第28話 力だけではなく、知識も身に付ける

「――たくっ、お前は本当に強いのか弱いのか分からないな」

「うわっ……熱いよ、爺ちゃん」

「馬鹿野郎!!男ならこれぐらいの熱さが丁度いいんだ!!」



山から戻った後、アルはナイと共に風呂に入り、身体を洗う。今回の狩猟は結局は食用となる肉は兎しか捕まえられず、代わりに倒した魔物の経験石は持ち帰った。


経験石はそれなりに高く買い取ってくれるため、街などに赴いた時に売却し、金を作る予定だった。今日は色々とあったため、アルとナイは身体を洗うために風呂へと入る。ちなみに風呂に入れるのは一週間に一度程度であり、この村は井戸の水を汲んでいるので風呂を用意するのもかなりの重労働なのだ。



「ふうっ……今日は疲れたね」

「そうか?儂は毎日これを繰り返しているからな。今日は楽な方だぞ、酷い時は山の中を歩き回って1匹も獲物が捕まえられずに帰る時もあるからな」

「そういえばこの間、ゴマンの奴に爺ちゃんが獲物を捕まえてきてくれないなんて文句を言われたよ……爺ちゃんがどれだけ頑張ってるのか知らないくせに」

「村長の所の悪ガキか……まあ、確かに最近は魔物共のせいで狩猟も上手くなってないからな。今度会った時は謝らないとな」

「でも、爺ちゃんのせいじゃないのに……」

「それでもこの村に住まわせてもらってるんだ。ちゃんと筋は通さないとな……今度は大物を狙うか」



アルとナイがこの村に暮らせるのは狩人である彼しか野生の動物の肉を確保できないためであり、村人に狩猟した動物を渡す事を引きかえに村に住まわせてもらっている。アルとしても最近は碌な成果がない事を気にしていた。


彼は昼間に山の中を散策中、ナイから草原に「ボア」を見かけたという話を思い出し、本格的にボアを狩猟するべきか悩む。その一方で彼は背中を流してくれるナイに視線を向け、思い出したように呟く。



「そうだ、ナイ……これが終わったら爺ちゃんと一緒に薬を作るぞ」

「え?薬って……また薬草の粉薬を作るの?」

「いや、今回は新しい薬の作り方を教える。一角兎の角を使って滋養強壮剤を作るんだ。お前も明日になったら必要になるだろうからな」

「ええっ……あの苦い薬?」



ナイが一角兎の群れを倒した時に入手した角を利用し、今朝に彼が飲んだ薬の作り方をアルは教える事を告げる。するとナイは今朝に飲んだ薬の苦味を思い出し、渋い表情を浮かべた。



「文句を言うな、あの薬のお陰で身体が楽になるんだろうがっ!!」

「あいてっ!?」



文句を告げるナイに対してアルは容赦なく拳骨を食らわせ、薬の作り方を知っておかなければ自分がいない場合、ナイが倒れても誰も助けてくれない事を諭す。



「儂がいない間にお前がまた倒れたらどうする!?薬がなければお前はずっと動けないままだぞ!!」

「ううっ……ごめんなさい」

「分かればいいんだ。いいか、一流の狩人になるならちょっとした薬学も身に付けないといけないんだ。後で薬の調合法を教えてやるからしっかり覚えろ。分からない事があったら爺ちゃんに何でも聞け」

「うん、分かったよ」



アルの言葉にナイは確かに薬の調合の仕方を分かれば彼の不在の間に自分が薬を作り出せる事を知り、いちいちアルの手を煩わせない事に気付く。忙しい養父のため、自分で薬を作る方法もしっかりと覚えておく必要があった――





――この日からナイは本格的に薬学を学び始め、野草などを利用した薬の調合法をアルから教わる。最初の内は失敗も多かったが、毎日繰り返して練習し、アルが一人で狩猟に出向く時は家の中で調合を行う。


調合に必要な素材の回収は山や森に赴く時に行い、この際に薬となる野草の回収も怠らない。だが、時期は間もなく冬を迎えようとしており、植物には厳しい時期を迎えると薬の素材となる野草の調達も難しくなっていく。


一方で学ぶべき事は薬の調合法だけではなく、魔物と対峙した時の戦闘技術も磨く必要があった。ナイの「迎撃」の弱点は相手から仕掛けて来なければ発動できないため、仮にナイから仕掛ける場合は当てにならない弱点が判明した。


その点も含めてナイも自分自身で攻撃を仕掛け、魔物を仕留める技術を磨く必要があった。しかし、非力なナイが魔物に攻撃を仕掛けて仕留めるとなると、相当な鍛錬が必要であった。



(覚える事は本当にいっぱいあるな……でも、頑張るぞ!!)



毎日忙しい日々を送る中、ナイは挫けずに頑張ってアルの指示通りに生活を送る。毎朝目が覚めると薪割りと水汲みを行い、筋力を鍛え上げる。家の仕事を終えるとアルと共に狩猟に出向き、山や森の中を歩き回る事で自然と体力の方も身に付ける。


筋肉痛や疲労で身体が動けなくなった時は調合した薬を飲んで身体を治し、仕事に励む。こんな生活をナイは一か月以上も過ごし、やがて彼は誕生日を迎えた。偶然にも10才の誕生日を迎えた日、ナイは遂に次の技能の習得に必要な「SP」を集めきった。

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