第16話

1月2日今日はやっと不動明王のところへ行ける日。これまで毎日合流し続けて睡眠時間をお互いほとんど取れず、体力の限界を感じていた。不動明王に助けてもらえるはず。期待しながらレンタカーを走らせる。


現地辺りに到着すると、とてつもない渋滞が発生している。初詣全国3位ということを甘く見ていた。新勝寺の周りをぐるぐる回ってようやく空いている駐車場発見。新勝寺の仲見世通りは人でごった返している。


「凄い人だなこりゃ。鰻が有名なんだって!ほらみてこれ。不動明王のお守り。」


お土産屋で康平があみに見せたのはしずく型の木彫りの小さな根付。開けてみると中には小さな不動明王が彫ってある。


「いいじゃんそれ。私が買ってあげるよ。守護観音のグッズ持ってると良いことありそうじゃん。」


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あみの頭に直接語り掛ける声がする。

「トキが一緒に来ているのか。良く来た。」

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「ん!?ちょっと待って、今良く来たって声がした。


「ほんと!?それって不動明王さんなんじゃないの!?」


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「この後の護摩炊きに必ず来い。」

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「何かゴマ何とかがあるからそれに来いって言ってる。」


ゴマ何とか?すかさずスマホで新勝寺のホームページをチェックする。


「あった!護摩炊きっていうのがあって、焚火をして不動明王のご利益を貰おうみたいなやつをやってるんだって。この後は、えーと、あと20分後じゃん!」


急いで向かうが本堂前の階段は大渋滞。もうちょっとで護摩炊きが始まっちゃうっていうのに。ようやく本堂の中に到着したと同時に大きな太鼓の音が鳴り響いた。護摩炊き開始の合図だ。間に合ったんだ。本堂の中は超満員で俺らは壁沿いで立ち見状態。お坊さんが10人ほど登場し、皆でお経を唱え始める。


真ん中の焚火ゾーンに偉いんだなと思われる紫色の衣装を着たお坊さんが小さな木を積み始め、それに火を付けた。


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護摩炊きの炎が火の粉を挙げながら大きく燃え上がると同時にそこから不動明王が現れた。炎の中から立ち上がると康平とあみの方へ近づく。体長4mはあろう、左手に縄を持ち、右手には木彫りの大きな剣を手にしている。肌は真っ黒で唯一白い白目がとても目立つ。金色の装飾を身にまとい、その背中には現世では考えられない黒色の炎をまとっている。


「ショウキン様、トキ様お久しぶりで御座います。遠いところから良くお越しくださいました。」


その高く可愛らしい声の正体は、不動明王を挟むように小さな姿を現した。体長1mほどのコンガラ童子とセイタカ童子だ。


「お不動様、ようやくショウキン様が来てくださいました。うれしい限りですね。」


不動明王はその言葉に耳をぴくりと動かして反応するが返答はしない。そして地面が揺れるような低い声で語りだした。

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