シナリオ本編

怪傑はコーヒーハウスにいる

GM:お昼の〈錆色人魚軒〉。珈琲館には今日も大勢の才人ウィッツ・悪人・暇人たちが集まって談話に興じてます。「話題の新作劇、もう観たかい?」「ハッハッハ、噂に違わぬ大駄作でしたな!」「批評会があるけどこのあと14時間ほど空いてるかな」「いいとも!」ガヤガヤ


アトランタ:批評会14時間、地獄ですわ。


ポポ:この街キングスフォール、もしやロンドンではなく古代ローマなのでは?


GM:それもモチーフの一つかも。


ポポ:とりま復活してお店に帰還。ひどい目に遭った(自業自得)。


GM/客:「おや、“ぐるぐる”殿」「退院おめでとー」


ポポ:ありありー。みんなも真っ黒なサンドイッチとか食べちゃダメだよー。


アトランタ:食材を無駄にすまいという義侠心……素晴らしい心意気ですわ。


ヘキサ:(店内の会話に耳を澄ませ)おかしい。誰もこのボクの話をしていない。


GM:じゃあ今からする(笑)。この店でひと際賑やかなのは、冒険者と冒険作家の集まるテーブル。「ねぇねぇ。今週の冒険者新聞アドベンチャラーズ・ウィークリー、見てくださいよ!」



 冒険者向け記事を載せた――粗悪な印刷で片面刷りの――週刊新聞。見出しには『蛮族列車強盗団に強奪された宝石10万ガメル相当、冒険者が奪還!』の文字。



GM/客:「新聞では、宝石を取り戻したのは“三怪傑さんかいけつ”の皆さんだって予想を書いてるけど本当なんですか!?」 本当です。前回はそんな冒険をした。


アトランタ:なんかPTパーティ名ついてる! ……フフフ、どうでしょうね。


ポポ:へっちゃんに聞くといいよ。あることないこと教えてくれるから。


ヘキサ:(←へっちゃん) かい? このボクが、怪しい?


GM:怪傑かいけつ。人並外れた才能を持つ不思議な人物って意味。


アトランタ:ズバッと解決したりする人たちですわ。


ヘキサ:なるほど。……んなーっはっはっは! 当然我々さ。人に愛される以上、人を愛さなければいけないからね!(テーブルの上に立ったりする)


アトランタ:迷惑な客ですわ!(笑)


GM/客:「やはりそうだったんですね! じゃあ以前、ミリッツァ神殿の孤児院に多額の寄付をしたのもお三方が!」そうならそう。


アトランタ:匿名なので不明ですわ! やや不明。不明かもしれない。


ヘキサ:彼女がそう言うのなら、ボクとポポの手柄ということにしよう。


ポポ:「そうだっけ?」とぼけているのか素で忘れているのか、そもそも本当に寄付したのかさえ分からないよー。


GM:ワーワー。三人の活躍に湧くコーヒーハウス。……その中で、面白くなさそうな顔をしている青年冒険者が一人。「ううむ、なぜ誰もオレのパーティの話をしていないんだーっ!?」


ポポ:お、だれだれ?


GM:彼の名は“太陽の黒剣サンスポット”エドガー。最近、皆さんに次ぐ活躍を見せているグレートソード級冒険者です。北区の大手ギルド所属。……太陽モチーフの入れ墨を全身に刻んだ、上半身裸の蛮人風戦士。背には二つ名の通り『ティダン聖印を刻まれた黒いグレートソード』を担いでます。


アトランタ:もしかして太陽の子ソレイユですの?


ヘキサ:なんだいそれ?


アトランタ:太陽神が生み出したマッチョ種族ですわ。南方のレーゼルドーン大陸に住んでて、みんなデカくて元気で半裸で光る。反面、恐ろしいほど知力が低くて、夕日と一緒に寝てしまいますの。


ポポ:ソレイユ語はポージングだけで会話できるってウワサだよ(むきっ)。


ヘキサ:それ、文字とかどうしてるんだい?(笑)


