第124話 襲撃

「ウォンッ……」

「ビャク?どうかしたの?」

「クゥ〜ンッ」

「お、おい!!何処へ行くんだ?」



会話の際中に窓の外で聞いていたビャクだったが、何かを嗅ぎ取ったのか離れていく。その様子を見てナイは不思議に思い、少なくとも外から魔物が入ってきたわけではないらしい。


ビャクを心配したナイは窓から外へ出ると、ビャクは建物の屋根の上に向けて顔を向けて首を傾げていた。その様子を見たナイは彼が何を見たのかと同じように屋根を見上げると、そこには思いもよらぬ光景が広がっていた。



「えっ……!?」



屋根の上に立っていたのは全身をマントで覆い込んだ何者かが立っており、しかも数は1人ではなく、3人も立っていた。何者なのかは不明だが、ナイは嫌な予感がして背中に旋斧に手を伸ばす。



「だ、誰だ!?」

「グルルルッ……!!」



ナイが声を掛けるとビャクは唸り声をあげ、屋根の上に佇む謎の人物達の内、1人が正体を現した。




――マントを脱いで姿を現したのは女性であり、外見から察するに年齢は20才前後だと思われる。金色のように輝く美しい髪の毛を腰元まで伸ばし、顔立ちの方はまるで人形のように端正に整っており、金色の瞳をしていた。


だが、最も特徴的なのは彼女の耳であり、明らかに普通の人間よりも細長く尖っていた。ナイはこんな状況でなければ見惚れそうな程に美しい外見の少女が姿を現して戸惑い、一方で女性の方はナイとビャクに視線を向け、不思議そうな表情を浮かべながらも彼女は背中に手を伸ばす。




「そこの君、危ないから下がって!!」

「えっ……!?」



女性の言葉にナイはどういう意味なのかを尋ねる前に彼女は背中に抱えていた弓を取り出す。弓の色合いは緑色ではあるが、弦の方は銀色の光を放ち、月の光を反射する。


弓を取り出した女性を見てナイは嫌な予感を抱き、彼女が何か勘違いしているのではないかと思いながらもビャクに離れるように指示を出す。



「ビャク、離れろっ!!」

「ウォンッ?」



ナイの言葉を聞いてビャクは驚いた様に顔を向けると、その間に女性は腰に掲げた矢筒から矢を引き抜き、目にも止まらぬ速さで射抜く。


矢が放たれた瞬間にナイは咄嗟に盾を構え、ビャクはその場を離れようとしたが、矢は二人に刺さる事もなく、地面に突き刺さった。丁度ナイとビャクが立っている位置の中間に突き刺さるが、それを見たナイは疑問を抱いた。



(え、外れた……いや、何か様子がおかしい!?)



地面に突き刺さった矢を見てナイは最初は狙いを外したのかと思ったが、ここでナイは「観察眼」の技能を発動させて矢の様子を調べると、撃ち込まれた矢の鏃の部分が緑色に光り輝いている事に気付く。



「逃げろ、ビャク!!」

「ウォンッ!?」



危険を察したナイはその場に伏せると、ビャクも矢から離れようとした。だが、矢の輝きが増した瞬間、鏃の部分から強烈な風圧が発生し、周囲に拡散した。



「うわぁっ!?」

「ギャンッ!?」

「ぬおっ!?」

「な、何だぁっ!?」



強烈な風圧が屋敷の裏庭に発生すると、ナイは地面を転げまわり、ビャクの身体は吹き飛ばされる。屋敷の中にいたヨウとナイも窓ガラスが割れてしまい、二人は慌てて身体を伏せる。


何が起きたのか理解するのに時間は掛かったが、ナイは女性が放った矢から衝撃波のように強烈な風圧が発生し、自分達を吹き飛ばしたのだと気付いた。恐らくは風属性の魔法の一種だと思われ、ナイは身体を起き上げながらビャクに声をかけた。



「ビャク、無事!?」

「ク、クゥ〜ンッ……」



矢から発生した風圧によって派手に土煙が舞い上がり、周囲の様子もよく見えず、ナイは必死に呼びかけるとビャクの返事が聞こえた。どうやら事前にナイが注意した事で矢から離れていた事が幸いし、無事だったらしい。



(何だ、あの女の人……いきなり攻撃を仕掛けるなんて)



ナイは先ほど攻撃を仕掛けてきた女性の事を思い出し、いきなり攻撃を仕掛けてくるなど何を考えているのかと思ったが、とりあえずはビャクと合流する方が先決だった。



(土煙で前が良く見えない……そうだ、気配感知を使えば)



土煙が舞い上がったせいで視界は悪いが、ナイはすぐに気配感知の事を思い出し、どうにか発動させようとする。度重なる戦闘でナイも勘を取り戻しつつあり、今ならば気配感知も発動できる気がした。


技能を発動させようと念じると、視界は悪いなかでもナイは他の人間の気配を感じ取り、正確な位置を掴む。魔獣であるビャクは普通の人間よりも強い気配を放つため、居場所を特定するのは難しくはない。



(ビャクの気配は……こっちか!!あれ、何だ……もっと大きい気配を感じる!?)



気配を探ってビャクの元へ向かおうとしたナイだったが、ビャクの傍にもう一つ大きな気配を感じ取り、驚いた彼は視線を向けるとそこには土煙の中から鋼鉄製の棍棒を掲げた巨人が立っていた。

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