第11話

プルルルル、プルルルル、あっ、出た。


「おはよう。あれから大丈夫だった??」


「おはよー。大丈夫だったけど、色々やることがあって結局あんまり寝れなかったー。」


一番下のお子さんの幼稚園バスのお見送りがあるらしいから、近くの公園で合流することになった。


「はじめまして、さめちゃんです。」


「ほら、ご挨拶いつも出来るじゃん!?」


「はじめまして、たかとです。」


「偉いねー!ちゃんとご挨拶出来るなんて。」


かわいいー!幼稚園の年中さんだって。おめめぱっちりでまつ毛の長い男の子。こんなかわいい子がいたら溺愛しちゃうあみちゃんの気持ちちょっとわかるかも。幼稚園バスに乗り込んだたーくんを見送る。見えなくなるまでバスの中からずっと手を振ってくれていた。


「今日さ、ぷりとのお誕生日会を夜に小さなお店を貸し切ってやるんだけど、さめちゃんも来てよ。」


「ぷりと???」


「ああ、プリティーなたかと。略してぷりと。」


なんじゃそりゃ。今日も仕事休みだし、人がいっぱい集まったほうがたーくんも喜ぶかな。出席の約束をし、時間にお店で待ち合わせることに。お互い疲れてるし、家に帰ってもう一眠りだ。


プルルルル、プルルルル。んーーー、電話。今何時だ?げ、もう3時だって。


「はい…もしもし。」


「さめちゃん?」


「あみちゃん?どうしたのー?俺まだ寝ちゃってたよ。」


「あのね、やっぱり言わなきゃと思って。あれからずっと着いて来られてて、今もベランダから監視されてるんだ…。」


たーくんのお迎えを終えてから、俺たちはファミレスで合流することになった。


「なんで早く言ってくれなかったの!?」


「ごめん、心配かけたくなくって。」


「それで、誰が着いてきてるの?」


「黒いスーツのでかい男の人がすぐ2~3mぐらいのところに。あと、さめちゃんが座ってる後ろのガラスの外におばさんが立ってる。」


「何か言ってきてたりするの?」


「男の人は何か意味わからないことを唱えてる感じ。おばさんも外でずっとぶつぶつ言ってる。」


やっぱりまだ終わってなかったのか。どうすればいいのか全然わからない。2人の間に不穏な空気が流れる。注文したデザートを食べ始めるが、2人ともなかなか食が進まない。やたら喉だけ乾いて、ドリンクバーを取りに行く。


「さめちゃん、さめちゃんがドリンクバー取りに行く時、男の人が物凄い勢いで遠くまで避けるんだよね。やっぱりさめちゃんに近づきたくないみたい。」


「やっぱりって、ほかにもそういうことあったの?」


「言うの忘れてたんだけど、昨日逃げる時階段で1回追いつかれたんだよ。あのおじさんがさめちゃんの手を握った瞬間、バチッって音がしたと思ったら吹っ飛んでったの。」


それは凄い。そういえば、昨日俺には人を守る力があるとか何とか言われてたよね、このことなのかな。俺には近づけないのか。


この後、トイレに行ったりドリンクバーをやたら取りに行ってみたところ、やはり瞬時にワープして俺とは接触しないようにしているらしい。俺にそういう力があるのかも…そうだ。


「あみちゃん、俺が着けてるこのブレスレット。着けてみて。」


俺のお気に入りで毎日身に着けているエスニックショップで買ったこのブレスレット。もしかしたら俺の力が染みついてるかも。


「あったかい…。」


俺のブレスレットから熱を感じると言うあみちゃん。これは俺の感が当たってるはず。あみちゃんはブレスレットを自分の腕に身に着けようとするが、着ける途中で落としたり金具を合わせようとしているが、カチャカチャ音が鳴るばかりでなかなか着けられないでいる。こういうの普段着けたりしないから、苦手なのかな。


「大丈夫?着けるのむずかしい?」


「違うの、着けようとするとテーブルの下から黒っぽい手が出て来て邪魔してくる…。」


かなりぞっとしたが、俺が着けてあげれば大丈夫だろう。


「男の人、めちゃくちゃ怒ってる。」


やっぱり効果があるんだ。一度ブレスレットを受け取り、力いっぱい握りしめる。一緒に居れない時のためにいっぱいいっぱい力を入れておいてあげよう。


少ししてあみちゃんがファミレスの紙ナプキンにペンで何かを書き始めた。


「こういうマークが頭にずっと浮かんでるんだよね。」


完成した絵を見せてもらうと、これは平和教のマークだ。それと知りもしない平和教の祝詞の歌詞をつらつらと書き始めている。


「ずっと後ろで唱えられてるし、頭の中に浮かんでくるし。手が勝手に動く。」


気味が悪いからすぐに辞めさせるが、あみちゃんはどうにもこうにも書きたくてうずうずしている。


まだ二人で居られる時は良いけど、これから先どうしていけばいいんだろう。自分があんなところに誘ってしまったばっかりに、こんなことに巻き込んでしまった。後悔が積もる。

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