第128話 生き続ける事が最大の恩返し

「あの……聞きたいことがあるんですけど」

「うむ、実は儂の方からもお主には色々と聞きたいことがある。その前にアルの孫よ、名前を教えてくれるか?」

「あ、はい。ナイと言います」

「そうか、アルの孫にしては礼儀正しいのう。それにしてもアルが結婚して孫までいたとは……そういえばアルの奴は元気にしておるか?」

「それは……」



ナイはアルの事を尋ねられた途端に表情を暗くし、その様子を見てマホは何かを察したように口元を引き締め、寂しそうな表情を浮かべる。



「そうか、アルの奴はもう……」

「はい……今から1年半前に亡くなりました」

「1年以上も前か……」

「赤毛熊に襲われた僕を助けるため、庇って死んでしまいました……本当にごめんなさい」

「そうか、赤毛熊に……だが、別に儂に謝る必要はないぞ。お主もさぞ辛かっただろう」



赤毛熊にアルが殺されたという話にマホは目元を抑え、一方でナイの方もマホの言葉を聞いていたたまれなさを感じる。その話を聞いていたドルトンはナイの肩に手を置き、彼を慰めた。



「ナイ、アルが死んだのはお前のせいではない。あまり深く囚われるな」

「ドルトンさん、でも……」

「ドルトンの言う通りじゃ。アルがお主を守るために赤毛熊と戦い、死んだというのであればそれはアルの責任じゃ。アルはお主を守るために命を賭けた。ならばお主が出来る事は罪悪感を抱く事ではない、自分のために戦ってくれたアルのために感謝する事……その気持ちを忘れてはならん」

「感謝……?」



マホの言葉にナイはどういう意味なのかと思ったが、自分を守ってくれたアルに対して罪悪感を抱えながら生きるよりも、彼が自分を救ってくれた事に感謝しながら生き続ける様に諭す。



「死んだアルもいつまでも自分のせいで苦しみ悩むお主の姿など見たくはないだろう。それならばお主の出来る事はアルに感謝し、アルの守ってくれた命を大事にして生き続ける事……それがアルにとっての最大の恩返しとなるじゃろう」

「生き続ける事が……爺ちゃんのためになるんですか?」

「その通りじゃ。お主の命はもうお主だけの物ではない、お主を救うために死んだアルのためにもアルの分まで生き延びよ」

「生き延びる事が恩返し……」



ナイはマホの言葉を聞いて衝撃を受け、今までそんな風に考えた事はなかった。赤毛熊は生きている頃はナイはアルの敵討ちだけのために没頭し、命も惜しまずに赤毛熊を倒す事だけが生きる目標だった。


しかし、半年前に赤毛熊を倒し、更には親しい村人達を失ったナイは生きがいを失った。こうしてここにいるのもナイは最後に残された自分の大切な人であるドルトンを救うためにやってきたのだが、マホの言葉を聞いてナイは改めて自分が生きる理由が自分を守るために死んだアルのために生き続ける事だと悟る。



「ナイよ、お主はまだ若く、未熟者じゃ。だから誤って道を踏み外す事もあるじゃろう……しかし、忘れるな。もうお主の命はお主だけの物ではない。死んだアルのためにも最後まで諦めずに生きる事に執着しろ」

「生きる……爺ちゃんのために」

「さて、今日は儂等も疲れたからな。悪いが、部屋を用意してくれんか?」

「は、はい!!すぐに用意致しましょう!!」



マホはナイに言いたいことを伝えると自分達は早々に立ち去り、残されたナイは自分の掌を見つめる。何となくではあるが、マホの言葉を聞いてナイは心の中で感じていた引っかかりが消えたような気がした――





※今回は短めですが、ここまでにしておきます。

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