第114話 封じられた旋斧

「おい、見ろ!!ここにもあったぞ!!」

「くそ、すぐに塞ぐんだ!!奴等が出てくる前にな!!」

「まさか下水道から入ってきたなんて……」



ナイが入ってきた出入口の方から兵士の声が響き、その声を聞いたナイは慌てて戻ると、兵士達が出入口の塞ごうとしていた。


慌ててナイは声を掛けようとしたが、彼が梯子に訪れる前に出入口は封鎖され、地上の光が閉ざされてしまう。その様子を見ていたナイは呆然とするが、これでもう引き返す事は出来ない。



(しまった……やっぱり、他の人も下水道から魔物が侵入してきた事に気付いている人もいたのか)



少し前に遭遇した兵士は魔物の侵入経路が分からない様子だったのでナイは他の兵士も気づいていないかと思ったが、どうやら既に兵士達の間にも魔物の侵入経路が下水道である事が知れ渡っているらしく、現在は街中で下水道を繋がる場所を塞いでいる様子だった。



(これで引き返す事は出来なくなったか……でも、まだ塞がれていない場所もあるはずだ。すぐに脱出しないと……)



町全体の下水道の出入口が全て封鎖されたとは思いにくく、兵士達が出入口を塞ぐ前にナイは新しい出入口を探す事にした。改めてナイは自分が作り出した光球を頼りに下水道の通路を移動する。



(気配感知を使えれば敵の接近も気づけるけど……やっぱり、上手く発動出来ないな)



半年の間、全く使っていなかった技能の類は上手く使用できず、何度か試していけばいずれは使える様になるだろうが、時間が掛かり過ぎた。ここから先は技能だけに頼らず、ナイ自身が培った技術で対応しなければならない。



(なんだか技能が使えない時に戻ったみたいだな……いや、あの時とは違うか)



まだ水晶の破片を利用して新しい技能を覚えていない頃を思い出すが、違う点があるとすれば今のナイは成長しており、以前よりも力を身に付けている。仮に技能がなくとも今のナイは魔物と戦える力を持っている。


光球を頼りにナイは通路内を歩いていると、ここで足音を耳にした。前方の通路から何かが近付いてくる音を耳にしたナイは光球を操作し、前方に移動させて足音の正体を確かめようとした。



「誰だ!!」

「グギィッ……!?」



光球によって照らされたのは武装したホブゴブリンである事が判明し、ホブゴブリンは皮鎧を身に付け、両手には短剣を握りしめていた。それを見たナイは咄嗟に背中の旋斧に手を伸ばし、戦闘態勢を整える。



(ホブゴブリン……やっぱり、ここにいるという事はこいつらは下水道を通じて入ってきたのか!!)



下水道に魔物が存在する事を確認したナイは自分の推測が当たっていたと確信を抱き、彼は旋斧を引き抜いてホブゴブリンに切りかかろうとした。相手は暗闇の中から出現したナイに驚き、更に光球が放つ光によって目が眩む。



「グギャッ……!?」

「やああっ!!」



目が眩んだホブゴブリンにナイは接近すると、背中の旋斧を引き抜いて叩き込もうとした。だが、ホブゴブリンは咄嗟に後方へ跳んで攻撃を回避すると、ナイの旋斧は通路の壁にめり込んでしまう。



(しまった!?)



ナイは壁にめり込んだ旋斧を見て焦り、攻撃の際にいつもの癖で「剛力」を発動した事が仇となった。刃は完全に壁にめり込んでしまい、慌ててナイは引き抜こうとするが上手く行かない。


壁にめり込んだ旋斧を必死に抜こうとしているナイを見てホブゴブリンは呆気に取られるが、すぐに自分で武器を封じてしまったナイに笑みを浮かべ、ホブゴブリンは両手に握りしめた短剣で切りかかる。



「グギィッ!!」

「うわっ!?」



旋斧を回収する前に攻撃を仕掛けられたナイは後ろに下がってホブゴブリンの攻撃を回避するが、ホブゴブリンは軽快な動きで短剣を繰り出す。短剣に対してナイは攻撃を躱しながらも反撃を試みようとしたが、ホブゴブリンの動きが早過ぎて反撃する暇もない。



(こいつ、戦い慣れしてる!?)



動きが早過ぎてナイは相手の動きが捉えきれず、ゴマンの盾で防ごうとしてもホブゴブリンは盾を狙わず、ナイの首元や胸元を執拗に狙う。



(まずい、このままだと……)



武器で対抗しようにも刺剣の場合は投げ込む暇がなく、盾で防ごうとしても相手が盾に直接攻撃を仕掛けない限りはどうしようもない。ならば刺剣を武器にして反撃する方法もあるが、どうやらホブゴブリンが手にしている短剣の方が刃は長く、そもそもナイとホブゴブリンでは体格に差があった。


短剣を使用した戦闘経験はナイもそれなりに積んでいるが、旋斧を手にしてからは殆ど短剣を使用する事もなくなり、昔ほどに上手く戦えない。今のナイに頼れる武器は存在せず、このままではやられると思った時にナイはアルの言葉を思い出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る