第20話
無事(?)に映画を見終えて、スクリーンをあとにするオレたち。
映画館の出口へと向かいながら、感想会が開かれる。
「あー、怖かったですねー!映画」
んーっと伸びをしながら日南が感想を言う。
怖かったと言いつつ、作戦通り事が運んでいるのか、その表情は明るく、満足げだ。
「まぁ、そこそこかしら。少しは、ちょっとだけビックリするシーンもあったけど……」
やっとホラー映画から解放された雨宮はビビっていたことを認めるつもりはまるで無いようで、何事も無かったように話している。
そんな雨宮に、数分前まで、存分に服の裾をひっぱられていたタイヨウは、ジト目で雨宮を見てこそいるものの何も言わない。
まあ、確かにあそこまでガチで怖がられるとさすがに茶化しづらいのだろう。
それに苦しい映画タイムを乗り切り、もう怖いもの無しの雨宮に『プルプルふるえてたくせに~』などと茶化そうものなら、烈火の如く反撃をあびせられる可能性もある。
触らぬ神に祟りなしである…。
「いや~、ホントおいしかったよね~」
満足そうな表情で感想を言う野々村。
それはホラー映画じゃ無くて、ポップコーンの感想だろ!!
さて映画も見終えたことだし、次は例のカフェだな。
なんか今のところオレにプラスなイベントなにも起きてないな…。
まあ、今日の1日のプランは基本、日南の主導で進行されているので、どうしてもオレは後手に回ってしまうのだが。
外へ出るべく、映画館を出てエレベーターへと向かう道すがら行われる映画の感想会を打ちきるのは、そんなあざとヒロインの日南茜。
「地下のゲームセンターに寄ってきましょう!プリクラとりましょ!プリクラ!」
この商業ビルの地下1階に点在するゲームセンターに寄ることを提案しだした。
「プリクラ?わざわざお金を出して不自然に顔を加工した写真を撮る意味がわからないしイヤよ」
すぐさま雨宮が拒否する。
もう彼女の目にはプリンしかうつってないのだろう。
「まあまあ雨宮先輩。こういうのは雰囲気ですから、遊びに来た記念ですよ」
どうやらゲームセンターに行くのも元々、日南の今日のプランの予定の一部のようだ。
予想外にゴネている雨宮に対しても退くようすは無い。
「行きたいですよねー?千尋先輩」
オレに話をふってきた。
助けろという事か…。
まあ、その数だけ可能性が増えるわけだしイベントは多いほうがいい。
ましてやカフェでプリン食うだけのイベントに主人公チャンスってのはあまり転がって無さそうだ。
オレとしてもゲームセンターへ行くのはやぶさかでは無い
「まあ、確かに、まだカフェも混んでそうな時間だし?少しゲームセンターで時間つぶしてから行ったほうが、わざわざ待たずに座れるかもな」
こんなもんで、よござんすか?
「です!です!」
「まあ、私も並んだりするのはできれば無いほうがいいけど…」
「そうですよ!それに~」
――――。
その後も日南の説得は続き、しぶしぶながら雨宮もおれて。
エレベーターへ入ると、押されたのは、外へと続く1階では無く、ゲームセンターのある地下1階のボタンだった。
ゲームセンターの奥。
プリクラコーナーへと到着したオレたち。
普段ゲームセンターなど、ほぼタイヨウとしか来ないオレにとっては正直縁の無いコーナーで馴染みが無い。
「当たり前だけど、このメンバーで撮るのはじめてだよね~。タイヨウと撮るのとかでも小学校の時以来かな?」
「あー、多分オレはプリクラ撮るの自体それぶりかもなぁ」
「そうなんですねー。雨宮先輩は?」
「1度も無いわ。さっきも言ったようにわざわざプリクラを撮る意味がわからないし」
「確かに雨宮先輩なら加工要らずの美貌ですけども…。でもまあ思い出づくりですよ思い出づくり!さぁ入りましょ!」
と、日南が皆を急かすようにしてプリクラの中へとなだれ込む。
と、その後に続くオレ。
え?入って良いんだよね?
このプリクラ4人用じゃないよね?
遅れてプリクラに入ると中は意外にも広く5人でも充分に収まるようだ。
中では、なにやら日南が野々村と女子らしくキャイキャイ盛り上がりながら、背景やらなんやらの設定をしているようだ。
プリクラ初心者の雨宮は、その横で物珍しそうに、画面を見ている。
正直プリクラに関しては、努力家のオレでもさすがに事前練習もできず、手はずが全くわからないのでほとんど成すがままにプリクラ撮影が始まり、日南主導でよくわからんポーズをとらされたりして、終了した。
「良く撮れてるね~」
「たしかに、思っていたよりも興味深い機械だったわね…」
「やば!雨宮先輩!加工しても、しなくても綺麗すぎ。まぁ私も負けず劣らずの美少女ですけど」
「ぷっ、ツカサお前なんか顔変じゃないか?目とかやけにでかいし」
「いやお前もだから。人のこと言えねーから」
皆でプリクラを撮り終え、そのプリクラについて皆でやいのやいのと盛り上がっていると、怪しく日南の目が光る。
「じゃあ、タイヨウ先輩!次は2人で撮りましょ!」
「え?また撮んの? って!ちょっ…おい!」
どうやら日南にとってはこちらのほうが本題のようで、なかば強引にタイヨウを引き連れて、またプリクラ機の中へと消えていった。
こうなると手持ちぶさたになったのが、残されたオレたち3人だ。
どうするかと、野々村と雨宮のほうへ振り向くとすでに2人はその場におらず、おもいおもいにゲームセンター内をうろつき始めていたようだ。
野々村は、近くにある、お菓子を落とすゲームを楽しそうにやっていた。
いや!まだ食うのかよ!!
