第146話 Side セシル その4

 修道院での私の立ち位置は微妙だ。

 3年もの間ダンジョンに居た間に道院自体が変わってしまい、かつて私が知っている修道院とは違う生活の流れになっているからだ。


 尤も私はギルドの前でずっと座っていたので、日中どう過ごすのかわかっていない。

 もしかしたら周りが私に対してどう接すればいいのか対応を決めかねているだけかもしれないが。


 食事と入浴を済ませると、教母様へ部屋に来るように言われ、教母様の部屋に向かう。


 部屋の扉をノックすると、

「どうぞ。」

 どうやらこの時間は私しか訪ねる者がいないらしく、教母様の返事があったので私は部屋に入る。


「おかえりなさい。上手くいかなかったのね。私が鎧を預かっていたから仕方がないのだけれど、待ち合わせのお相手もいたのでしょ?どうして声をかけなかったのかしら?」

 

 私はまさかデルクが私を認識していないとは夢にも思わず、なので近くに居た人がデルクとは思ってもおらず、声をかけてデルクではなかった場合なんて恐ろしすぎてそちらを見もしなかった事を告げる。


「まあセシルちゃん、貴女まだ男性相手だと怖いの?」


 私は男性が怖い。怖いがそうと気づかれぬように平静を装っているが、怖いものは怖いのだ。だが不思議とデルクが傍に居ると安心し、男性が・・・・デルク以外がいても、デルクが傍に居れば何とかなっていた。レイナウトもそうだ。デルクの親友だから信用し、何とか耐えた。

 もしかしたらヘルメットで顔を覆っていたせいかもしれないが。ヘルメットを被っていれば顔が隠れ表情が分からなくなる。


「まあいいわ。それよりこの鎧ですが、このままでは不便でしょうから私の方で珠を仕込んでおきました。セシルちゃんがいつでも鎧の脱着ができるようになっています。鎧とヘルメットは別々に外せますからね。」


「ありがとうございます!」

 私ではどうしても脱着が出来なかったこの鎧。

 せめてヘルメットが取れたらよかったのだが、それすらどうすれば外せる事が出来るのかわからずじまいだった。


「どうして以前この鎧をセシルに装備するように命令した司祭様が、鎧の脱着方法を教示しなかったのか疑問ですけれど、今まで不便だったでしょう。今後は別にこの鎧でダンジョンに向かわなくても済みますが、性能だけで言えばこの鎧は最強クラスですから今後もダンジョンに向かったり、魔物と対峙するのであればこの鎧を装備する事を勧めます。そしてね、ここをこう押せば・・・・2つ同時に押せば脱着できます。そして自動的に鎧が別の場所へ展開しますから、脱着後はセシルが所持している収納かばんに仕舞う事も簡単に出来ますからね。」


 私はさっそく試した。

 成程これならばいつでもどこでも装備を変更できるし、鎧を外す事もできる。

 教母様に感謝だ。


 この後幾つか雑談をし、自室に戻り私は早めに寝た。

 そして翌日。


 食事をし、待ち合わせ場所に向かうべく準備をする。


 昨日着ていったワンピースを再び身にまとい、さらにその上から鎧を着こむ。

 これならばデルクも私と気が付くだろう。


 教母様に出かける旨を伝え、早速待ち合わせ場所に向かう。


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


 私が昨日の場所に向かうと、まだデルクは来ていないようだったので、昨日の椅子に腰掛けた。

 暫くすると待ち合わせの時間にはまだまだ余裕があったが、誰かが私の方にやってくる。

 ヘルメットをかぶっているので、こっそりそちらを見るが・・・・デルクだ!

 そして明らかにこちらにやってくる。


 デルクは私の前に立つと、

「セシル、昨日はごめんね。」

 う・・・・どうしたらいい?ここにずっと居たというべきか?

「いやいいんだ。こうして無事デルクとまた会えた。」


 私はどうした事か、今この瞬間この鎧を外すべきだと本能が告げ?深く考えないで鎧を脱着すべく先日教母様に教えて下さった方法で装備を外す。

 何かの付与なのだろうが、勝手に外れ勝手に別の場所へ展開されていく。


 デルクを見るとかなり驚いているようだ。

 そして私はあまりにも考えなしにこの行動をとってしまった事に気が付き、失敗したと悟った。

 何せデルクは私の顔を見、次に上から下まで私を見、再び上まで視線が向かい、またもや顔を見ていたからだ。


 しまった!私の顔はやはり醜いんだ。だからデルクはなんて酷い顔だったのだろうとそう思っているんだ。しまった。どうしてそこに気が付かないのだ?

 教母様はああいうお人だから、私を傷つけないよう私の顔をよい風に言って下さった。しかしやはり私の顔は醜いのだ。

 だけどデルクの反応は違った。


「え?セ・・・・セシル?あ、あのさ、も・・・・もしかして昨日ここにずっと居たのってセシルだったの?」


 どうやらここに誰かが居たのは知っていたようだが、私だとは思っていなかったようだ。


「ああ、すまなかった。デルクは私が鎧姿で現れると思っていたのだろう。昨日は失念していたが、この・・・・酷い顔は今までデルクは見た事がなかった・・・・のだな?」


 何だかデルクが不思議そうな顔をしている。

「うん、セシルの顔を見るのって今日が初めてだけど・・・・その・・・・あまりにも理想すぎて僕どうしたらいいんだろう・・・・つまりセシルの顔は、僕が今まで見たどの女性の顔よりも素敵すぎて驚いているんだ・・・それとセシル?君は自分を醜いと本気で思っているのかい?」


「何を言っているんだ?こんな酷女はそういないぞ?」

「・・・・セシル?君の顔はその・・・・とても素敵すぎて、僕嬉しいんだ。どこでどうセシルが勘違いしているか分からないけれど、君はとてもかわいくて魅力的なお顔をしているよ!今はまだその14歳だからかわいい感じだけど、将来とんでもない美人になる事間違いなしだよ!!って何言ってるんだろう僕は。まあ有り体に言えば、僕はセシルのお顔がとても素敵だと思うし・・・・だけどねセシル、僕はセシルの顔が理想だろうが見るに堪えない容姿だろうがそんな事はどうでもいいんだ。いや実際はそりゃあ素敵なお顔の方が良いんだけどね、だけど僕はセシルの容姿が素敵だからセシルとずっと行動を共にしていた訳じゃないからね・・・・って何を言ってるんだ僕は。」


 そう言うデルクの顔は真っ赤だ。そしてこんなに褒めちぎられた私もきっと真っ赤な顔だろう。


 まあこうして再びデルクと会えて私はとても嬉しい。


 だがこの時私は単にデルクに会えた事を嬉しいと思っていると思っていたようだが、どうやら別の感情が芽生えてしまっていた事にまだ気が付いていなかった。

 後日教母様に思いっきりからかわれるまでその気持ちに気が付いていなかったのだが。

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