アトランタ:踊る人の絵なのかもしれませんわね。アステカみたいに。



 当時、魔法使いGMウォーロックが先行して流していたウワサ。



GM:まぁ、彼はソレイユ集落で生まれ育っただけで種族もデータも人間です。


ヘキサ:エドガー、皆の愛を独り占めしてすまない! でも事実だからね。安心するといい。君のことはボクが愛そう。


GM/エドガー:「いけ好かないヤツ! その細腕でなぜオレより活躍できるんだ」


ヘキサ:技が物をいうのさ。なんなら、初めての手ほどきはボクが……。



 ……あんまりにきわどいセリフは修正かカット(笑)。



GM/エドガー:「ハジメってなんだ!? 勝負なら負けないぞ!」


ポポ:見た目の頼れ具合はエドガーくんの方が圧倒的に上なのにねー。


GM/エドガー:「だろう? この筋力24! 見る目があるな……飴を奢ってやろう」


ポポ:わーい(もきゅもきゅ)。


アトランタ:眩しいばかりではあるのですけれどね。キャラ付けがしっかりしているというか。


GM/エドガー:「……しかし、お前たちが毎回示し合わせたように優れた冒険者でいいヤツな所を見せつけるせいで、オレの活躍が霞んでるじゃないか。くそう。オレらだって先週は、北の遺跡で魔神の群れを倒したのにー!」


ポポ:いいヤツだとだめなの!? ポポも、もっとわるいヤツにならなきゃなのかな。


アトランタ:エドガーは残念がっているだけで、貴方がいいヤツであることは良く思っているのですよ、ポポ。


ヘキサ:もちろんさ。彼の視線を感じたまえよ、ポポ。


GM/エドガー:嘘偽りのない済んだ瞳をしてる。「だが! オレはいつか、この都一番の戦士になるという誓いを立てている。そして近々、大きな依頼に挑む予定だ。大戦果を挙げて新聞の見出し記事はオレが貰うぞ!」と、高らかに宣言。


アトランタ:あら、それは楽しみですわ。ワタクシたちも、うかうかはしていられませんわね。オーッホッホッホ!


ヘキサ:……エドガー。君の実力を疑う訳じゃあないが、気をつけなよ。


GM/エドガー:「安心しろ。パーティはオレも含めて5人組の選りすぐり。失敗などありえん!」


***


GM:……そうしてエドガーが冒険に出発してから、二週間後。その日届いた冒険者新聞の記事は、コーヒーハウスを騒然させることになる。ざわざわ。


ポポ:なんか騒がしいね。どったの?(とことこ)


GM:見出し記事。『“太陽の黒剣”たち冒険者パーティ、壊滅か!!』


ポポ:!?


アトランタ:……予告通り、エドガーが新聞の見出しを飾りましたわ(沈痛な表情)。


GM:記事は以下のように続きます。『先日、“太陽の黒剣”たちは北の遺跡群を探索中に魔神の襲撃を受け、隊の三名が死亡する大被害を受けながら帰還したという。北駅区では魔神の目撃情報も相次いでおり、この事態に対し〈学究院〉と北区自治組合は声明を発表しておらず――』


ヘキサ:エドガー……!(机につっ伏すように倒れ込みながら)


アトランタ:死者三名。誰が生き残ったのでしょうか……。


ヘキサ:なんてことだ。ボクは愛する者が、むざむざ奪われるのを見ていることしかできないのか。


GM:新聞を読んでいる途中。女給バーメイドが、君たちのテーブル横を通りがかり、ひそりと耳打ちしてゆく。「仕事よ。依頼人が来ているわ」。店奥にある依頼相談用の個室の方を顎で指します。


アトランタ:(略式ながらシーンへ祈りを捧げてから)冒険者の常、ですわね。ええ、今行きますわ。


ポポ:エドガーくん、無事だといいんだけど……。



***



GM:個室では、人の良い笑みを浮かべた老齢の男性がソファにかけて待ってました。


ポポ:おじゃましまーす。


GM:「こんにちは、三怪傑。活躍は耳にしているよ」彼はビンセント商会の会長、“古梟”ビンセント・アンドレ(人間/男/73歳)。北駅区を守る自治組合の組合長で、〈アウンガルテン遺跡群学究院〉の理事にも名を連ねている人物。身元のしっかりした公式NPCです。


ヘキサ:へぇ、大人物だね。


GM/ビンセント:(自己紹介を終えて)「エドガーたちの話はもう耳にしているだろう。今日は……その件で依頼に来た。ここ最近、魔神がたびたび都北部の遺跡に出没しているという噂は、知ってはいるかね?」


アトランタ:ええ。ある程度は。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●〈アウンガルテン遺跡群〉

 キングスフォールの北に広がる都市遺跡群の総称です。地上付近は魔動機文明の都市遺跡ですが、少し潜ると魔法文明の遺跡になっているなど、異なる時代の都市遺跡が何層にも重なっており、未だ全容は明らかになっていません。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ポポ:なんだか物々しいよね。


