第7話

オレ、千尋司ちひろつかさはタイヨウたちと左右に別れた場所、T字路の突き当たりまでダッシュで戻っていた。



オレが突き当たりに着いたときには、ちょうど3人の不良たちも突き当たりに到着したところだった。


オレの存在に気づいた不良たちは走るのを止めて、立ち止まった。


「てめぇ、なに逃げてんだ!コラ!あとの2人どこだ!?コラ!」


と、すごんできた。

不良の語尾には必ずコラがつくのである。


「まあまあ落ち着いて、ここは一旦冷静に話そう」


ボクは敵ではございませんよ~とフレンドリームードをできるかぎりかもし出してオレは笑顔をふりきまながら話しかける。


「うるせぇ。あの2人はどこいったんだよ?呼んでこいよコラ」


まったく効果なしである…。



まっずいな…。

これはやっぱりレディファイトは避けられないか…?



不良たちを観察してみる。


真ん中に立っている男――さっきゲームセンターで雨宮の腕をつかんでいた、この男がどうやらこの不良たちのリーダー格のようだ。


他の2人の不良より、そしてオレよりも高いその身長は180cm以上あるだろう。

おおよそ183~185cmくらいに見える。


そして、かなり明るめな茶髪はお洒落なセットがなされていてイケイケな雰囲気が伝わる。


チャラさとワルさを兼ね備えたハイブリットヤンキーだ。



「いやほら、オレらが来る前にゲームセンターでなにがあったかよく知らないからね、それ聞いてからでも…」


「うるせぇな。あの女ナンパしたら、なめたクチきいてきたんだよ」


…やっぱりかよ、オイ。

予想通りじゃねぇか。

あるあるからは、はみ出さない不良はみだしものたちにオレも思わずフレンドリースマイルが苦笑いに変わる。



「とりあえず、こいつボコって。こいつにケータイであいつら呼ばせればいいんじゃね?」


とりまきの1人がなかなか冴えた案を考え出した。

不良マンガに1人はいるよな、頭のきれるやつ。それもあるあるだよなぁ。

こいつら、とことん裏切らないなぁ…。


と感心している場合ではない。


「そうだな。そうするか」


と言ってリーダー格の男がオレにツカツカと近づいて来る。


そして、そのリーダー格の男は、いきなりオレの顔面めがけて右ストレートをはなってきた。




それをオレは左にステップしてスッとかわした。


そして右ストレートをはなったことによって、がら空きになっている右の脇腹におもいっきり左のボディブローをくらわせた。(脇腹にボディブローって2重の意味かな?頭痛が痛いのかな?)


いや、痛いのはオレのボディブローだ。

まったく予想していなかったであろうカウンターで打たれたオレの左ボディブローをくらったリーダー不良の男は、地面に両ヒザをついて倒れて、まだ苦しんでいる。




――オレ、千尋司ちひろつかさは主人公になるためには努力をおしまない男なのだ。


子どものころから主人公にあこがれていたオレは、中学生になると少年マンガなどの主人公にはかかせない条件である【強さ】というものを手にいれる必要性を感じ、ボクシング、空手、柔道、レスリングなどなどの色々な格闘技を習いはじめ、さまざまな格闘スキルをそこそこ身につけたのだ。


ちなみに、高校生からのオレはかわいいヒロインとのキャキャウフフなラブコメの主人公的イベントをするんだーい!

