第58話 暫くはこの階層で採掘です

 念の為に周囲を警戒しますが、僕達以外に動きのある者・モノは発見できませんでした。

 たぶん居ないとは思いましたが、何事にも例外はあります。

 ですがここには例外はなく、他の階層と同じようでまずは安心しました。

「デルク、岩ばかり。どうするの?」

 セシルが聞いてきますが、どうしよう?

 たぶんここでの採掘は僕がする事になるだろうから、僕次第なんです。


 だからと言ってセシル1人で下の階層に向かってもらい、魔獣を仕留めさせる訳にはいきません。

 万が一不測の事態が発生しても、誰も助けてくれませんから。

「僕は今から岩を調べて何かないか探してみるので、場合によっては採掘を手伝って下さい。セシルの剣より柔らかい物体でしたら、剣でその物体を切って採掘をしてもらうかもしれません。」

 恐らくは僕の魔法で岩を切り刻んで採掘をする事になるとは思いますけど。


「わかった。」

 そう言ってセシルは、僕の少し後ろを付いてきてくれてます。


 僕は岩を見ながら歩いていきます。

 うーん、ただの岩に見えますし・・・・これは鉄?

 鉄はこの付近であれば其処彼処にみられるので、この階層ではごくありふれた素材なのでしょう。

 まあ、何もなければ少しぐらい鉄を採掘しておいた方がいいのかな?

 そんな事を思いながら岩を見ていきますが、なかなかこれといった物は何も見いだせません。


 単なる岩、もしくは鉄。

 つまり鉄鉱石しか今の所発見できていません。


 ですがまあ、この階層もくまなく探せば数日はかかりそうなので、じっくり探しましょう。


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


 数時間探しましたが、何も発見できません。

 これはもしかして、岩の奥に何か違う鉱石があるのかも。

 そう思って、僕は適当な岩の前に立ち、土魔法で岩を加工していきます。

 先ほど上の階層で地面に壁を出現させたように、今回の場合は地面ではなく眼前の岩から素材を確保していく感じなのですけど。


 こうして暫く岩をどかす?作業を繰り返していると、ふと商人のジョブ、つまり鑑定で引っかかるものが見えました。

 あれ?なんだろう?

 岩の奥、土魔術で岩をどんどんどん撤去していくと奥が見えましたが、何やら少し色味の違う物体を見い出しました。

 その物体を鑑定すると、

 【ミスリル】


 と表示が出ます。

 ミスリル!


 鉄鉱石と違い、ミスリルは希少な鉱物。

 市場にもそうそう出回らない、剣に加工すれば恐ろしく高価な値段で取引されていると認識しています。

 それが目の前に!

 ただ、埋蔵量はそれほど多くはなさそうで、剣一振り分ぐらいにはなるのかな?という程度です。


 僕はこのミスリルが埋蔵されていると思われる周囲を土魔術でどんどん撤去していきます。

 そしてミスリルのある部分を広範囲に見えるようにします。

「セシル、どうやらミスリルがあるようなんだ!」

「ミスリル?この剣と同じ素材のミスリル?」


 セシルの剣は、神聖騎士のジョブを引き当てたセシルに、教会が与えた業物と聞いています。

 その剣と共にセシルが装備しているのは、神聖騎士専用の特別装備なのだとか。


「うん、セシルの剣と同じ素材かどうかはわからないけれど、ミスリルです。今からミスリルを採掘しようと思いますが、恐らく魔力をごっそり持っていかれると思うので、万が一があれば僕をお願いします。たぶん魔力の枯渇で気を失いますから。」


「わ、わかった。何かあれば私がデルクを何とかしよう。」

 セシルは神妙な顔つきで・・・・顔はわからないので、何となくそんな表情をしている、という雰囲気でという意味ですが、セシルはいつでも僕を支えてくれる体勢になっています。

「じゃあ今から、魔法でミスリルがあると思われる部分を切り取っていきます。ここはダンジョンなので、切り取ったらすぐに収納カバンに入れておかないとそのうち消えますから、回収もお願いします。このかばんの口に素材を押し付けてもらえば、勝手に吸収してくれますから。」

「わかった。任せてくれ。」

 問題はいくつかあります。

 まずはミスリルのある部分だけをうまく切り取れるのか。

 この場合は切り出すかな?

 次にもし切り取れたとして、回収はできるのか。

 それ以前に僕の魔力は持つのか。

 まあ試してみない事には始まりませんし、このまま手をこまねいていては、今まで僕が魔法でミスリルを見えるようにした部分が元に戻ってしまいますから。

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