第107話 冒険者ギルドへ向かえ
「この街では1年に1度、街の住民全員で避難訓練を行う義務がある。もしも城壁を突破して魔物や賊が街の中に侵入した時、住民は冒険者ギルドの方へ避難する訓練を毎年やってるんだよ」
「冒険者ギルド……」
ナイはこの街に冒険者ギルドがある事は知っているが、実際に見た事はない。冒険者ギルドが存在するのは北側という話は聞いているが、イーシャンによると生き残った村人は避難訓練の通りに必ず街の北側に避難しているという。
「街の北側では冒険者達が住民を守るため、魔物を追い払って防衛線を敷いているところだろう。つまり、北側にさえ辿り着けば安全は保障される」
「なら、皆で避難しないと……」
「それが出来ないからここに残ってるんだよ。もう街中は魔物だらけだ、下手に移動しようとすれば俺達の命も危ない……特に今のこいつは下手に動かす事も出来ないからな」
イーシャン達が屋敷を街の北側に避難できない理由、それは屋敷の外に出て行けばいつ魔物に襲われるかも分からず、しかもこちらには重症人のドルトンも存在する。
もしも意識不明のドルトンを無理やりに運び込めば彼の命が危うく、だからこそ全員で避難する事が出来ない状況だった。まだ屋敷の中には20人近くの使用人と護衛が存在し、ここに残った者達はドルトンを慕い、彼を放っては置けないからここに残った物ばかりである。
「こいつが目を覚ますまでは俺もここから離れられねえ。ここに残った奴等もそうだ……だが、いつまでもこんな目立つ場所に隠れていられるはずがない」
「なら、どうすれば……」
「そこでお前の出番だ。ナイ、お前なら一人でも街の北側まで移動できるはずだ!!だからお前が冒険者に助けを求めて来い!!」
「僕が?」
ナイはイーシャンの言葉を聞いて驚くが、確かにこの状況下では街中を動ける人間がいるとすればナイ以外に存在しない。彼一人ならば魔物を倒して冒険者が防衛線を張っているはずの街の北側まで向かうのは難しくないだろう。
しかし、この屋敷で魔物に対抗できるのはナイ一人のため、もしもまた魔物が襲ってきたら今度こそ殺されてしまうかもしれない。その事にナイは不安を抱くと、イーシャンが彼を安心させるように告げた。
「俺達の事なら大丈夫だ、実はこの屋敷には地下に大きな倉庫があってな。そこに立てこもれば魔物共でも簡単に入り込む事は出来ない。食料や水も十分にあるし、そこに立てこもればなんとかなるはずだ」
「でも、ドルトンさんは……」
「こいつの事は俺に任せろ、お前は一刻も早く、冒険者ギルドに向かって助けを求めるんだ!!それしか方法はない!!」
「イーシャンさん……」
イーシャンの言葉を聞いて改めてナイはドルトンへ振り返り、確かに今の彼を救う力はナイにはない。不用意に動かす事が出来ないドルトンはこの屋敷に残しておくことしか出来ず、ナイは覚悟を決めた様に頷く。
「分かりました。僕、行ってきます!!」
「よし、その意気だ!!なら、こいつは俺からの餞別だ。持っていけ!!」
「これは?」
ナイの言葉を聞いてイーシャンは小袋を取り出し、それを渡す。ナイは小袋の中身を確認すると、緑色の玉のような物が入っている事に気付き、イーシャンは説明する。
「そいつは俺が作り出した薬草の丸薬だ。そいつを飲み込めば身体の回復も高まるし、何だったら潰して傷口に塗り込む事も出来るぞ。本当は回復薬を用意したかったんだがな、こいつの治療に使い切ったからな……」
「あ、ありがとうございます……大切に使います」
「おう、それじゃあ行ってこい!!ここは俺達に任せろ!!」
「はい!!ドルトンさんの事、お願いします!!」
小袋を受け取ったナイは腰に括り付けると、最後にドルトンへと振り返り、何としても救い出す事を誓う。もう二度と自分の大切な人を失わないと心に近い、ナイは部屋の窓を開いて外へ抜け出す。
屋敷の外へ向けてナイが走り出す姿を確認すると、イーシャンはため息を吐きながらドルトンへ振り返り、一刻も早く彼が目を覚ます事を祈る。
「ドルトン、さっさと起きろ……お前まで死んじまったら俺はどうすればいいんだ」
「……大丈夫じゃよ」
「なっ!?お、お前……目を覚ましていたのか!?」
ドルトンが目を開くと、それを見てイーシャンは驚愕の表情を浮かべ、彼はもう意識を取り戻していた事を知って戸惑う。一方でドルトンの方は身体を起き上げ、窓の外を眺める。
「ナイ……遂に自らの足で外に出てくれたか」
「お前、まさかナイがここへ来ることを知っていたのか?」
「心優しいあの子ならばきっと来てくれると思っておったよ……さあ、儂等もあの子のために生きねばならん。すぐに倉庫へ避難するぞ」
「お、おう……そうだな」
イーシャンはドルトンに肩を貸し、彼を倉庫まで運び込む準備を行う。彼等もナイのため、そして亡き親友のアルのためにも死ぬわけにはいかなかった――
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