と心に決めていたので、汗臭いスポーツにうちこむ暇はない!と思い。それら一切の格闘技を中学校卒業とともにすっぱりやめている。



しかし数年間習ったものは、意外と体が覚えているもので、完璧なボディブローを決めることができた。


まあ、それにはリーダー不良がオレのことを完全になめていた、ということも大きな要因ではあるが。



そしてオレをなめていたのは、この目の前でヒザをついて苦しんでいるリーダー不良だけではなく、手下不良の2人も同じだった。


そんなオレが自分たちのリーダーを一瞬で地面にヒザをつかしてしまったことに完全に圧倒されている。


「まだやるか?これ以上やる気なら手かげんできねーぞ?」


少々わざとらしいかとも思ったが、声にドスをきかせて、不良たちをにらんでみた。


しかし不良たちには効果があったようで。


「ちくしょー!覚えてやがれー!!」


と、捨てゼリフを言いながら、いまだに膝をついて苦しんでるリーダ格の男を連れて、すごすごと退散していった。



……去り際まであるあるかよ。


ラブコメに出てくる、かませ不良のお手本みたいなやつらだった。ある意味、不良の優等生だな。


そしてそんな不良たちを見送ったあと、オレは大きく息をはいた。


……あっぶねぇー。

なんとかしのぎきったーー。


格闘技こそ習っていたが、こんなストリートファイトなど始めて経験だ…。

不良たちがハナからオレをなめずに一気に3人がかりできていたら結果はまた違ったものになっていたかもしれない。

とゆうかそもそもアイツらが強かったら普通にボコられてた可能性もあった……。


しかしながら、なんとか無事に無傷でヒロイン救出イベントを終えることができた。



……いやそのヒロインは今ここに居ないんですけどね。


しかもヒロインを遠ざけた張本人がオレという……。


まぁ正直オレが勝てる確証など、どこにもなかったし。最悪ボコボコにされることも覚悟していた。

だからこそタイヨウと雨宮を2人で行かしたわけで。



ふぅ…。とため息をついた。

今回は緊急事態だったとはいえ、結局最後は主人公タイヨウヒロインあめみやを2人きりにさせるような行動をとってしまった。



どうせ今ごろ2人は

『あの…、助けてくれてありがと…』(ついにデレ発動!)

『いや、まあなんだ。別にお礼とかいらねぇし…』(顔赤らめ)


なんていうような。


【エピソード2~あれアイツいがいと良いやつなのかも?~】


の終盤のような会話でもしてるに違いない。


キーっ!!!




…思い返せば結局オレの予想どおりエピソード2はこの放課後にすでに始まっていたんだな。

しかもそれをアシストするかのような真似をみずから率先してやってしまうとは……。


こんな風にオレを動かしてしまうタイヨウの主人公パワーはやはりハンパじゃねーな、コラ!



……どうやら、不良たちの語尾がうつってしまったようだ。


とそんなことをしているとポケットから振動を感じた。スマホだ。

どうやら例の主人公パワーの持ち主、タイヨウからの着信のようだ。コラ!


ポチッと画面をタッチし電話にでる。


「どうした?コラ!」


「お前大丈夫か!ツカサ!」


どうやら先ほど別れたオレを心配して、電話してきたみたいだ。


「おー、大丈夫、大丈夫。お前らどうなった?」


「なんとかオレたちも巻けたみたいだ。いやぁお前も無事か。よかったよ。急に左行くとかワケわかんねーこと言うからさ。今どこいるんだ?」


「んー?逆にお前たちはどこいんの?てか雨宮まだ一緒に居んの?」


「ああ一緒に居るよ。オレんちの近くの公園わかるか?滑り台あるとこ。とりあえず今その公園で休んでる」


「あー、あそこな。わかった、とりあえず行くわ。じゃな」


ピッと通話を切り、タイヨウたちの居る公園へ1人むかう。


T字路でオレらが別れてから、今でだいたい

15分くらいたったか。

あいつらその間ずっと走ってたんかな?

まったく、にぶいやつらめ…。


とエピソード2を終えてしまったであろう2人にひがみの気持ちをこめて、頭のなかでけなしてみる。


ほどなくしてオレは公園の入口に着いた。

そのまま入口から公園に入ると、奥のほうにあるベンチにタイヨウと雨宮の姿が見える。


2人のもとまで歩いてく。

なにか話してるみたいだ。声が聞こえてくる。


「だから、余計なお世話って言ってるのよ。あんなやつら私1人で充分対処できたのに…」


「仕方ねーだろ、たまたま見かけちまったんだから、ほっとけねーだろ!」


あれ?お前らまだもめてんの?

デレは?


「だからって、なんで走って逃げるのよ。もうすこしマシな方法なかったの?ここまで走ってめっちゃ疲れたわよ」


ハーっと額に手をあてて雨宮が言った。


頑張ったタイヨウには悪いがそれはオレも同意する。

てかオレのほうが頑張ってるよな今回。


「もういいわ。私帰るわね」


話をきりあげて雨宮はツンツンのままオレたちにクルっと背を向け、いまさっきオレの通ってきた公園の入口に向かって歩いていった。


…………エピソード2きてないっすね。これは!

オレにとってはありがたいぞ。


などと思いつつオレはタイヨウとともに、スタスタと歩いていく雨宮の背中を見つめていると。


雨宮がピタッと歩みをとめた。



「でも、まぁ………」



あ、やっぱエピソード2きてました。コラ!


……デレる気ですわ、この子。


そしてオレたちに背中を向けたまま、顔だけこちらを振り向かせて、続けた。


「助けてもらったのは…事実と言えば事実だから…。その……ありがとう…。2人とも」


と言ってそのまま前を向きなおし、公園の入口のほうへと歩いていって、公園を出ていった。




…え?


いま2人ともって言ったよね?


オレもカウントされてた…よね?



だよね!?だよねぇ!??




どうやら今回のオレの頑張りは、まったくの無駄に終わったというわけでも無いようだ。


もしかしたら1歩だけ主人公の座に近づけたのかもしれない。



こうして、美少女転校生ヒロイン登場の1日はついに本当の終わりをむかえた。




そしてオレの主人公を目指す日々はまだまだ始まったばかりである…。

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