第127話 魔除けの護符と魔導士
――屋敷の中にマホ達を迎え入れると、ドルトンはすぐに地下倉庫に避難していた者達を呼び寄せ、彼等と共に屋敷の広間へと集まる。全員が不安そうな表情を浮かべる中、まずはマホは自分が連れてきた子供達の説明を行う。
「皆の者、紹介が遅れたな。この子達は儂が指導している弟子たちじゃ、ほれ名前を教えんか」
「どうも、初めまして……エルマと言います」
「ゴンザレスだ」
「……ちっ、ガロだ」
マホが自己紹介を行わせると、エルフの女性はエルマ、巨人族の男性はゴンザレス、そして獣人族の少年はガロという名前だと告げる。
ナイは3人を見てマホの弟子と聞いて驚き、3人とも共通点が全く見られない。いったいマホの元でどんな指導を受けているのか気になったが、今はマホがここへ訪れた理由の方が知りたかった。
「マホ老師、本日はどうしてこちらに?まさか、我々を助けに来てくれたのですか?」
「うむ、半分は正解じゃな。冒険者ギルドの方にてお主がまだ避難していないと聞いてな、急いでここまで来たのじゃ」
「おお、そうでしたか!!わざわざこんな危険な場所まで足を運んでくださるとは……ん?今、半分と言いましたか?」
「うむ、ここへ来たのはお主達を助けるためだけではない。別の理由と意図があって儂等はここへ来た」
ドルトンの質問にマホは答えると、彼女はエルマに視線を向ける。エルマは頷いて彼女は懐に手を伸ばすと、何やら紋様が記された札のような物を取り出す。
「ドルトンよ、これをお主に渡しておこう」
「これは……魔除けの護符ですか?」
「魔除けの……護符?」
エルマから渡された物を見てドルトンは驚き、気になったナイはこの札にどんな効果があるのかと尋ねようとした時、先にマホが答えてくれた。
「この護符は魔物を寄せ付けない結界を生み出す。この札を屋敷の四方に貼っておいたからな。もう屋敷の外にいる魔物共はこの屋敷に近付く事も出来ぬ」
「結界?」
「分かりやすく言えばこの護符を張り付けた場所は魔物共は認識が出来ん。いや、目では見えても全く気にしなくなるといった方が正しいかのう。護符を張り付けた場所は魔物達は近づく事も出来なくなる。つまり、この屋敷にはもう外から魔物が入り込んでくる事はないという事じゃ」
『おおっ……!!』
マホの説明を聞いて広間に集まった人間達は歓喜し、魔物が寄り付かないというだけでも朗報だった。これで屋敷の安全は確保されたとマホは説明してくれたが、ナイとしてはこんな札で魔物が寄り付かないと言われても信じられない。
しかし、マホの事を知っているドルトンからすれば彼女の言葉を疑う理由はなく、彼は心底安堵した表情で受け取った護符を有難く頂戴する。その様子を見てマホは頷き、彼を慰める様に肩に手を握る。
「よくここまで耐えたな……後は儂等が何とかしよう。お主等の安全は儂が保証しよう」
「あ、ありがとうございます……本当にありがとうございます」
「お、おいおい……本当にこんな紙切れで魔物が近寄ってこないのか?俺にはどうも信じられないが……」
「イーシャン!!無礼な事を言うな、この御方は魔導士だぞ!!」
「魔導士?」
ナイと同様にイーシャンも護符の効果を聞いても素直に信じられず、口を挟むとドルトンは彼を叱りつける。一方でまた新たな単語が出てきた事にナイは戸惑うと、ゴンザレスが説明してくれた。
「魔導士とは国に認められた魔術師だけに贈られる称号だ。この国には魔導士は3人しかいない……その中でもマホ老師は最年長の魔導士だ」
「これ、最年長は余計じゃぞ」
「魔導士……」
魔導士はどうやら国から認められる程の偉い魔術師である事をナイは理解し、そんな魔導士の称号を持つ彼女が用意した道具ならば「魔除けの護符」とやらも信用できるかもしれない。
だが、気になったのは彼女の言い方だと魔物は魔除けの護符が張り出された場所には近づけないという点だった。既に屋敷の中にはビャクが存在し、もしも魔除けの護符が張り出されたのならばビャクも影響を受けているのではないかとナイは心配する。
「あの、それってビャクは大丈夫なんですか?」
「ビャク?ああ、あの白狼種の事か。あの白狼種は屋敷の中にいる限りは魔除けの護符の影響は受けん」
「あ、そうですか……よかった」
「安心せい、もうこの屋敷の安全は儂が約束しよう。皆も今日は疲れたじゃろう、今日の所は休んで明日から本格的にこの状況を脱する話し合いをしようではないか」
「結界があるとはいえ、念のために見張りは俺達が行う。だから安心して休んでくれ」
「何があっても私達が守りますのでご安心ください」
「ふん……」
屋敷の守護はマホの弟子たちが行う事を告げると、やっと屋敷内の人間達は心の底から安心して身体を休められるため、すぐに全員が広間から抜け出す。だが、ナイの方は色々と気になる事があって広間へと残った。
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