第36話
中学時代の自分を振り返り少々ブルーになる、過去に陰のある系の主人公を気取るオレ、
そんな風に感傷にひたっていると、オレへの質問コーナーはまだ続いていたようで、本物の主人公の妹の
「例えば泉ちゃんとかどうなのよ?」
「は…?なにが?」
「優しくて、かわいいじゃん?ホレちゃったりしないの~?」
彩夜は、わざとギャグっぽくオーバーアクションで、ツンツンと肘でオレをつつきながら聞いてくるので少々うっとうしい…。
「はぁ~? たしかに野々村は密かに学校の男子から人気高いけど、それはねーだろ。だいいち仮に万が一、オレが野々村にホレてもそれは負け戦ってやつだろ?」
今までもさんざん言ってきたが野々村泉は幼なじみヒロインだ。
幼なじみでありハーレムラブコメ主人公タイヨウが同じ高校に居ながら、タイヨウ以外と付き合うわけが無い。
つーか、これでオレがガチで野々村のこと好きで口ごもったらどうするつもりだよ。
変な気まずい間が空いちゃうだろが…。
彩夜も大人ぶっていても、そういうとこがまだまだガキんちょじゃのお。
「んー。そうなんかなぁ~?意外にわかんないきもしないでもないような感じもするかな的な感じだけど」
「なんちゅう曖昧な日本語だ、それは…。そんだけ曖昧な言葉が重なると、もうほぼ無理っぽい雰囲気が出まくりじゃねーか」
「あ、じゃあさ! 噂の雨宮さんって人は!?めっちゃ美人なんでしょ?」
「ん?雨宮かぁ…」
あらためてそう考えてみるとオレが主人公になるためには雨宮攻略が1番とは考えていたけど…。
オレが雨宮鈴花をはたして1人の女子として好意をもっているかと問われると疑問が残る…というか正直、別にぜんぜんホレてはない。
もっと言えば、ハーレムラブコメの主人公を目指しながらも…。
そもそもオレという男は恋愛感情というものを、まだ知らないのかもしれない。
……などと、しばらく考えていると彩夜の質問にしばらく返事していないことに気づく。
当の彩夜は思春期真っ只中、中3らしく、やはり恋愛トークが好きなお年頃なのか興味津々、意気揚々てな態度で勇気リンリン元気ハツラツにオレの答えを待っている様子。
「まぁ……ひとつ言えるのはアレだな」
「なになに!?」
目をキラキラさせてオレの答えを期待しながら待つ彩夜。
そんな彼女にオレはどや顔で答える。
「雨宮ってヤツは、そう簡単に男を近づけるようなヤツじゃない。不用意に近づこうものなら……」
「なら!?」
「……食い殺される」
「……い?」
自分の期待していた、甘ったる~いような答えとはずいぶん違う角度の答えに、彩夜は顔をゆがめている。
「まぁ雨宮鈴花を普通の女の子と思ってたら痛い目にあうってことじゃな」
「えぇ~??それ全然、質問の答えなってないしー! …なんかつまんなぁーい」
「まあ、質問したら大人がなんでも答えてくれるってのが、そもそも君たちの勘違いなんだなコレ。ひとつ勉強なったろ? ハッハッハ」
「大人って、2つしか年違わないじゃん。ヌマブラの強さはむしろ2つ下ぐらいだし」
「おい、ヌマブラネタ引っ張るのやめろ…」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「いやぁ確かにこのプリンは噂になるのも納得の出来だね」
「まあ確かに上手いよな」
無事にカフェについたオレたちは、人気店の長い行列というものに並ぶことに少々物怖じしたものの…。
喉元すぎればなんとやらか、席について甘味と飲み物でバッチリ決めた後では、長いこと行列に並び待っていたことも今となってはいい思いで、てなもんで完全にリラックス状態で、絶賛なごみ中である。
「あ、やば。けっこう前に連絡きてた」
しかし、こうしてこのまま延々となごんでいるわけにもいかないようで。
スマホを見ながら、ハッとしている彩夜を見て今日の本来の目的を思い出す。
「おぉ。で、なんだって?」
どうやら例の男の子からの連絡がきていたのに気付いていなかったようで、もう着く頃なのかとオレは彩夜に状況説明をうながす。
「んーとねぇ。…え?」
「どうした?」
「もう着いてるって…。しかも着いたって連絡きたの、もう20分前……」
「え、まじ?」
と聞きながら直ぐに窓に目を向け外の景色を確認するが、それらしい姿は見あたらなかった。
まあ、その彼を一度も見たことがないオレは『中学3年生』『男子』という少ない情報だけで想像した範囲での、それらしい姿だが…。
「どこだ?」
「……それが、なんか並んでるらしい…。列に……」
「なん、だと…?」
いやしかし、いまさらだが考えてみれば、ここは行列ができるほどの人気カフェ。
場末の喫茶店やファミレスみたいにおいそれと後から入店して合流するなんて真似は店側も、長いこと行列に並んでいるお客さんからしても許される行為ではないのも確かだ。
……とはいえ、並ぶのは違くね!??
とにかく、そんな彼をこのまま並ばせとくわけにもいかず、とりあえずオレたちは取り急ぎお会計を済ませて、外に出て店の入り口から続く行列を逆走するように辿っていきながら、彼をみつけるために、その列に並ぶお客さんを一人一人確認していく。
そこには、お洒落なカフェの行列に並ぶような客層――いわゆる、お洒落な服装でいかにもSNSやってますみたいな10代や20代ぐらいの女性たちがほんとんどだ。
もしくはそんな女性を引き連れてか引き連れられてか知らんが、これまたお洒落な雰囲気の男性たち。
……しかし完全に余談だが、オレから見ればこの手の男どもは自分から主人公になることを降りたヤツである。
お洒落な雰囲気、とは褒めたような言い回しだったが、量産型の『これやっときゃ、まぁそこそこモテますよ』的なファッションに身を固めるという、自ら没個性に向かうことによって、他人からの表面的な評価や、ちやほやされやすいという目先の安定を得ることを選んだ安易なヤツらどもである。
いやいや、話がそれてしまったが、そんなタイプの客層が並ぶカフェの列。
長く続く行列の最後尾近くに、そんなおしゃれな連中からは1人あきらかに逸脱したような風貌の男子の存在を遠目からでもはっきり認識してしまった。
行列の一番後ろに彼はいた。
――ここで急ではあるがラブコメにおける『あるあるキャラ』を1つ紹介しておきたい。
それはあまりにもサブキャラすぎてほとんど話題にもならぬキャラクター。
いや……サブキャラというよりも、モブキャラと呼んだほうが正確であろう。
しかも、一昔前の時代のラブコメにしか出てこないようなキャラクターであり、この令和の時代にこんなキャラがまだ残っていたのかと時代を選ばずに様々な作品の知識をたくわえているラブコメフリークのこのオレですら驚かせるほどのキャラクターだ。
ほとんどの場合、彼らは名も無きキャラクターであり、そしてそれはこのハーレムラブコメの世界においてはオレたちの目の前にいる、この彼のことである。
「押忍!初めまして自分は
――そう。
彼は学園モノのラブコメに、ほとんどの場合まともに顔もちゃんと描かれぬようなガヤ役として、たまぁ~に登場する――ゴリゴリの(武道系の)運動部である。
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