第119話 コボルト亜種
「ガアアッ!!」
「うわっ!?」
ナイが態勢を整える前にコボルト亜種は動き出し、彼の元へ向かう。この時のコボルトの行動は駆け抜けるのではなく、ナイの「跳躍」のように低空跳躍を行い、距離を詰める。
通常種のコボルトと違い、亜種のコボルトの移動方法は走るのではなく跳んで移動する表現が正しく、その点は過去にナイが遭遇した一角兎と移動法がよく似ている。但し、移動速度に関してはコボルトの方が勝り、距離を詰められたナイは咄嗟に盾で身を守ろうとした。
「ウガァッ!!」
「くっ!?」
しかし、盾で身を守ろうとしたナイに対してコボルト亜種は牙を向けると、盾の端の方に喰らいつく。この時に盾からは衝撃波は発生せず、そのままコボルト亜種は盾に喰らいつくと、無理やりにナイから引き剥がそうとする。
どうやらゴマンの盾は正面からの攻撃ならば跳ね返せるが、盾の端の部分は衝撃を跳ね返す機能は備わっていないらしく、コボルト亜種は盾に噛みついてナイの右腕から力ずくで奪おうとした。
「グゥウウッ……!!」
「このっ……離せっ!!」
「ウオッ!?」
だが、単純な力比べならばどうやらナイの方が分があり、剛力を発動させたナイは盾に喰らいついたコボルト亜種から無理やりに盾を引き剥がすと、背中に背負っていた旋斧を引き抜き、コボルト亜種へと放つ。
「はああっ!!」
「ガァアッ!!」
ナイの旋斧が振り抜かれた瞬間、コボルト亜種は上空へ跳躍して攻撃を回避すると、そのまま空中で回転しながら降り立ち、瞬時に距離を取る。その様子を見てナイは旋斧を両手で構えながら冷や汗を流す。
(動きが早過ぎる!!どうにか攻撃を当てる手段を考えないと……)
コボルト亜種の動作を止める方法を思いつかなければナイに勝ち目はなく、このまま戦ってもナイは殺されてしまう。そう考えたナイは下水道で遭遇したホブゴブリンの時の様に魔法の応用で目眩ましを行い、コボルト亜種の視界を奪う方法を考える。
他にコボルト亜種の対抗手段を思いつかないナイは旋斧を左手に持ち替え、右手に意識を集中させる。しかし、この時にナイは右腕に装着した盾に気付き、盾の裏側に仕掛けられた道具を見た。
(これを使えばもしかしたら……一か八か、やってみるか?)
目眩ましが失敗した時を想定してナイは右腕の盾に施された仕掛けを発動する準備を行い、この時にナイは一瞬だけコボルト亜種から目を離す。その隙をコボルト亜種が逃すはずがなく、動き出す。
「ガァアアアッ!!」
「くっ!?」
コボルト亜種の鳴き声を耳にしたナイは振り返ると、そこには自分に向けて高速接近するコボルト亜種の姿が存在し、咄嗟にナイは旋斧を振りかざす。しかし、コボルト亜種は移動の際中に方向を変化させ、振り下ろされた旋斧を回避する。
「ウガァッ!!」
「なっ!?」
自分の正面から振り下ろされた旋斧に対してコボルト亜種は横に跳んで回避すると、近くの建物の壁を足場に利用して更に跳躍を行い、三角蹴りの要領でナイに向かう。
「ガアアッ!!」
「がはっ!?」
コボルトの飛び蹴りを受けたナイは吹き飛び、この際に旋斧を手放してしまう。地面に転がり込んだナイを見て絶好の好機だと判断したコボルト亜種は牙を剥き出しにして向かう。
しかし、地面に倒れた状態のナイは迫りくるコボルト亜種に視線を向けると、彼は右腕に装着した盾を構えた。但し、構えたと言っても盾で防御するのではなく、盾の裏側に仕込まれた「ボーガン」を構える。
「喰らえっ!!」
「アガァッ――!?」
大口を開いて接近してきたコボルト亜種に対してナイは盾の裏側に仕込んだボーガンを放ち、発射された矢は見事にコボルト亜種の口内に入り込み、後頭部まで貫通した。
コボルト亜種は断末魔の悲鳴を上げる事も出来ずに白目を剥いて倒れ込み、その様子を見届けたナイは冷や汗を拭う。そして盾の裏側に仕込まれたボーガンに視線を向け、思いもよらぬ威力に焦りを抱く。
「ドルトンさん……改造凄すぎるよ」
ただの1発でコボルト亜種を倒せたことにナイは動揺を隠せず、こんな武器を盾に仕込んだドルトンに対して感謝するべきか呆れるべきか悩む。だが、一先ずは窮地を出したナイは起き上がると、旋斧を回収してコボルト亜種の死骸に視線を向けた。
(こいつ、強かったな……こんなのが他にも街に入り込んでないといいけど)
今回は運よく勝てたが、またこのような亜種と遭遇した場合、ナイは勝てる自信がなかった。ドルトンが盾に仕込んでくれたボーガンも一発限りであり、肝心の矢の方もコボルト亜種に深く突き刺さって回収する事が出来ない。
もしもコボルト亜種と再遭遇した時、今のナイでは勝ち目がない。他にコボルト亜種がいない事を祈りながらもナイは当初の目的を果たすため、まずは近くの建物の屋根の上に移動を試みる。
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