第60話 オーク

(何が出てくる……?)



刺剣を構えながらナイは茂みの様子を伺うと、ここで予想外の事態が発生する。茂みから出てきたのは毛むくじゃらの腕であり、最初にそれを見たナイは熊が現れたのかと勘違いした。


茂みから現れたのは全身が毛皮で覆われた二足歩行の生物であり、最初は熊の類かと思ったナイだが、その生物の顔の形は明らかに熊ではなかった。顔の形はボアと似ており、猪の頭に全身が毛皮で覆われた生き物が現れる。



「プギィイッ……!!」

「なっ……オーク!?」

「グルルルッ……!!」



茂みから現れたのは魔獣の一種であり、名前はオークという猪のような化物だった。元々はこの地方には存在しない魔物だが、ナイもアルからその存在だけは聞かされていた。


オークはゴブリンよりも危険な存在でその力は熊を殴り殺せる力を持ち合わせ、その力はホブゴブリンをも上回るという。オークは全身を分厚い毛皮に覆われており、その毛皮は衝撃を緩和し、更には防寒性にも優れているため冬の間も行動する事が多い。



(どうしてオークがここに……いや、そんな事はどうでもいい!!)



ナイはオークに視線を向け、手にしていた刺剣を投げ込む。この際にナイが狙ったのはオークの顔面であり、分厚い毛皮に覆われていない箇所を狙う。



「このっ!!」

「プギャアッ!?」



投げつけられた刺剣はオークの顔面に向かうが、反射的にオークは右腕で顔面を庇い、腕に刺剣が突き刺さる。この際に分厚い毛皮を貫いて刺剣は突き刺さり、血が滲む。



「プギィイッ!?」

「くそっ……こうなったら!!」



刺剣が腕に突き刺さったオークは悲鳴を上げるが、致命傷とまではいかず、すぐに突き刺さった刺剣を引き抜く。その様子を見たナイは背中の旋斧に手を伸ばすが、先にビャクが動き出す。



「ウォオオンッ!!」

「プギィッ!?」

「ビャク!?」



ナイが旋斧を抜く前にビャクは駆け出すと、オークに向けて飛び込む。咄嗟にオークは左腕でビャクを振り払おうとするが、その腕に対してビャクは食らいつき、オークの悲鳴が再び森の中に響く。


左腕に喰らいついたビャクは離れる様子がなく、鋭い牙を食い込ませようとする。しかし、オークの分厚い毛皮と厚い脂肪によって牙は内部にまで食い込まず、それどころかオークは左腕を振り払って彼を近くの樹木に叩きつける。



「プギャアッ!!」

「ギャインッ!?」

「そんなっ!?」



ビャクが樹木に叩きつけられる光景を見てナイは悲鳴を上げ、ビャクは背中から樹木に強打されて倒れ込み、気絶したのか動かなくなった。その様子を見ていたナイはオークを睨みつけ、踏み込む。



「このっ……よくもっ!!」

「プギィイッ……!?」



背負っていた旋斧をナイは両手で引き抜くと、オークに目掛けて振り下ろす。その攻撃に対してオークは人間の子供が所持するには大きすぎる武器を見て慌てふためき、咄嗟に両腕で防ごうとした。


両腕を交差させて振り下ろされた旋斧を受け止めようとしたオークだったが、この時にナイは勢いよく踏み込み、力の限りに旋斧を放つ。この時にナイは毎日行う「薪割り」を思い返し、全力の一撃を繰り出す。



「はあああっ!!」

「プギャアアアアッ!?」



旋斧はオークの両腕に食い込んだ瞬間、激しい血飛沫が舞い上がり、地面にオークの両腕が倒れ込む。分厚い毛皮と厚い脂肪によって覆われたオークの腕でさえも旋斧を防ぐ事は出来ず、両腕を失ったオークは後ろ向きに倒れ込む。




――ホブゴブリンとの一戦を終えた後、旋斧はアルの手入れを受けて以前よりも切れ味を増しており、2年前の時よりも強力な武器に仕上がっていた。しかし、いくら武器が強力であろうと普通ならばレベル1のナイが扱える代物ではない。


だが、この2年の間にナイも成長し、身体を鍛え上げてきた。更に彼は2年の間に肉体を強化する技能をいくつか習得している。2年前の時は「腕力強化」と「怪力」しか身に付けていなかったが、現在の彼は更に新しく「剛力」と呼ばれる技能も身に付けていた――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る