GM/ビンセント:「その魔神の出現は、遺跡地下に眠っていた呪われたアーティファクトが関係しているらしいのだ。学究院はエドガーたちに、問題の品物の回収を依頼していたのだが、今回の失敗でそれが魔神に持ち去られてしまった」


ヘキサ:その結果が、これかい。


GM/ビンセント:「彼らに任せれば、間違いないと思ったのだがね……。君たちには、そのアーティファクトの捜索・回収任務を引き継いでもらいたい」


アトランタ:いいでしょう。彼らで成せなかったならば順当な采配ですわ、


GM/ビンセント:「そう言ってもらえるとは心強い。では、詳細な説明に移るとしよう」異変のきっかけは1か月前の深夜、ビンセント氏の前に姿を現していたそうです。


***


 ――今からひと月前の深夜。


 北区にある自治組合の事務所で仕事をしていたビンセントは、窓の外に『魔神としか呼べない姿をした怪物』が立っているのを目撃したそうです。


 驚くビンセントを前に、魔神は不吉な予言を投げかけてきました。


 「――封印は開かれり」

 「これより一月のうちに〈堕落のオーブ〉の力で、この地に災いを振り撒こう」


 直後、護衛が部屋に駆け付け、魔神に向けて銃を発砲すると、魔神は闇に溶け込むようにして姿を消したそうです。


 ビンセントは学究院と冒険者たちに、遺跡の文献を調査させました。すると、あの魔神の言葉通り〈堕落のオーブ〉なる魔神召喚に関わる呪具の伝承と、それを封印した未探索区画が存在することが判明したのです。


***


GM/ビンセント:「……回収に向かったエドガーらは遺跡内で『赤い魔神』に襲われたという。〈堕落のオーブ〉も、その魔神によって持ち去られたそうだ」


ヘキサ:……赤い魔神、ふむふむ。


GM/ビンセント:「問題の『赤い魔神』は遺跡から飛び立ち、都の壁内に飛び去ったのが目撃されている。それと同時期に遺跡近くの北駅区、さらには壁内の中央公園付近でも、低位の魔神の出没が確認され始めた」


ポポ:なんと、魔神が街中に。それってどのくらい危ないの?


アトランタ:ものすごく危ないですわ! 三ヵ月間放置されたケーキぐらいには。


ポポ:なんと!(理解)


ヘキサ:その理解でいいのかい?(笑)


ポポ:というのはPCロールとして、魔神は人族都市の〈守りの剣〉が効かないから無茶苦茶ヤバいのだ。


GM:とにかく「『赤い魔神』を討伐しオーブを奪還する」のが依頼目標です。報酬は1人7500Gと相場より高め。秘密厳守でヨロ。


アトランタ:……ちなみに、調査隊の生き残りはどうなっていますの?


GM/ビンセント:「学究院のケストナー教授とエドガーが帰還している。3日前に帰還したところで、今は北駅区にいるはずだ」負傷は魔法で癒されたようですが、エドナーは脱力し、人が変わったようなありさまだそうです。


ヘキサ:筋肉しぼんじゃうな。


ポポ:エドガーくんは無事だったんだ……よかった。いやよくはないのか。


アトランタ:不幸中の幸い、とも言えませんが。良かったと言っておきましょう。



 さらに話を聞くと、北駅区に出没しているのは魔界の獣アザービースト(4レベル)、中央平和公園で目撃されたのは水棲魔神ヌズマル(3レベル)であることも判明。しかし、問題の『赤い魔神』の行方は依然として知れていないようです。

 


ヘキサ:当座はその3~4レベル魔神たちを相手取るかい?


GM:そちらは今のところ出没数も少ないので、騒ぎになる前に初級冒険者たちで対処できてます。3人なら遭遇しても戦闘スキップ。


アトランタ:問題は首魁ですわ。流石にそちらはなんとも言えませんか。


ポポ:エドガーくんたちが、やられちゃったくらいだもんね。


ヘキサ:『赤い魔神』については、エドガーに聞いた方が早そうか。


GM:ビンセント氏から提供できる情報はこのくらい。学究院やケストナー教授にも話は通してあるから、調査したいことがあれば自由に出入りできます。


アトランタ:……結構! 「ではこの事件、大怪盗“白指姫”及び“三怪傑”が預かりましたわ! 件の財宝、見事盗み取って差し上げますっ」


ヘキサ:なっ! 名乗りのタイミングを盗まれた……!


アトランタ:戦いは既に始まっていてよ!(笑)


GM/ビンセント:「魔法文明時代の遺産には我々の思いもよらぬ危険な品が数多く存在する。気を付けてくれ」


ポポ:はーい。と、この世で最も信用ならない返事をする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る