第61話 習得「剛力」

時は遡り、村を襲撃したホブゴブリンの討伐した後、ナイが水晶の破片を使用した時に未収得技能一覧の中に新しい技能が追加されている事を確認にする。



『あれ……この間はなかったのにまた増えてる?』

『剛力――限界を超えた腕力を一時的に発揮できる』



画面に表示されていたのは「剛力」と呼ばれる技能であり、説明文によると怪力の上位互換に位置する技能だった。どうやらホブゴブリンとの戦闘を終えた後に覚えた技能らしく、戦闘にも役立ちそうな技能のためにナイは習得した。


剛力を身に付けたナイは外見は特に変化はなかったが、剛力を身に付けて以降にレベル1の状態でも旋斧を扱えるほどの力を身に付けた。ホブゴブリンと戦った時は事前に経験石を破壊してレベルを上げなければ旋斧を持ち歩く事も出来なかったのだが、剛力によってナイはレベル1の状態でも旋斧を扱えるようになる。



『うわっ……す、凄い!!』



剛力を覚えた後、ナイは旋斧を両手で掴むと簡単に持ち上げられ、流石に片手で扱うのは無理だが、レベルを上げていた時と同じぐらいの重量しか感じなかった。今ならば旋斧を使いこなせると思ったナイは試しに村の外に飛び出して手ごろな大きさの樹木に切り付ける。



『やああっ!!』



樹木に向けて旋斧を構えたナイは思い切り振り切ると、刃が樹皮に食い込み、そのまま容易く切断した。切り裂かれた樹木は二つに分かれ、その様子を見届けたナイは信じられない表情を浮かべた。



『な、なにこれ……こんな簡単に木が切れるなんて、信じられない』



自分が切り裂いた樹木に視線を向けてナイは戸惑い、新しく覚えた「剛力」の効果に戸惑う。この破壊力ならば魔物との戦闘でも役立ちそうに思えたが、樹木を切り裂いてからしばらくすると、ナイの肉体に痛みが走る。



『痛っ……な、何これ……!?』



唐突にナイは身体中に痛みが走り、何が起きたのかと戸惑う。貧弱の技能が発揮した時の様な疲労感と似た感覚が襲い掛かり、ナイは立っていられずに倒れ込む。


自分の身体に何が起きたのか訳が分からず、しばらく横たわっていると戻ってこないナイを心配してアルが迎えに来てくれた。彼は村の外で倒れているナイを見て驚き、すぐに家の中まで運び込む。



『全く、急に村の外に出たと思ったら心配かけさせやがって……』

『ご、ごめんね爺ちゃん……』

『まあ、この間の戦闘の疲れが出てきたんだろ。ゆっくり休むんだぞ、それとちゃんと薬は飲むんだぞ!!』

『うん……』



家の中に運び込まれたナイはアルに介抱され、この時はアルはナイが倒れたのはまだ病み上がりで無茶をしたせいだと思い込んでいたが、実際の所は違う。



(……この感じ、前にも覚えがある)



ナイが動けなくなったのは全身が酷い筋肉痛に襲われたせいであり、前にも何度か同じような経験をした事がある。それはレベルを上げた時に貧弱の効果でレベルが1に下がる際にもナイは身体が動けない程の疲労感に襲われる時と似ていた。


どうやら剛力の技能は肉体の限界を超えた力を得られる代わりに肉体に大きな負担を与えるらしく、怪力の技能以上に強力な反面、肉体の負荷の方も大きかった。特に腕の筋肉痛が酷く、ナイが普段から愛用している一角兎の滋養強壮剤を飲んでもしばらくの間は腕を動かすだけで痛みが走るほどである。



(この力、危険だな……)



剛力を使用すれば一時的に驚異的な力を得られる反面、肉体の負荷も大きい。使用後は激しい筋肉痛に襲われて動けなくなる事態を引き起こす可能性も高い。



(でも、これを使いこなせれば……もっと強くなれるかもしれない)



もしもホブゴブリンとの戦闘の前に剛力を習得していればナイは強化薬を使わずにホブゴブリンを倒せていたかもしれず、剛力は使い所を誤らなければ大きな力になるのは間違いない。


実際に今回倒れたのはナイが考えも無しに剛力を使い続けたからであり、もしも戦闘の際に一瞬だけ使用する程度なら肉体の負荷も抑えられるかもしれない。



(そうだ、爺ちゃんも言ってた。体を鍛えればその分に強くなれるんだ……この技能だってきっと使いこなせる)



普段からアルはナイに対してレベルを上げる方法だけが強くなれるわけではなく、地道に鍛錬を繰り返せば肉体も強くなれると言ってくれた。体を鍛えて頑丈な肉体を鍛え上げれば剛力を発動した時の負荷も抑えられるかもしれない。


最も身体を鍛えて筋力を身に付ける程に剛力を発動した時の力が強化され、更に肉体の負荷が大きくなる可能性も十分に高い。だが、逆に言えば強い肉体であればあるほどに剛力を発揮させたときの力が強まるともいえる。



(もっと体を鍛えないと……もっと、もっと強くなるんだ)



ホブゴブリンを倒せる程に強くなってもナイは満足せず、より強くなるために彼はこの日から旋斧を持ち歩くようになる。重い物を持ちながら行動すれば身体に自然と筋肉が身に着くと判断したが故の行動であり、アルもナイの考えを全て読み取ったわけではないが、何となく察してくれて止めはしなかった。


普段からナイが旋斧を常備している理由は身体を鍛えるため、魔物と遭遇した際に剛力を発動させ、旋斧を使用して倒すためである。そして今の彼はオークという強敵を相手にその力を遺憾なく発揮した――

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