第6話

ゲームセンターの中にいる、クール系ヒロインの雨宮鈴花あめみやすずかと不良男子高校生の3人は、なにやらもめているようすだった。



…いやまぁ流れはだいたいわかりますよ。

ゲームセンターにいた雨宮の美少女っぷりに目をかけてナンパでもしたのだろう。

そして雨宮のことだ例のツンツンぷりをナンパしてきた不良男子高校生にも発動したのだろう。


てきびしい言葉でフラれた不良男子高校生たちが逆上、しかし気の強さに定評のある雨宮鈴花も3人の不良男子高校生をあいてどり負けじと応戦。

今に至る。


とまぁこんなだろう…。


たしかにラブコメのあるあるではあるな、不良に絡まれるヒロイン。

そしてそれを助けに行く主人公。


しかしここからの展開は読みにくい…。

その後の展開にはいろんなパターンがあるんだよなぁ…。


主人公が登場して『ちっ、なんだよ男づれかよ。クソおもしろくねー。行こーぜー』といってお決まりの捨てゼリフとともに不良たちはフェードアウトしていく。

という何事もなくすむ平和的エンドパターン。


もしくは『なんだてめぇーは?関係ねーやつはすっこんでろ!シバくぞ!?あぁ~ん!!?』と、ばりばりの応戦モード。

下手すりゃいきなりレディファイトすらあるバトル展開突入パターン。


フェードアウトパターンならなにも問題も無いんだが、さすがにバトル展開突入は避けたいところだ。



いくらハーレムラブコメだ、あるあるだ、なんだと言おうが、しょせんこの世界はフィクションではない。


もちろん殴られれば痛いし、ケガもする。

そして、そのケガは翌日にはなにごともなかったかのようにアラ不思議、ぜーんぶ治ってる!

なんていう、ご都合主義もありえない。

ケガの度合いによっては次の日もその次の日もズキズキ痛いし、れもひくことはない。


そしてそれはオレのとなりにいる、ハーレムラブコメの主人公の星のもとに生まれし男、夏目太陽なつめたいようも、もちろん同じだ。


しかもこのハーレムラブコメの主人公、タイヨウ。どうみても強そうには見えない。


殴り合いのケンカしているところも見たことなければ、格闘技を習っていたという話を聞いたこともない。


下手なやつが言えば、どこがやねん!というツッコミをくらいそうな『オレはどこにでもいる普通の男子高校生だ』というセリフにもツッコませないくらい本当に、普通の高校生男子の平均程度の身体能力しか持っていない、ごくごく普通の男の子だ。


3人の不良たちを1人で黙らせられるほどの腕力など確実に持ち合わせていない…。

それどころか1人でもあやしいくらいだ。





――しかし、まあ。


とはいえ、さすがハーレムラブコメの主人公と総称されるぐらいの、この男。





雨宮と3人の不良たちのやりとりを、どう対処しようかと色々な方法を熟考じゅっこうし、とりあえずことの成り行きを見ていよう。としていたオレとは違い。

ヒートアップした不良のリーダー格のような男に雨宮が、ガッっと腕をつかまれ、これはさすがに黙って見てるわけにはいくまい。タイヨウ、止めにいこう!

と隣を見たときにはすでにタイヨウの姿はそこになく。

ゲームセンターの中に入って不良たちのところまで、すでに行っていたのである。


それに気づいたころにはオレは完全に出遅れていた。

…とりあえずオレも中に入らねば。


入り口の自動ドアを超え、ゲームセンターの中に入って雨宮との距離がちぢまった時に気づいた。

雨宮は腕をつかまれてもなお強がった態度をとってこそいるものの、その顔は緊張でこわばっているように見える。

まぁ3対1じゃ、女の子の雨宮じゃなくてもビビるよな。


タイヨウはガッっと雨宮の腕をつかんでいる、不良のリーダー格の男の腕をガッっとつかんだ。


「あの、こいつオレの知り合いなんで」


と言って。不良のリーダーの手を雨宮から、ひっぺがすと今度はタイヨウが雨宮の腕をつかんで、オレのいるゲームセンターの出口のほうへ歩きだし、行くぞ、と雨宮をつれその場を後にしようとする。



さすがにハーレムラブコメの主人公。

困ってる女の子を見たら、その女の子がいくら今朝から自分といがみあっているやつだろうと、昼飯のパンを一口も分けてくれなかろうと、自分より強そうな3人の不良に絡まれていようと、真っ先に飛んでいって助けてしまう。




