第103話 回復魔法の副産物
「ドルトンさんの屋敷は……あっちか!!」
道を思い出しながらナイは移動を開始すると、先ほどまで聞こえていた住民の悲鳴が聞こえなくなり、この辺りの住民は避難したのか、あるいは既に魔物に殺されたのか、どちらにしろナイ以外の人間の気配はなくなった。
試しにナイは「隠密」や「無音歩行」の技能を発動しようとしたが、思うように上手く行かず、やはり半年間のブランクのせいでいくつかの技能が発動出来ない。
(やっぱり、技能は使えないか……でも、身体の方は思ったよりも動けるな。どうしてだろう?)
技能が思うように発動出来ない事にナイは残念に思うが、身体の方は先ほどから全力疾走しているのに全く疲れず、それどころか半年前と比べても足が速くなったような気がした。
この半年間はナイは身体を鍛える行為は行わず、せいぜい花壇の世話や雑用ぐらいしかしていない。村で暮らしていた頃よりも身体の方は動かしていないはずだが、不思議な事にいくら走っても疲れない。
(どうなってるんだ?なんだか前よりも身体が軽くなった気がする……いや、今はそんな事はいいか)
身体が想像以上に動ける事にナイは違和感を覚えながらも、この状況下では悪い事ではなく、むしろ都合が良かった。今は特に深く考えずにナイはドルトンの屋敷に向かおうとすると、ここで屋根の上から鳴き声が響く。
「ギギィッ!!」
「ギギギッ!!」
「ギィアッ!!」
「……ゴブリンか!!」
ナイは屋根に視線を向けると、そこには多数のゴブリンが立っている事に気付き、ゴブリン達は街道を移動するナイを発見すると喜び勇んで飛び降りてきた。
屋根から地上へ降り立ったゴブリン達はナイの後を追いかけ、その様子を見ていたナイは手にしていた長剣を抜く。普通の剣を扱うのは初めてだが、今はこれしか頼る武器がない。
(こいつらと戦って勘を少しでも取り戻さないと……)
迎撃などの技能は今の状態では当てには出来ず、ナイは技能に頼らずに自分の力だけで戦う事を決める。しばらく戦って戦闘の勘を思い出せば技能も扱えるようになるかもしれず、ナイは剣を構えるとゴブリン達と向き合う。
「来いっ!!」
『ギギィイイイッ!!』
迫りくるゴブリンの数は10体であり、子供の頃のナイがこの光景を目撃していたら怖くて何も出来なかっただろう。しかし、今のナイは子供の頃に無力だった彼ではない。
初めて扱う武器と久々の戦闘なので不安要素は大きかったが、それでもナイは恐れずに前へと踏み出す。ゴブリン程度に手こずるようではドルトンを救い出す事など出来るはずがない。
「はあああっ!!」
ナイは強く踏み込むと、この時に彼が踏み込んだ地面に軽く亀裂が走り、ナイは長剣を横薙ぎに振り払う。その結果、飛び掛かってきたゴブリン達の身体を切り裂く。
『ギィアアアッ!?』
『ギギィッ!?』
ゴブリン達の悲鳴が響き渡り、数匹のゴブリンが一撃で肉体を切り裂かれ、地面に倒れ込む。その様子を見ていた他のゴブリン達は足を止め、何が起きたのか理解できなかった。
攻撃を仕掛けたナイの方も目の前の光景が信じられず、自分の攻撃で一気に数体のゴブリンを倒した事を知って驚く。今回は「剛力」の技能も発動せず、ましてや強化薬も使用していないにも関わらず、ゴブリン達を一撃で倒した事にナイは戸惑う。
(何だ、この力……技能も発動していないのにどうして!?)
ナイは半年前よりも自分の身体能力が異常なまでに高くなっている事に気付き、これではまるで強化薬を使用したのと同じぐらいの力を引き出していた。
――実を言えばナイ自身の肉体は半年前よりも身体能力が高まっており、その理由は彼が「回復魔法」を覚えたお陰で聖属性の魔力を操れるようになった事が原因だった。
聖属性の魔法は何も肉体の再生機能を強化するだけではなく、使い方によっては肉体の身体能力を強化する。この半年の間にナイは他の人間の役に立つため、回復魔法の練習を行う。
元々ナイは聖属性の魔法素質が高く、更に毎日の魔法の練習によって魔法の容量が増え続けた。その結果、ナイは知らず知らずのうちに聖属性の魔力の影響で肉体の身体機能が上昇していたのだ。
半年前よりも見違える程にナイの身体能力は強化され、更に彼自身の年齢を考慮すれば未だにナイは成長期であり、より大きな力を身に付けるのは至極当然の結果だった。
(何だか分からないけど……この力があればいける!!)
ナイは意識を集中させ、片手で長剣を構えるとゴブリン達に視線を向ける。その表情を見てゴブリン達は恐怖を抱き、まるで大型の肉食獣に遭遇したかの様な危機感を抱く。
『ギィイイイッ!?』
「あっ……逃がすか!!」
ゴブリン達は悲鳴を上げて逃げ出そうとすると、それを見たナイは慌てて追いかける。成長したのは腕力だけではなく、足の方もナイは早くなっていた。
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