第14話 レベルダウン

――ナイが倒れた理由、それはアルには心当たりがあった。ナイの話を聞く限り、夜更けにナイは満月を見ようと外に出た時、異様な脱力感に襲われて倒れ込んだ。その話を聞いた段階でアルはナイの身体の異変の原因が「貧弱」の技能である事を突き止めた。


陽光教会にてナイのステータスが判明した時、彼もナイが身に付けていた「貧弱」の技能の内容は覚えていた。それは日付が変更する度にレベルがリセットされるという内容であり、この能力のせいでナイはどれだけ頑張ってレベルを上げたとしても次の日にはレベルが1に戻されてしまう。



(くそっ……どうしてこの子だけがこんな目に)



アルは家の中で先ほどから黙って座り込むナイに視線を向け、何と声を掛ければいいのか分からなかった。昨日はナイが一角兎を一人で倒したと聞いた時、彼は安心してしまった。


一角兎は魔物の中ではゴブリンよりも力の弱い魔物として認識されているが、それでも普通の子供が勝てる相手ではない。兎のように可愛らしい外見をしていても一角兎の戦闘力は馬鹿に出来ず、実際にアルもナイを庇うために負傷したほどである。


一角兎の突進力は侮れず、あの鋭くて頑丈な角で突き刺されれば大人の人間であろうと致命傷を負う。そんな一角兎を色々な幸運が重なったとはいえ、ナイはたった一人で倒したのだ。



(俺だて魔物を初めて倒したのは十代の後半ぐらいだ。だけど、ナイの奴はまだ10才にもなっていないのに倒した……くそ、なのに一晩でその成果が消えるなんてないだろう!!)



ナイが倒れた理由、それは間違いなく貧弱の技能の効果「レベルリセット」が関係していた。レベル1のナイは一角兎に止めを刺した時に「」と呼ばれる力を得たのだ。


経験値とはアルも詳しくは把握していないが、魔物を倒す時に得られるレベルを上げるのに必要な物という事は理解している。ナイは昨日の戦闘で一角兎を倒した事により、経験値を入手してレベルが上がった。


昨日の夜の時点まではナイのレベルは2に上昇していた。だが、日付が変わった瞬間にナイの「貧弱」の技能が効果を発揮し、強制的にレベルをリセットされた。つまり、あれだけ苦労して魔物を倒したにも関わらず、ナイはレベル1に戻ってしまう。



(何が技能だ!!こんなもん、呪いじゃねえか……くそっ!!)



アルは自分の頭の中に浮かんだ「呪い」という単語に苛立ちを抱き、陽光教会の修道女がナイの事を「忌み子」と呼んだ事を思い出す。あの時の事を思い出すと今にも暴れ出したい気分になるが、ナイが傍にいる間は彼を驚かせるような真似は出来ない。



(忌み子だと……ふざけがやって、誰がそんな名前を考えつきやがった!!)




――この世界にはナイのように普通の人間からすれば最悪な効果しか発揮しない技能を持って生まれてくる子供も存在する。彼等はまるで生まれた時から呪われているかのような能力を持っている事から何時の時代からか「忌み子」と呼ばれるようになった。




忌み子として生まれた子供は他の人間から恐れられ、酷い時は何の罪もないのに処刑される事もあった。彼等が恐れられる理由、それは彼等の技能が次世代の子供に受け継がれる可能性もあるからである。


生まれてくる子供の多くは親の世代が身に付けていた技能が受け継がれる事が多く、仮に忌み子である子供が結婚し、子供を産んだ場合はその子供が忌み子の技能を受け継ぐ可能性もある。だからこそ陽光教会は彼等を保護という名目で隔離を行う。


普通は忌み子が誕生した場合、陽光教会が引き取って彼等を世話するのが当たり前だった。忌み子は陽光教会の元で生活し、異性とはなるべく接触しないように同性だけが管理する教会へと送り込まれる。


教会の引き取られた忌み子は死ぬまで教会の元で過ごし、仮に脱走でも図ろうとすれば犯罪者として国の兵士に捕縛され、最悪の場合は処刑される。その話を知っていたからこそアルはナイを教会には預ける事が出来なかった。



(くそ、どうしてだ……なんでナイがこんな目に遭わないといけないんだ!!)



ナイを実の子供のように大切に思うアルは嘆き悲しみ、彼に見られないように顔を背ける。だが、一方でナイの方はそんなアルの胸中を知らず、自分が身に付けた「迎撃」の技能を一刻も早く試したいと思っていた。



(迎撃か……どんな技能なんだろう)



昨日に一角兎に殺されかけたにも関わらず、ナイは自分が新しく覚えた技能を試したい気持ちが抑えきれず、何故か今日は珍しく静かなアルを置いて外へ出て行こうとする。アルはナイが家の外に出て行こうとしている事に気付かず、部屋の隅で塞ぎ込んでいた――

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