第97話 ドルトンの気持ち

「ナイよ……お前がが望むなら儂が教会に掛け合って儂が引き取る事も出来る。そうすれば自由に外に出れるのだぞ」

「ドルトンさん……」

「お前はまだ若い、それにアルの鍛えられたお陰で強くなった。狩人でも、冒険者でも、何ならば儂の所の護衛として働く事も出来るだろう。本当にここから出るつもりはないのか?」

「……ありません」

「ビャクは……外の世界でお主を待っているのだぞ」



ドルトンの言葉にナイは陽光教会から出る事はないと告げるが、最後の言葉にナイは硬直し、外の世界には未だにビャクがナイの帰りを待ち望んでいる事を知ると何も言えない。


ナイにとってはビャクは最後に残された家族であり、出来る事ならばもう一度会いたいと思っていた。しかし、今のナイは自分が忌み子であるが故に他の人間と関わればその人間も不幸にさせてしまうかもしれないと思い込んでいた。



「ビャクの事は……よろしくお願いします」

「全く、そういう強情な所だけはアルに似おって……だが、気が変わったらすぐに連絡してくれ。またここへ来るからな……その時は何か手土産を用意しよう」

「ドルトンさん……」



いくらナイが拒否をしようとドルトンはナイを説得する事を諦めず、彼としてはナイに幸せになってほしいと考えている。このままナイが教会の保護下で生活すれば多少は不自由ではあるが、それでも生きていく事に問題はないだろう。


しかし、一生この建物の中で過ごし、外の人間とは極力関わらない様に生きていくなどあまりにも不憫だった。そんな生活を続けていればいつかはナイの心が持たないと思ったドルトンは何としても彼を外の世界へ連れ出そうとした。



(ナイ、村の皆が死んだのはお前のせいではない。お前は自分のせいだと思い込んでいるが、そもそもお前がいなければ数年前、ホブゴブリンに村が襲われた時に儂等は死んでいた……お前がいたからこそ、あの村の人間は少なくとも3年は生き延びる事が出来た)



今から3年と半年前、ホブゴブリンがゴブリンを引き連れて村を襲撃した時、ナイが戦わなければ村人達は全員が殺されていただろう。つまり、ナイがいたからこそあの村の人間やその時に立ち寄っていたドルトンは生き延びる事が出来た。


ドルトンがこうして生きているのもナイのお陰であり、だからこそドルトンは自分を救ってくれたナイが幸せになってほしいと考えていた。そのために彼は諦めず、ナイを教会の外へ連れ出そうとする。



(この子は忌み子などではない、そもそも生まれた時から呪われた人間などいるはずがない。ナイよ、必ず儂がお前が幸せになれる道を見つけてみせるからな)



別れ際にドルトンはナイの頭を撫でようとしたが、いつの間にかナイも背丈が大きくなっている事に気付き、彼もあと1、2年も経過すれば大人になる事を実感する。


知らず知らずのうちにナイも成長している事を実感したドルトンは感慨深げな表情を浮かべるが、今日の所は引き返す事にした。



「さて、儂はもう行くよ。仕事の途中でな、外に部下を待たせておる」

「はい……ドルトンさん、また来てください」

「うむ、今度はもっと早く来れると思うからな。ついでにビャクの様子も見ておくよ」



ドルトンはナイに微笑むと、彼は礼拝堂から出て行こうとした。しかし、その様子を見送ったナイは言いようのない不安を覚え、ドルトンを呼び止めた。



「ドルトンさん!!」

「ぬおっ!?な、何だ?どうかしたのか?」

「あ、いや……すいません、何でもないです」



呼び止められたドルトンは驚いた表情を浮かべて振り返るが、そんな彼を見てナイはどうして自分が彼を引き留めたのか分からず、謝罪する。このまま彼を行かせれば何か良からぬ事が起きるかもしれないと思ったが、そんな事を伝えてもドルトンを困らせるだけである。


ナイの行動にドルトンは不思議に思うが、特に気にした風もなく改めて外へ出て行く。しかし、去り際のドルトンの後ろ姿にナイは無性に不安を覚え、ドルトンの後を追おうとした。



「ドルトンさ……」

「行けません、何をしているのですかナイ!!」



しかし、ナイが声をかける前にドルトンは扉の外に出てしまい、その後をナイが追いかけようとしたが、彼が扉の前に移動すると礼拝堂に立っていた修道女が注意する。


彼女の名前はインであり、この教会で暮らす修道女の中ではヨウの次に偉い立場の修道女だった。インは外に出ようとするナイを咎め、彼の頬を叩く。



「貴方は外に出られる立場ではないと言ったでしょう!!」

「うぐっ……すいません」

「全く、だからあれほど外の人間と接触するのを禁止すべきだと言ったというのに……この事はヨウ司教にも伝えておきます!!さあ、仕事に戻りなさい!!」

「はい……すいません」



インに叱りつけられたナイは彼女の言われた通りに自分の仕事へ戻ろうとしたが、去り際のドルトンの姿を思い出すと、どうにも落ち着く事が出来なかった――

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