夏目太陽なつめたいようっていうやつはそんな男なんだ…。



そして雨宮とともにオレのいるゲームセンターの入り口のほうまで近づくと、さっさとこのままずらかろうぜとオレにアイコンタクトを送ってきた。


その時、不良のリーダーがこちらまで届く大きな声で話かけてきた。


「おい、待てよ。コラ」


…うわ~。


…平和的エンドパターンじゃないっぽい~。


しかしタイヨウはその言葉に振り返ることなく。今度はアイコンタクトじゃなく口に出してオレに言った。


「逃げるぞ!!」


先ほども述べたように夏目太陽はどこにでもいる普通の男子高校生だ。

普通に、内心では不良たちにビビりながらも勇気を出して不良たちから雨宮を連れ出したのだろう。

たちむかって己の拳で黙らせるという選択肢は無かったようだ。


そんなタイヨウの合図で、ゲームセンターの出入口である自動ドアが、ガッーっと開いた瞬間に、オレたちはダッーっと勢いよく外へと飛び出した。


それを見た不良3人組は、さらにデカイ声でオレたちを呼ぶ。


「待て!コラ!」


とオレたちを追いかけてきた。



ゲームセンターを飛び出したオレたちを捕まえようとダッシュで追ってくる不良たち。

そんな不良たちを捕まるまいとオレたちもダッシュで逃げる。


しかしここは大通り。

何百メートル先まで見えるこの道で鬼ごっこをつづけると、いつまでも終わりの見えないデスゲームになってしまいかねない。


とりあえず脇道にはいらなくては。

ゲームセンターから数十メートルのとこに見えた一番最初の路地をオレたちは曲がった。


しかし走りながら振り返ると不良たちも路地を曲がって、まだオレたちを追いかけていた。


……そういやリーゼントが出てくるような時代の不良ドラマとか映画って、絶対に他校の不良たち数十人とかに追いかけられて逃げるシーンあるよな。


不良って追ったり逃げたりするのが好きなのかなぁ?

もしかしてオレたちを追いかけている不良たちも結構この状況を楽しんでるのかも?


案外、海辺で追いかけっこをするカップルのようにアハハ、待て待てーとキャッキャウフフな笑顔で追ってきてるのかもしれないぞ?


と、また後ろを振り返り不良たちの表情を確認すると、鬼のような形相ぎょうそうをしていた。



え?

なに?怒ってんの!?


…いや怒ってるから追いかけてきてるのか。



これはマズイと前を向きなおし逃げることに集中する。


しかしながら、ここまで彼らがしつこいとオレたちが追いつかれるのは時間の問題だ。


平均的男子高校生の身体能力のタイヨウはまだしも、雨宮は女子だ。


タイヨウに手をひかれながらもオレたちのダッシュについてこられている雨宮は女子でいえば足の早い部類に入るとは思うが、さすがに雨宮と不良たちの走力、体力の差は歴然だ。


雨宮を見ると、息が切れてハァハァ言いながら走っている。


いや、雨宮だけでなくタイヨウもそれなりにキツそうだ。

こいつ案外、体力ねーな。


……ったくなんでオレがいる時にこんなイベントおきちまうかなぁ~。


主人公ならまだしも、オレはまだ主人公の親友ポジションだってのに。




……はっきり言ってオレ1人なら確実に逃げきれるだろう。


しかしこの2人と一緒に逃げているかぎり、いつかは不良たちに追いつかれてしまう。

体力きれかけのタイヨウと雨宮は今や完全に足手まといだ…。


「ツカサ!この道、T字路になってるぞ。突き当たったら右曲がるぞ」


オレたちの逃げる道はT字路になっていて、あと数メートルまっすぐ進むと突き当たって、右か左かという選択をせまられる。

地元民であるタイヨウの土地勘とちかんてきには右に曲がったほうが逃げやすいと判断したのだろう。




…同時にオレもある決断をした。


それは、自分にとっても、とても選びたくない嫌な決断なのだが、状況が状況なのだ。


仕方のないことだ…。


「よし、わかった。撹乱作戦かくらんさくせんだ。ここで、ふた手にわかれるぞ。お前と雨宮が右、オレが左だ。」


「はぁ!?ツカサ、お前何いってん…」


「いいから!もう突き当たり着くから!お前らは右曲がれよ!?」


とタイヨウの言葉を制し、息切れゼェハァの雨宮をこれまた息切れしかけのタイヨウにまかせて、オレは1人突き当たりを左に曲がり2人と別れた。





………。




………これは『仕方のないこと』なんだ。



『仕方のないこと』


そう自分に言い聞かせる。




――夏目太陽なつめたいようは今日昼飯を食いそこねたから腹が減って力がでないのだ。



――雨宮鈴花あめみやすずかは不良に腕をつかまれたとき緊張で顔をこわばらしていた。





――だから、そんな2人を巻き込まないように、オレ千尋司ちひろつかさは左に曲がった後その道を引き返して。



3人の不良たちの相手を、たった1人でしなきゃならないのは『仕方のないこと』なんだ。



右に曲がったタイヨウたちの姿が遠くなったことを確認してから、オレはもと来た道をダッシュで引き返した。










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