まあ、そのゲーム。いくらも取れるものでもないし、無尽蔵の胃袋を持つ野々村のことだ。
ほっとこう…。
もう1人の雨宮のほうは近くに姿が見えない。
どこに行ったんだろう?と店内を歩いて探すと、戦場ならいざ知らず街中では上下ミリタリーはやはり見つけやすい。ほどなく雨宮を発見した。
雨宮はクレーンゲームの前で腕を組み、じっとその中のぬいぐるみを凝視している。
上下ミリタリーの女の子が、腕組みしてクレーンゲームを見つめている。
ハタから見たら、異様な光景だ…。
クレーンゲームと雨宮鈴花。その組み合わせにどこか既視感を覚えるオレ。
そうだ…。
この前のゲームセンターで不良たちに絡まれている時も雨宮はクレーンゲームの前にいたんだっけ。
フッ…。
オレクラスになると、瞬時にこの状況を理解する。
普段はクールでキツめなヒロインが、実は好きなモノといえばカワイイぬいぐるみと相場が決まっている。
雨宮はきっと、今見つめている、そのぬいぐるみが欲しいのだろう。
そして、これはチャンスである。
ぬいぐるみが欲しいけどクレーンゲームが苦手なヒロインに代わってぬいぐるみを取ることこそ、ラブコメ主人公のやるべきこと!
しかし、あいにく
つまり今、ぬいぐるみを取る役目は、がら空きなのである。
これは、あざと後輩ヒロインの日南が、
図らずとも、日南とオレにとってWin-Winな状況ができあがっている。
日南、ナイス!!
もちろん、日南にオレを手助けするような意図は無いだろうが、これこそオレの期待したとおりの展開である。
では、取らしていただきますか…。
ぬいぐるみと主人公の座を!!
気合い充分に、腕をぐるぐるっと回す。
そして、あんまり『取ってやろうか?』感だすとはりきってるみたいで引かれそうなので、努めて冷静に振る舞い、クレーンゲームの前に居る雨宮のもとへゆっくりと向かうオレ。
じーっとぬいぐるみを見つめている雨宮も、自分のもとへ近づいて来るオレの存在に気づいたようで、オレのほうを見る。
「このキャラ好きなのか?」
「え?…いや、まぁこのキャラが好きと言うか。ぬいぐるみって持ってないし、どんな感じなのか興味があっただけで…。別にこういうのが趣味とかいうわけでは…」
照れ隠しに、なんじゃかんじゃと言い訳をベラベラと並べている雨宮。
わかった、わかった。
皆まで言うな、オレが悪かった…。
恥ずかしがってカワイイもの好きを認めないのもこの手のヒロインのあるあるだったな。
オレにとっては、雨宮がカワイイもの好きを認めようが認めまいが、ハッキリ言って、そんなことはどうでもいい話よ…!
今、大事なのは。
オレがこのぬいぐるみを取り、そして雨宮にプレゼントするという、この一点だけだ。
「つまり欲しいか、欲しくないかで言うと欲しいってことだな?」
「え…?まぁ、その2択なら…欲しい、になるわね…」
これで口実も出来た。
スムーズにことが運んでいる。
後は、このぬいぐるみをゲットするだけ。
クレーンゲームは苦手じゃない。
1発で取るのはさすがにムリだが、何度か挑戦すれば取れるだろう。
ある程度の金額を消費しなければならないだろうが主人公になるためならば安い投資よ…。
「よし。ならば、ここは特別にオレが取ってやろう。クレーンゲームは得意なんだ」
わざと恩着せがましい言い方で、逆に押しつけがましさを払拭するニヒルなオレ…。
完璧な流れ。
もはや一発で取れる気すら、してきている。
サイフから千円札を取り出して、すぐそばの両替機に華麗に入れるオレ。
「いえ、いいわ。もし取れても結構な荷物にななっちゃうし。これからまだ歩くわけだし、大変でしょう」
バラバラバラバラ…!
綺麗に崩れた、オレの作戦と千円札…。
「……だよね。うん」
だから、やらずに見てるだけ、だったんですね…。
崩した100円玉たちを両替機から取り出す僕。
うーんと…。
オレもお菓子のやつやろうかなぁ…?
なんだか今は甘いものが欲しいや…。
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