第31話 観察眼の技能
「……爺ちゃん、あっちの茂みの方で何かが隠れている。多分、ゴブリンだと思う」
「何っ……!?」
「しっ……きっと待ち伏せしてるんだよ、気を付けてね」
「お、おう……」
ナイの言葉にアルは驚き、怪しまれないように二人は歩きながら進路方向に存在する茂みに視線を向けると、確かに注意深く観察しなければ分からないが僅かに茂みが揺れていた。
茂みの中に何かが潜んでいる事は間違いなく、相手に悟られないようにアルは腰に装着していた手斧に手を伸ばすと、茂みに向けて投げ飛ばす。
「ふんっ!!」
「ギャウッ!?」
茂みの中で待ち伏せしていたのか、首筋に手斧が突き刺さったゴブリンが現れると、血を噴き出しながら倒れ込む。その途端、他の場所からもゴブリンの驚愕の声が響き、次々と姿を現す。
「ギギィッ!?」
「ギィイッ!!」
「ギギギッ……!!」
「こいつら、隠れてやがったのか……よく気付いたな」
「爺ちゃん、僕も戦うよ!!」
最初に倒したのを除けば現れたゴブリンの数は3匹であり、それぞれが手に棍棒を手にしていた。それを確認したアルは予備の手斧を取り出すと、ナイも背中の籠を置いて右手に短剣を構える。この際にナイは逆手に短剣を持ち構え、相手の様子を伺う。
観察眼の技能のお陰で隠れている敵の位置を捉えるだけではなく、戦闘中でも相手の動きを注意深く観察し、敵がどのように動くのかを予想する。
「ギギィッ……!!」
「このっ!!」
「うおっ!?」
先頭に立っているゴブリンが動き出そうとした途端、ナイは先手を打って足元に落ちている小石を拾い上げ、相手が動く瞬間に投げ込む。
「ギャウッ!?」
「ギィッ!?」
「ギギィッ!?」
動き出そうとした先頭のゴブリンが小石を受けて怯んだ事により、後から続こうとしたゴブリン達は立ち止まった仲間によって慌てて自分達も止まろうとしたが、自分達も止められずに身体が衝突してしまう。
『ギャンッ!?』
「今だよ、爺ちゃん!!」
「お、おう……おらぁっ!!」
ナイの言葉にアルは頷き、3人まとめて倒れ込んだゴブリン達に対して彼は手斧を振りかざし、攻撃を仕掛けた――
――その日の夕方、ナイとアルは山で採取した大量の素材とゴブリンの経験石を手にして戻ってきた。今回は大収穫であり、あの後にナイは鹿や兎を見つけてくれた事で久々に村の人間におすそ分けできるほどの量の肉も確保できた。
「ナイ、今日はお手柄だったぞ!!やっぱりお前の俺の息子だな、狩人の才能がある!!」
「えへへ……でも、今日は偶々だよ」
家に戻ったナイはアルと共に鍋を味わい、今日は久々にご馳走が味わえた。だが、開け放たれた窓から入ってくる冷たい風に二人は身体を震わせ、すぐにアルは窓を閉じようと近づく。
「ふうっ……大分寒くなってきたな。もうすぐ秋も終わる、それまでに出来る限りの獲物を狩らないとな」
「でも、森も山も魔物が現れるようになって獲物も減ってきたんでしょ?」
「ああ、正直に言ってこれ以上の狩りは難しいだろうな。俺達だけの分ならともかく、村の人間全員の分まで確保するとなると厳しいな……」
ナイとアルがこの村に暮らせるのは狩猟した獲物を村の人間にも分け与えているからであり、最近は碌に獲物を捕まえられてこない事から不満を抱く者もいた。だが、魔物のせいで狩猟も思うように上手く行かず、アルも内心では困っていた。
今日は収穫が多い方ではあったが、冬を迎えれば狩猟するのも厳しい環境となり、獲物も多くは狩る事は出来ない。だからこそ冬を迎える前に村人全員が満足するだけの大物を狩猟する必要があった。
(……ボアを仕留めるしかない、か)
アルは心の中で村から少し離れた場所で出現するようになった「ボア」と呼ばれる魔獣を思い出す(ちなみに魔獣とは獣型の魔物の事を指しており、一角兎も魔獣に属してはいるがゴブリンなどはこれには含まれない)。
ボアは魔獣種の中でも身体が大きく、しかも肉は美味なので人気は高い。普通の猪よりも一回りや二回りの大きさを誇るため、このボアを狩る事が出来れば村の食料問題も解決する。
(この年齢で奴等を仕留める事が出来るか……いや、やるしかない)
この村で暮らすためには村人のために貢献しなればならず、アルは本格的にボアを倒す方法を考える。そんな彼を見てナイは何か考え込み、自分もアルのために何かできる事はないのかと悩む。
(爺ちゃん、きっとボアを狩ろうとしてるんだ。だからあの斧を手入れをしてるんだ……)
アルがボアを仕留めようとしている事はナイも薄々は勘付いており、この数日の間はアルが家にある斧を磨いている姿をよく見かけた。アルが大物を仕留めようとするとき、彼は必ず同じ斧を使用する。
普段は家の中にある倉庫で保管しているが、数年前に一度だけナイはアルがその斧を使う時を見た事がある。その斧は普通の斧ではなく、そもそも斧というには異質な形状だった。
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