第5話 後悔しますよ?
「うあっ!?」
「なっ!?しまった……ナイ、大丈夫か!?」
「う、腕が……腕が痛いよ」
ナイの悲鳴を聞いてアルは正気を取り戻すと、慌ててナイの腕を確認する。昨日に骨が折れた箇所がまたも腫れており、どうやら完全に治り切っていない状態で強い衝撃を与えたために骨に罅が入ったらしい。
普通ならば薬草を使用すれば骨が折れたとしても1日も経過すれば子供でも完治する。しかし、ナイの場合はレベルが1のせいで他の子供と比べても肉体は脆く、治療にも時間が掛かる。
「痛い、痛いよ爺ちゃん……」
「ナ、ナイ……」
「退いて下さい、その子の腕を診せて下さい」
ヨウはアルを押し退けると彼女はナイの腕を確認し、彼女は首元に掲げていたペンダントを取り出す。何をするつもりなのかとアルは警戒したが、彼女はペンダントを傷口に翳すと、呪文を唱えた。
「聖なる光よ、この者の傷を癒したまえ……ヒール」
「うっ……あれ、痛くなくなった?」
「こいつは……回復魔法か?」
「その通りです、ヨウ様に感謝しなさい」
ペンダントが光り輝いた瞬間、腕の腫れが引いていくとナイは痛みが消えてなくなり、普通に腕を動かせるようになった。その様子を見てアルは驚くが、修道女が誇らしげに答える。
回復魔法という言葉にナイは驚いた様子を浮かべ、彼は初めて「魔法」なる力を見た。ヨウはそんな彼の頭を撫でると、改めてアルに振り返って答えた。
「……もう分かったでしょう。この子の身体は普通ではありません、ここまで暮らしてこれたのは運が良かっただけです」
「ぐうっ……」
「この子の事を本当に大切に思うのなら、我が教会に預けてください。悪いようにはしません、もしも会いたくなればこの教会へ来られても構いません」
「……綺麗ごとを抜かすな、ここにいてもナイは幸せにはなれねえ」
「では貴方がこの子の面倒を一生見れるのですか?そんな事は不可能でしょう、きっと後悔する事になりますよ」
「うるさいっ!!」
「うわっ!?」
「あ、待ちなさい!?」
アルはヨウの言葉を聞いても意思は曲げず、今度はナイを抱きかかえて駆け出す。その様子を見た修道女は止めようとしたが、ヨウはそれを制した。
「いいんです、いかせましょう」
「ですけど、あの子供は忌み子です!!放っておくわけには……」
「大丈夫です、その内に手が負えずに必ず私達の元へ連れてくるでしょう……必ず」
ヨウは去っていく二人の様子を見ても動じた様子は見せず、必ずここに二人が戻る日が来ると確信した――
――陽光教会から逃げる様に立ち去った後、アルは無言のままナイを連れて馬に乗って村に向かっていた。ナイはずっと無言のアルに不安を抱き、陽光教会での出来事を思い返す。
(忌み子って……どういう意味なんだろう)
忌み子という言葉はアルも初めて知り、それがどのような意味なのかは知らない。だが、言葉の響きから決して良い意味ではない事だけは分かり、だからこそアルが黙り込んでいる事は分かった。
(もしかして僕のお父さんとお母さんが捨てた理由って……)
実の両親が赤子の頃に自分を捨てたという話はナイも聞かされており、その理由は自分が「忌み子」だからではないのかとナイは考えた。自分が忌み子だから両親は捨て、そしてアルにも迷惑をかけているというのではないかと思い込み、落ち込んでしまう。
自分が普通の子供として生まれなかった事にナイは悔しく思い、生みの親も育ての親にも迷惑をかけている自分自身に情けなく思う。だが、そんなナイの不安を感じ取ったのか、ここでアルが口を開く。
「ナイ……男がめそめそと泣くな」
「うくっ……えっ?」
「いいか、お前は男として生まれた。なら、男らしく生きろ!!どんな男だろうと人前では泣いたら駄目だ、他人に涙を見せるなんて格好悪いだろうが……それと、あいつらの言葉なんて信じるな。お前は忌み子なんかじゃない、俺の自慢の子供だ!!」
「爺ちゃん……」
「ナイ、男なら強く生きろ!!きっと、お前が生まれ持った力にだって意味はあるんだ!!この世に生まれてきたら駄目な奴なんているわけがねえ!!」
アルはまるでナイというよりは自分自身にも言い聞かせるように叫び、馬を走らせる。そんなアルの言葉にナイは不思議と気分が落ち着き、彼の大きくてたくましい背中を見つめる。
「ナイ、今まで儂は少しお前を甘やかしすぎたな……これからお前を一人前の男として育てる!!」
「一人前の……男?」
「そうだ、お前は強くならないといけないんだ!!俺がいなくなっても一人で生きていけるぐらいに強くなるんだ!!」
「でも、爺ちゃん……」
「でも、じゃない!!いいか、約束しろ!!儂よりも強い男になると……いや、この国で一番強い男になると、約束だぞ!!」
「う、うん……俺、強くなるよ!!」
「良く言った!!なら、明日から強くなるための特訓だ!!」
ナイの言葉を聞いてアルは振り返ると満面の笑みを浮かべ、その笑顔にナイは先ほどまで感じていた不安は消え去り、二人は馬に乗って草原を駆け抜けた――
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