エピローグ
[深夜 帝都ノイエグラード]
深夜、支度を済ませて宿舎を出る。
なるべく音を立てないように、誰にも気が付かれないように、君たちは街の外へと抜け出した。
少し肌寒い外の空気にあてられ、嫌でも眠気が覚めてくる。
この街並みを次に見るときは、戦争が終わった後か、あるいはそれを終わらせるときか。
この選択に悔いは残るだろうか、本当にこれが正しい道だったのだろうか。
いくつもの不安を感じつつも、君たちはペスカトーレ少佐に言われた通りに、スクルナムカ港へ向かうこととした。
[コンラート大橋]
橋の中央に人影がある。
君たちはその姿を見て、一目でノブナガだと気が付くだろう。
ノブナガ:『どうした? そんなに急いで』
マーキュリー:「ちょっと港に用があるの」
ジャンヌ:「マーキュリー。ボクとエックスは嘘が下手だって、知ってるでしょ? なら、ノッブには、素直に伝えた方がいいと思う」
「ボクたち、しばらくこの国から離れるんだ」
エックス:「ノブナガ…見逃してくれ」
ノブナガ:『お前たちは、そういうことなんだな?』
マーキュリー:「まぁ…そういうことよ。そういうわけだから、どいてくれない?」
エックス:「なぁ、ノブナガ…この先の未来、俺達が何をしてるのかは分からねえ。もしかしたら帝国軍と戦うこともあるかもしれねえ。…だけどよ、俺はお前たちを裏切って少佐のところに行くわけじゃねえんだ。…俺が知りたいものは、あの港の先にしかねえんだよ」
ノブナガが口を開き、操霊魔法【ファイア・ウェポン】を行使する。
続いて手に持った赤いマテリアルカードを砕く。
炎と共にノブナガの槍に力が宿る。
マーキュリー:「裏切り者は許さない? 私達に幻滅した?」
そんな光景を目にしても、マーキュリーはまだホルスターの銃に手をかけない。
ジャンヌ:「ねぇ、ノッブ、ノッブを裏切ったのって、誰なんだろうね?」
ノブナガ:『それは、お前たちではないか』
ジャンヌ:「帝国はボクたちに嘘をついていた。それは裏切りにはならないのかな?」
ノブナガ:『国の大成を見た策のためではないか。その程度の嘘など裏切りに含まぬ』
マーキュリー:「そうね。私も別にそれに関しては悪いことだと思ってないわ」
エックス:「……」
マーキュリー:「利用して、利用される。当然じゃない。人間なのだから」
ジャンヌ:「そっか、ボクはね。みんなに嘘をついた帝国を許せないんだ」
ノブナガ:『お前たちがしていることを見てみろ。国を裏切る行為だぞ? これまで世話をしてくれたすべての人を裏切り、敵国へ渡ろうとしている』
マーキュリー:「ええ、そうね」
ジャンヌ:「ごめんね。ボクは国とかどうでもいいんだ」
ノブナガ:『ほう?』
『それはお前の大切な姉が命を燃やしたこの国もどうでもいいということなのだな?』
『あやつの死は鮮やかだったなぁ。国を守って死ぬ。素晴らしい忠誠心ではないか』
『我も好感が持てるぞ。国を裏切らず命を賭ける忠実な駒にはな』
ジャンヌ:「…ノッブ。ベル姉のこと、駒とか言わないで」
ノブナガ:『なにか違うのか?』
ジャンヌ:「ベル姉はみんなを、幼馴染を守りたかった。ただそれだけだよ」
ノブナガ:『戯言だな』
エックス:「ベルは…お前にとってベルは友達じゃなかったのかよ!」
ノブナガ:『あぁ、友だったかもしれんな。だが、戦時はただの駒の一つでしかない。何か違うのか?』
エックスは考え方の違いに言葉も出ず、ただ黙り込む。
きっとノブナガは、戦場において自分自身をも駒の一つとしか捉えていないのだ。
ジャンヌ:「戯言かもしれない。でも、ベル姉は本気で思ってたんだよ」
ノブナガ:『自己満足だな。くだらん貴様の妄想でしかない』
『客観的に見てみろ。お前たちはあの女教皇が守った国を裏切る逆賊だ』
『で、その逆賊を早いうちに叩いておこうと思ってな。ここにいるわけだが』
マーキュリー:「まぁそうね。私達は逆賊よね」
「でも、これだけは言いたいわ」
「帝国が私達を裏切ったように、私達にも裏切る権利はあるわ」
「だからね、あなたの意思を裏切れるのよ。私はね」
「私はシノを、リックを裏切ったわ。2人との縁を切ったんだから貴方との縁も切ってあげる」
「謝りはしない。せめてできることはノッブがこうやって今、ここに立っているという意思を尊重すること」
「そこをどきなさい、ノブナガ!」
マーキュリーはホルスターから銃を取り出し、構える。
エックス:「本当に戦わないとだめなのかよ…!」
ノブナガ:「ふん」
まるで戦う意思はないというようにノブナガの武器から炎が消え、ノブナガも道を開ける。
シェリー:「えー? とおっていいんだー、やったー!」
ノブナガ:『ほら、お前たちは通らないのか?』
ノブナガは持っていたランスを背中の<ウェポンホルダー>に戻す。
ノブナガ:『どうした?通らないのか?』
マーキュリー:「あら、意外」
きょとんとした顔でホルスターに銃を戻す。
ジャンヌ:「ありがとう。ノッブ。またね」
シェリー:「ばいばーい」
エックス:「……恩に着るぜ、ノブナガ」
「またいつか…会えるといいな」
エックスがノブナガの前を通ろうとしたとき、ノブナガはジャベリン取り出し、エックスへと放り投げる。
そのジャベリンには枯れた花が巻き付けられていた。
ノブナガ:「くだらん」
そう言い残し、彼は帝国の方へ向かい、歩き出す。
マーキュリー:「…それでいいの?」
すれ違いざまにマーキュリーがノブナガに言葉をかけるも、彼は何も答えない。
枯れた紫色のオダマキの花が風に揺れて散る。
旅立つ背中を"愚か"だと言いたげに、ノブナガの背中は"勝利への決意"に溢れんばかりのものだった。
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