〈花の種〉

渚鳥

1.未の空

結婚しているのか

どうもわからない

顔馴染みの、をんな

あるときは、口論が外まできこえていた

ちいさな体つきは、さまざまな苛立ちが分裂して

いっぱいになっていく、ふうに見えて

わたしの背中は騒ぐ


大丈夫なんだろうか

まさかとっくに破裂しては、いないだろうな

町内を遠く囲む堤防をしんしんと移動してゆくすがた

めずらしく窓をあけて見ていたよ


をんな、ひざをみつめるように歩いている

ゆっくりと散歩に出たりして、おるのかなぁと思ってみる


はっと閃く

違ったんだ

歩きながら、空想しているんだ

それはこんなふうに


をんなの頭のなかでは未があふれている

既におなかをすかせきっていたらしい

籠められ、犇めいていた未たちは、空にわっと駆け出して、きんいろをむしゃむしゃ、たべている

生っ白いほほ、ごくしあわせそうだ


をんなの表情はうつろで、つねに鎖骨が傾いだぐあいのまんま、ぼんやり歩き通す

そのうちに

をんなは、ふーっと深い息を吐いたのか

未たちのしょくじがおわった


あたりは残光が交差して、ゆらぎだして、日暮れの形をたもっているのがせいいっぱいの様子


健やかな未たちを頭に戻し、ふかぶかとこきゅうするをんな

ないているようにも見えました


無造作に未をはなす動機は、度胸といいなおすべきなのかしら

それはじつに、夕焼け雲に誓いを立てるようなもの、と

ちらりとそう感じてしまったために

むねが痛む


わたしは窓を閉め切り

薄暗さにかくれた

をんなは、未をかがやかせるから

もう大丈夫


とうめいの炎

嘆き

突き放されている

ぴりぴり、と

すきとおっている

けれどもやがて

諦念のうたの聴こゆるまま

逝くのだろう

こころが今はキチキチ、となく

落ちても翔びなおす羽虫のようだ

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