第13話 「迎撃」の習得
「うっ……!?」
水晶の破片の輝きが増すと、ナイの肉体に熱い何かが流れ込む感覚に陥る。陽光教会にて儀式を受けた時と同じように自分の肉体に新たな力が宿った事に気付く。
「……これで覚えたのかな?」
感覚が元に戻るとナイは戸惑いながらも自分の身体を確認するが、特に変化はない。今回は身体に魔法陣のような物は浮き上がってはいないが、ステータス画面を確認すると新しい技能が追加されていた。
――――ナイ――――
種族:人間
状態:普通
年齢:9才
レベル:2
SP《スキルポイント》:0
―――技能一覧―――
・貧弱――日付が変更する事にレベルがリセットされる
・迎撃――敵対する相手が攻撃を仕掛けた際、迅速な攻撃動作で反攻に転じる
――――――――――
画面上には「迎撃」の技能も追加されており、これでナイは貧弱以外の技能も身に付ける事に成功した。SPを使用すれば新しい技能を覚えられる事も判明し、同時に全てのSPを消費してしまう。
もう少し考えて能力を覚えるべきかと思ったが、どうやらレベルを上昇させる毎にSPは増えるらしく、しかもアル達の会話を思い出すとレベルは年齢を重ねるごとに増えるらしい。
(もうすぐ僕も10才になるし、その時にSPも増えるのか……でも、成人するまでしかSPが上がらないなら新しい技能は覚えられないのか)
SPはレベルが上昇する時に自動に追加されるため、仮にナイがこの世界の人間の成人年齢である「15才」を迎えるまでは毎年にSPが1ずつ増える。そう考えるとナイが大人になるまでに身に付けるSPは「6」となり、残念ながら新しい技能は覚えられない。
だが、一角兎を倒した際にナイのレベルが上がった事が判明し、原理は不明だが魔物を倒せばレベルが上がる事はナイも初めて知った。一角兎をまた倒せばレベルが上がる可能性もあるが、あんな危険な魔物と何度も戦うなど命が幾つあっても足りない。
(もうあんな怖い思いをしたくない……でも、技能をもっと覚えれば駄目な僕も強くなるかもしれない)
今よりも小さい時からナイは自分の身体が他の子供と比べても弱い事は理解しており、村の子供達と一緒に遊ぶ事はないのも彼の身体が原因だった。他の子と遊ぶにしてもナイの身体は軟弱過ぎて遊びに付いていけない。
『お前と遊ぶのつまんないもん』
『いつも怪我するから遊びにくいんだよ』
『君が怪我したら僕達のせいにされるかもしれないから……』
子供達はナイの事を腫物のように扱い、虐める事は決してないが、関わろうとはしない。だからいつもナイは一人で遊ぶ事しか出来ず、アルを心配させないように他の子供達と遊んでいるふりをして外に出ている。
(……もしも僕が普通の子と同じぐらいに強くなれたら皆と一緒に遊べるかな)
陽光教会にてナイは自分の事を「忌み子」と呼んだ修道女の事を思い出し、ヨウという名の司教もナイが普通の子供ではないと告げていた。だが、ナイはアルから離れたくはなく、他の子とも一緒に遊びたいと思っていた。
ナイは「貧弱」の技能を身に付けて生まれた自分が悲しくて悔しくてたまらなかったが、レベルを上げてSPを貯めれば新しい技能を覚える事を知った。ならばこの調子で技能をもっと習得すればこんな非力な自分でも強くなれるのではないかと考え直す。
(もっと、強くなりたい!!)
満月を見上げながらナイは右手の水晶の破片を握りしめると、決意を新たに家に引き返そうとした。しかし、この時にナイの肉体に異変が生じる。
「うっ……な、なにこれ……!?」
家に戻ろうとした瞬間、唐突にナイは異様な脱力感に襲われ、立つ事もままならずに倒れ込む。何が起きたのかナイはわけわからず、そのまま意識を失ってしまう――
――しばらくすると、家で寝ていたアルが目を覚まし、酒を飲み過ぎたせいか尿意に襲われて厠に向かおうとした。だが、この時に彼はナイがいない事に気付き、慌てて外へと出た。
「ナイ!?何処にいる!?」
「うっ……」
「ナイ!!」
外で倒れているナイを見てアルは顔色を青ざめ、すぐに彼の元へ向かう。どうしてナイが外で倒れているのかと戸惑いながらもアルはナイを抱き上げると、ナイは目を覚ます。
「じ、爺ちゃん……」
「ナイ!!どうしたんだ!?なんでこんな所に……」
「きゅ、急に力が抜けて……動けなくなって」
「いったい何が……いや、まさか……!?」
アルはナイの話を聞いて心当たりがあるのか顔色を変え、とりあえずは彼を家の中に運び込む。発見したのが早かったことが幸いし、もしも時期が冬であったら大変な事になっていた。
家に戻ったナイは朝まで寝かしつけると何事もなかったように身体は回復した。だが、アルの方はナイの様子を見て彼は頭を悩ませる。ナイが急に倒れた原因は間違いなく、彼の技能に関する事なのは間違いなかった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます