第14話『異能殺し』


「殺す気で行くぞっ。ヴァレル・ザ・ドライヴッ!!」


「当然だぁっ。手ぇ抜いたらぶっ殺してやんぞラースゥッ!!」



 そう言ってヴァレルは拳を握りしめながら突進してくる。

 最初はヴァレルを拷問道具で無力化しようと思っていた俺だが、やはり主人公。そんな生易しい手が通じる訳もなかった。


 だからこそ……一切の手抜きもせず、全力でいかせてもらうっ!!



「起動しろ――アルヴェルッ」


「んなっ!?」


 クルベックの機体であるアルヴェル。

 アレを呼び出すべく、俺は叫ぶ。

 しかし――



「………………ちっ。さすがにそう上手くはいかないか」


 特に何かが起きる訳でもなかった。

 クルベックの力の一部も手に入れたはずの俺だが、さすがにアルヴェルを呼べるようにはならなかったらしい。


「少しひやっとしたぜぇ。しっかし、厄介なもんを次から次へと出そうとしてからに……しゃらくせぇっ!!」


「ぐっ」


 ヴァレルの鋭すぎる拳が襲ってくる。

 きちんとガードするが、防いだ腕の動きが少し鈍る。

 基本スペックは俺の方が上のはずだが……やはり永続召喚の後遺症か。俺の体は結構なダメージを喰らっているらしい。ボルスタインによって痛覚が麻痺してるから分かりにくいけど。



「男ならぁっ。己の拳のみを使って語りなっ!! 俺の夢をお前にも見せてやる」



 そうして拳の連打を続けながら――ヴァレルは唄う。


『刮目せよ。ここが我らが戦場だ。

 鍛えられし肉体を駆使し、今こそ己の武を見せつけよ。

 鉛玉など恐れるな。そんなもの、無為と知れ。

 男児ならば恐れるなっ。守るべき物の為に己が身を盾とせよ。

 守るべきものがあるのならば倒れるな。前を見ろ。倒れたとしても立ち上がれ。

 最後に立ってさえいれば、てめぇの勝利だ』



 ヴァレルは攻勢を保ちながらも高らかに詠唱を行う。

 これは――――――クソ、最初からソレを出してくるか。

 


「させるかっ」



 俺は使い慣れていない力を使うのをやめ、ルゼルスの魔術を発動させる。

 触れるだけで全てを滅ぼす闇の塊。

 それを魔弾としてヴァレルめがけて放ち――


「らぁっ――」


 ――ぺちっ。

 そして、間抜けな効果音と共にヴァレルによって叩き落とされる魔弾。

 触れるだけで全てを滅ぼせるはずのソレは、あっさりと振り払われてしまった。



「うっそだろおい!?」


 さすがに動揺を隠せない俺。

 いや、ヴァレルとルゼルスが戦った場面なんてないし、だからこそお互いの力がぶつかった場合何が起こっても不思議ではないのだが……これはいくらなんでも出鱈目でたらめすぎるだろ!? 読めるかっ。


 そんな事をしている遂に――ヴァレルのアレが完成してしまう。




展開Einsatz――Unser Schlachtfeld morderischer Talente(異能殺しの我らが戦場)』



 展開されるヴァレルの能力。

 見た目は何も変わらない。ヴァレルはニヤリと獰猛な笑みをこちらに向けてくるが、その身に変化が起こった訳でもない。


 しかし、俺は知っている。

 この能力は少なくとも今の俺にとって、かなり面倒な物だという事を。


「――炎よ」


 一応確認の為、俺は魔術によって小さな炎を生み出そうとしてみる。


 しかし――失敗。


 炎を出すだけなど、あまりにも簡単な魔術で俺にでも発動できる物なのに、煙すら出てこない。

 つまり――



「無駄だぜラース。どうせ俺の事は能力含めて全部知ってるんだろ? 俺を倒さない限り、お前はしばらく異能が使えねえよ」


「……やっぱりそうなるよなぁ」


 これぞヴァレル・ザ・ドライヴの能力『異能殺しの我らが戦場』。

 ヴァレルが敵と定めた相手の能力。その一切を封じる能力。異能を殺す能力だ。

 ヴァレルの言う通り、俺はヴァレルを倒さない限り魔術も使えないし、もう拷問道具を呼び出す事だって出来ない。

 ついでに言うと銃や剣などの武器も使えない。

 ――いや、正確には使う事は出来るが相手に傷を負わせることが出来なくなると言うべきか。

 



「男なら拳で語りなっ。飛び道具なんてくっだらねぇ。己の肉体だけを使って向かって来なぁっ!! なぁに、心配すんな。俺もそうすっからよぉっ」



「……いや、お前はそもそも元から自分の肉体しか使わないし、使えないだろうよ」



 ヴァレルの『異能殺しの我らが戦場』。

 異能を使えなくなるのは何もヴァレルに敵対している者だけではない。

 その戦場の参加者であるとヴァレルが認識した者ももれなく異能&武器が使えなくなると言うなんとも使いづらい能力でもあるのだ。

 そして、そこにはヴァレル自身も含まれる。


 とはいえ、ヴァレルの異能はこの『異能殺しの我らが戦場』のみだし、武器は己の肉体などと豪語している奴なので影響はないのだが……。


「ん? いんや? 一応だが軍の規則上、銃は携帯してるんだぜ?」


「……え? そうなの?」


「ほれこの通り。まぁ、使った事は一度もねぇがな」



 そう言って懐から古めかしい銃を取り出すヴァレル。

 あのヴァレルが銃を持ってるとは……俺でも知らなかった。

 設定資料集とかには『銃を携帯している』なんて書いてたのかもしれないな。


 ヴァレルが登場したゲームをプレイし、その設定資料集もきちんと読んでいる俺だが、彼についての欄は流し読みしていたと思うのでそこまでは知らなかった。



「ふぅ――――――。少しやる気がそがれちまったが……どうする? 己の肉体しか使えないこの空間リング。逃げるか? 逃げるなら好きにしな。それを追う程俺も暇じゃねぇしな」


 元から持っていたのか、ヴァレルは懐から煙草を取り出し、それに火を点けて吸う。

 口から煙を吹き出しならら、こちらの出方をうかがっている。

 そして、その瞳が問うていた。


 即ち、りあうか……逃げるか。

 


「ははっ――」



 愚問だな。

 ここで逃げだすくらいなら、俺はそもそもここまで来ていない。


 己の肉体しか使えない空間。

 信じられるのは己の肉体のみ。 



「上等だ。こうなったらとことんやってやるっ」


 幸いと言うべきか、ラスボスの中にも自身の肉体しか基本使わないココウという枠がある。

 奴の力を引き継いでるこの肉体ならヴァレル相手と言えど……遅れは取らないはずっ。



 そうして構える俺に、ヴァレルは吠える。



「さぁっ。殺り合おうぜラースっ。てめぇの男を見せて見なぁっ」


「行くぞヴァレルッ。ラスボスが常に主人公に負けたままで居ると思うなよクソがぁっ!!」


 そうして俺とヴァレルは泥臭い殴り合いに興じるのだった――


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