第27話 迎撃の弱点

「ギギィッ……!?」

「ゴブリン!?」

「お前は……さっき逃げ出した奴か」



二人の後方から現れたのは先ほど1匹だけ逃げ出した背丈の低いゴブリンである事が判明し、相手の方は驚いた表情を浮かべていた。どうやら尾行していたわけではないらしく、偶然にも遭遇してしまったらしい。


茂みを掻き分けて現れたゴブリンは慌てて距離を取るが、今度は逃げ出さずに手にしていた棍棒を構える。その様子を見てアルは手斧を構えるが、ここで先ほどナイがゴブリンを倒した事を思い出し、彼に任せる事にした。



「ナイ、お前ひとりであいつを倒せるか?」

「えっ!?」

「どうした?自信がないなら爺ちゃんがこいつを倒してやるが……」



アルの言葉にナイは驚き、普段の彼ならば何としてもナイを守ろうと行動していただろう。だが、アルはナイが既に一角兎やゴブリンを倒すだけの実力を身に付けている事は知っており、ここは敢えて彼に任せる事にする。


ナイは改めてゴブリンに振り返ると、相手は怯えたように身体を震わせ、他のゴブリンと比べて迫力はなかった。そのせいかナイの方も緊張せず、今ならば自分一人でも倒せるのではないかと考え、短剣を引き抜く。



「や、やってみるよ」

「大丈夫だ、さっきのように倒せばいいんだ。もしも危なくなったら爺ちゃんが助けてやるからな」

「うん……」

「ギ、ギギィッ……!!」



ゴブリンはナイが短剣を構えたのを見ると一層に身体を震わせ、その様子を見てナイは少しだけ可哀想に思えたが、ここで退くわけにはいかない。怯えている相手だろうと魔物ならば油断は出来ず、短剣を構える。


しかし、ここでナイはある事に気付いた。それはナイはこれまでの戦闘で自分から攻撃を仕掛けた事はなく、そもそも彼が頼りにしている「迎撃」の技能は相手から攻撃を仕掛けて来ないと発動しないのだ。



(……ど、どうやって攻撃すればいいんだろう?)



短剣を手にしたナイは戸惑い、相手が仕掛けてくれば迎撃の技能が発動して勝手に身体が動いて反撃を仕掛けるのだが、敵の方が動かなければ迎撃は発動しない。いくら待ってもゴブリンが仕掛ける様子はなく、アルもどちらが動かない事に疑問を抱く。



「どうした?敵は怯えているぞ、仕掛けるなら今しかないぞ!!」

「そ、それはそうだけど……」

「ギギィッ……!!」



アルの言葉にナイは自分から仕掛けないといけない事は分かっているが、身体をどのように動かせばいいのか分からない。ゴブリンもナイが仕掛けて来ない事から不思議に思い、相手も緊張しているのだと悟る。


互いに膠着状態が続き、それを見ているアルの方がじれったく思う。だが、迎撃の技能に頼れない状況ではナイはどのように魔物に攻撃すればいいのか分からず、困り果てた。



(どうすればいいんだ!?このままだとまずい気がするのに……そうだ、今まで攻撃してきた時は……)



ここでナイは自分が手にした短剣に視線を向け、一角兎やゴブリンと戦った時は短剣を逆手に持ち替えて攻撃をした事を思い出す。すぐにナイは逆手に短剣を持ち替えるとゴブリンは警戒心を抱いたように棍棒を握りしめる力を強める。



(うん、この持ち方の方が使いやすい気がする。後は何処を攻撃するかだけど……やっぱり、あそこだ)



初めてゴブリンを倒した時の事をナイは思い返し、最初に襲われた時はナイはゴブリンの首筋を切り裂いた。人型の魔物であるゴブリンの急所は人間と同じ位置に存在し、そもそも大抵の生物は首を切られれば生きてはいられない。


逆手に短剣を構えなおし、照準を首筋に狙いを定めたナイはゴブリンに近付く。狙うとすればゴブリンが隙を生み出した瞬間に全力で飛び込み、首元を切り裂くしかない。



「やああっ!!」

「ギギィッ!?」

「なっ!?馬鹿、焦り過ぎだ!!」



十分に距離が近付くと、ナイは思い切ってゴブリンに目掛けて飛び込む。その様子を見てアルは咄嗟に声を上げ、ゴブリンの方は飛び掛かってきたナイを見て驚いたように身体を逸らす。


結果から言えばナイが振り抜いた短剣は空振りしてしまい、それどころかナイは地面に転んでしまう。最初にゴブリンに襲われた時に攻撃が成功したのは相手が仕掛けてきたからであり、不用意に飛び込んだ所で攻撃が当たるはずがない。



「あいたっ!?」

「ギ、ギギィッ!!」

「しまった!!ナイ、避けろっ!?」



背中を見せてしまったナイに対してゴブリンは棍棒を振りかざそうとするが、それを目撃したアルは慌てて彼を助けようとした。だが、この時にゴブリンが攻撃を仕掛けようとした瞬間、ナイの「迎撃」の技能が発動した。



「せいやぁっ!!」

「ギィアッ!?」

「な、何っ!?」



倒れた状態からナイは身体を反転させると、仰向けの状態から右足を繰り出し、棍棒を振りかざそうとしたゴブリンの膝を蹴りつける。体勢を崩したゴブリンは前のめりに倒れ込みそうになったが、その隙にナイは短剣を振り抜く。



「はああっ!!」

「ギィアアアアッ!?」

「うおっ!?」



逆手に持ち替えた短剣がゴブリンの首筋を通過し、鮮血が舞う。その様子を見てアルは驚愕の表情を浮かべ、一方でナイの方は地面に再び倒れ込む。


迎撃が咄嗟に発動したお陰でナイはゴブリンに攻撃を与える事に成功し、背丈の小さいゴブリンは地面に倒れ込み、やがて動かなくなった。その様子を見てアルは呆然とするが、ナイの方は安堵の表情を浮かべ、自分の身体に視線を向ける。



(た、助かった……)



結局は迎撃が発動したお陰で危機を乗り越えられたが、もしも技能が上手く発動していなければナイは今頃殺されていただろう。その事を理解すると、ナイは迎撃の技能に頼り過ぎる事の危険性を改めて思い知らされた。

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