザレスの攻撃を受け切れるか分からない。
だが、ゴンザレスのような強者と戦えばナイも更に戦闘の勘を取り戻せるかもしれないと考え、巨人族と戦える機会など滅多になく、それに魔物の中には赤毛熊のような大型の魔物も存在する。
流石に赤毛熊級の化物が街中に入り込んでいる可能性は低いが、それでもナイとしては巨体の相手との戦闘はもっと経験しておきたいと考え、ゴンザレスの提案を受け入れる。
「分かりました。期待に応えられるか分かりませんけど……」
「おお、戦ってくれるのか?」
「でも、流石に真剣で戦うのは……何か他の武器はないんですか?木刀とか……」
「ないな、というか巨人族の俺が扱える武器はこの屋敷にはないようだ。残念だが……」
組手ならばわざわざ本物の武器を使う必要はなく、訓練用の武器でも十分だと思ったが、生憎とナイはともかくゴンザレスが扱えるような武器の代用品はない。
(参ったな、流石に本物の武器で戦ったら大変な事になりそうだし……何かいい武器はないかな。あれ、待てよ……そういえばここって確か、あれがあったような……)
ナイは昨日の出来事を思い返し、ゴンザレスを待たせて屋敷の出入口へ向かう――
――しばらく時間が経過すると、ナイは裏庭へと戻り、ゴンザレスでも扱えそうな武器を運び出す。ナイが運び込んだのは昨日、屋敷に乗り込もうとしていたホブゴブリン達が使用していた「丸太」であった。
「これならゴンザレスさんも使えるんじゃないですか?」
「なるほど、丸太か……確かにこれなら俺でも使えそうだな」
昨日にホブゴブリン達が門を突破するために用意した丸太はナイの手で二つに切り裂かれており、片方はゴンザレスが扱い、もう片方はナイが扱う。丸太を木刀代わりに利用して戦うなど聞いた事もないが、手ごろな武器はこれだけしかない。
お互いに丸太を抱えたナイとゴンザレスは向かい合い、組手の合図としてナイは木の枝を拾い上げ、それをゴンザレスに示す。
「この木の枝が地面に落ちたら戦う、それでいいですか?」
「ああ、それでいい……だが、一つだけ言わせてくれ」
「何ですか?」
「俺に敬語を使う必要はないぞ。見た所、同い年ぐらいだろう?」
「……えっ?」
戦いを始める前にゴンザレスに告げられた言葉にナイは動揺し、そんな彼にゴンザレスは衝撃的な言葉を告げた。
「俺は先月に13才だ。お前もだいたい同じぐらいだろう?」
「先月!?13才!?という事は……年下!?」
数か月の違いとは言え、驚くべき事にゴンザレスはナイよりも年下らしく、それにしては顔つきも大人びており、身長も3メートルちかくもあって体格も大きい事からナイは年上だと思い込んでいた。
しかし、ゴンザレスは巨人族としてはまだ子供同然であり、大人の巨人族ならば身長は4メートルはあるが、彼の場合は3メートルにも満たない。顔つきの方はそもそも巨人族の男性は殆どがいかつい顔立ちのため、子供である彼もいかついのは仕方がない。
「俺に敬語を使う必要はない、むしろ年上なら俺が使うべきか?」
「いやいや、気にしないでください!!あ、気にしないでいいから……」
「そうか、ならこのまま普通に話させてもらう。そっちも遠慮はいらないぞ」
「う、う〜んっ……」
ナイは無意識にゴンザレスの見た目のせいで敬語を使いそうになるが、本人が望んでいるのならば彼の意志を尊重し、普通に話す事にした。
「分かったよ、ならこっちも普通に話させ貰うね」
「ああ、そうしてくれ」
「よし、じゃあ……準備はいい?」
「……問題ない」
木の枝をナイは掴むと、それを見たゴンザレスは緊張した面持ちで視線を向け、ナイは木の枝を上空に放り込む。二人は木の枝が地面に落ちるまでの間、戦闘の準備を整える。
恐らくは最初の一撃で勝負は決まると判断し、ゴンザレスは丸太を上段に抱えると、それに対してナイは横向きに丸太を抱える。正確に言えば体格差の問題でナイの場合は下手に持ち上げると体勢を崩してしまいかねない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます