第53話 小さな英雄

――ホブゴブリンとゴブリンの襲撃から数日後、村を救ったナイに対して村人たちはこれまでの態度を一変し、彼の事を大切に扱うようになった。



「よう、ナイ!!これを持ってけよ、今日採れたばかりの果物だ!!」

「あ、どうも……」

「ナイ、こいつも持って行けよ。さっき川で釣ったばかりの魚だ」

「えっ、いいんですか?」

「気にすんなっ!!何しろお前は村の英雄だからな、遠慮なんかするな!!」



村人達は今までナイの事を避けていたが、魔物の襲撃から救ってくれた事で彼の評価は一変し、今では村の英雄としてもてはやしている。そんな村人たちの態度にナイは戸惑うが、悪い気分ではなかった。


これまでのナイは村人から避けられ、一部の人間からは厄介者扱いされていた。だが、今はもう誰も彼の事を避けたりはせず、彼を虐めていたゴマンでさえも例外ではない。



「お、おい……ナイ」

「あ、ゴマン……」

「これ、うちのじいちゃんからお前に渡す様に言われたんだよ」



家に帰る途中、ナイはゴマンに遭遇し、彼から籠を渡される。中身は焼きたてのパンが入っており、美味しそうな匂いが漂う。



「うわ、美味しそう……でも、貰ってもいいの」

「良いんだよ、というか渡さないと僕が怒られるんだからさ……じゃあな」

「あ、うん……」



ゴマンは罰が悪そうな表情を浮かべて籠を押し付けると、そのまま立ち去ろうとした。だが、途中で思い留まったように振り返り、はっきりと告げた。



「お、おい!!ナイ、これだけは忘れるなよ!!」

「えっ?」

「村の英雄だからって調子に乗ってるみたいだけどな、僕だって大人になれば魔物なんかに負けないぐらい強くなるからな!!それを忘れるなよ、絶対にお前なんか追い越してやるからな!!」

「ええっ!?」

「僕の将来の夢は冒険者だ!!だからお前なんかに負けてられないんだよ……忘れるなよ、英雄になるのは僕だ!!お前なんかに絶対に負けないからな!!」



ゴマンは一方的にナイにそうまくし立てると、そのまま走り去る。その様子をナイは呆然と見送るが、そんな彼の肩を誰かが掴む。



「ははは、あの悪ガキめ!!どうやらお前を越えるつもりらしいな!!」

「あ、爺ちゃん……」

「まあ、これであいつもお前の事をいじめたりはしないだろう。冒険者になれるかどうかは分からないがな」



ナイの肩を掴んだのはアルだった。ゴブリンが襲撃してきたときに彼は負傷し、血を流しすぎた影響でしばらくの間は碌に動けない身体だったが、現在は無事に回復し、以前の様に普通に動けるほどになっていた。


アルはナイが村人から受け取った荷物を一緒に持ち上げ、家へと戻る。そんな彼にナイは言いにくそうな表情を浮かべ、口を開く。



「爺ちゃん、僕は……」

「英雄なんかじゃない、か?」

「……うん」



言葉を告げる前に自分の考えを察したアルにナイは頷き、彼は村人から自分が「英雄」として扱われる事に罪悪感を抱いていた。




――村がゴブリンの襲撃を受けた理由、それはナイが山で殺したホブゴブリンの仲間がナイの落とした武器を拾い上げ、人間の仕業だと気付いたからである。




ゴブリンが村を襲撃した理由は自分の不始末のせいだとナイは思い込んでいるが、それに対してアルは気にする必要はないと伝えた。



「何度も言っただろ、切っ掛けはどうであれお前はたった一人で魔物に立ち向かったんだ。そして一人で倒した……お前は村を救った事に変わりはないんだ」

「でも……」

「それに村の奴等も許してくれただろう?だったら気にする必要はねえ、あいつらにとってはお前は村の英雄なんだ」

「……うん」



ナイは全てが終わった後、アル達に真実を話した。村にゴブリンが攻めてきた理由は自分にあるかもしれない事を正直に話したが、村人達は許してくれた。


あの日の晩、ナイが血塗れになりながらも必死に一人で戦い、ゴブリンやホブゴブリンを倒した光景を村の大人達は見ていた。その彼の姿は正に村を守る英雄その物であり、誰も彼を責めなかった。


だが、それでもナイは自分が山でホブゴブリンを倒さなければこんな事態に陥らななかったのではないかと思ったが、そんな彼にアルは笑顔で告げる。



「本当にこの村に悪いと思ってるなら、これからは村の奴等のために頑張ればいいさ。爺ちゃんと一緒に狩猟に出て、いっぱい獲物を狩って村の奴等に分けてやれ。その方が村の奴等も喜んでくれるさ」

「えっ……そんな事でいいの?」

「ああ、そんな事でいいんだよ」



アルの言葉にナイは驚くが、確かに村人に悪いと思うのならこれからは村人のために尽くすのが一番かもしれない。そう考えたナイはアルに告げた。



「爺ちゃん、僕は一流の狩人になるよ。それで村の皆がお腹いっぱいになるまで獲物を狩るよ!!」

「ははは、あんまりやり過ぎると獲物がいなくなるからほどほどにな……」



二人は笑い合いながら自分の家に向かい、その姿は実の親子よりも仲睦まじく、微笑ましい光景だった――




※ここまでのご愛読ありがとうござ……い、いえ!!まだ終わりません!!申し訳ありませんがこれからは1日2話投稿になります(´・ω・)スイマセン

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る