第41話 強化薬
「そうだ、ならこれをアルの奴に渡してくれるか?」
「え?これは……?」
「そいつは
ドルトンは回復薬の他に赤色の液体が入った硝子瓶を取り出し、外見は赤色の回復薬のように見えるが、効果は大きく違う事を説明する。
「この強化薬を飲めば一時的にだが力が強くなるんだ。狩人のあいつにはきっと必要な物だろう」
「強化薬……でも、貰ってもいいんですか?」
「ああ、こんな上等な薬草を貰えたんだ。それならこれぐらい渡さないと商人の名折れだ」
ナイの言葉にドルトンは笑顔を浮かべ、実際にナイが用意した薬草は上質な物ばかりであり、回復薬と強化薬を渡しても十分な対価だった。
強化薬という初めて見る薬にナイは不思議そうに覗き込むが、話を聞く限りでは飲んだ直後は一時的に力を高める効果があるらしく、確かに戦闘沙汰になりやすい狩人のアルには必要な物かもしれない。
「ありがとうございます、爺ちゃんもきっと喜びます」
「ああ、気にしないでくれ。それよりも他に欲しい物はあるかい?」
「それなら……短剣とかありますか?出来れば頑丈な奴が欲しくて……」
「短剣か、それなら丁度いいのが……」
「た、大変だぁっ!!誰か来てくれ!!」
会話の際中に唐突に大声が響き渡り、何事かと全員が視線を向けると、そこには数名の大人達が血塗れのアルを引き連れて村の出入口に戻ってきた。その様子を見てナイは目を見開き、血を流している養父を見て混乱する。
「じ、爺ちゃん!?」
「う、ううっ……」
「アル!?いったいどうした、何があった!?」
「た、助けてくれ!!こいつ、俺達を救うためにこんな怪我を……」
血塗れのアルの元にナイは駆けつけ、すぐにドルトンも彼の元へ向かう。何が起きたのかアルは身体のあちこちが汚しており、すぐにナイは先ほど受け取った回復薬を取り出す。
「爺ちゃん!!これを飲んで!!」
「ナイ……か?お前、これをどうしたんだ……」
「いいから、早く飲んでよ!!」
「いや、飲ませる前に傷口にも振りかけた方が良い!!それを貸すんだ!!」
ナイはアルに必死に回復薬を飲ませようとしたが、それをドルトンが止めて彼は回復薬の1本を受け取ると傷口に注いでいく。
薬草の粉薬よりも回復薬の方が回復効果が高く、傷口に注いだ瞬間に再生を行い、傷が付いた箇所が塞がっていく。その光景にナイは驚き、改めて回復薬の効能を思い知らされる。
「アル、聞こえるか!!儂だ、ドルトンだ!!」
「うるせえ……そんなに耳元で騒がなくても聞こえてるよ」
「……血を流しすぎてるな。とにかく、今は休め」
「そ、そういうわけにはいかねえ……呑気に休んでいたらまた奴等がやってくる」
「奴等?」
アルの言葉にナイはどういう意味なのかと聞こうとしたが、その前に彼に同行していた大人達が先に説明を行う。彼等はアルに頼まれてボアを捕獲するための罠を仕掛けようとした時、突如現れた魔物に襲われたという。
「い、いきなり現れたんだ……ゴブリンの奴等が、急に俺達の前に現れて襲ってきたんだ」
「その時にアルは俺達を守るために必死に戦って……」
「ゴブリンが草原に……!?」
ゴブリンは山や森などを住処にする魔物であり、滅多に草原などには姿を現す事はない。それにも関わらずにゴブリンが現れて襲い掛かってきた事に誰もが信じられない表情を浮かべた。
「な、何でゴブリンの奴等が急に……」
「そんなの知るか、俺達が聞きたいぐらいだよ!!急にあいつらが現れて俺達に襲ってきたんだ!!」
「くそ、あいつら普通のゴブリンじゃなかった……特にあの背丈のでかい奴がやばかった!!きっと、あいつが噂に聞くホブゴブリンだぞ!!」
「ホブ……ゴブリン?」
ナイは昨日に遭遇した背丈の大きいゴブリン達の事を思い出し、草原に現れたゴブリンの中にも同じ姿をしたゴブリンが現れたという話を聞いて戸惑う。
山で遭遇したゴブリンの正体をここでナイは初めて「ホブゴブリン」と呼ばれる事に気付き、草原でアル達を襲ったのはホブゴブリンが率いたゴブリンだと知る。どうしてホブゴブリンとゴブリンの集団が急に草原に現れたのかは不明だが、村人たちはアルに守られたという。
「アルさんがいなければ俺達は全員死んでいた。あいつら、普通の強さじゃなかった……」
「すまない、アル……俺達を守るためにこんな大怪我をさせて」
「馬鹿野郎、奴等は逃げたんじゃない……あれはただの様子見だ、きっとあいつらはまた現れる。今度は俺達の命を狙いにな……」
「な、何だって!?」
「くそっ……血を流しすぎた、これじゃあしばらくは碌に動けねえ」
「無理をするな、いくら怪我を治したといってもその状態で動くのは危険過ぎる!!」
アルは立ち上がろうとしたが、負傷した際に血を流しすぎた影響で身体がまともに動かず、そんな彼をドルトンが抑え込む。普段のアルならば無理やりにでも引き剥がせただろうが、現在の彼は弱り切っていた。
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