第22話『ロボット無双-2』


 徐々に体を巨大化させながら迫る鱗を身に纏う男。

 竜人なんだろうけど、竜人は魔法が使えないはずよね? どうやって巨大化してるのかしら? 魔法とは別の能力?


 そう疑問を覚えている間にも、その竜人の体は大きくなっていく。

 巨大化が止まる気配は……ない。


「幾重にも張り巡らせた罠。不信を煽り、うまく機能せぬように各種族の不和を狙うも失敗。挙句の果てにこんな隠し玉まで……どうやらこの私が自ら鉄槌を下さねばならんようだな」


 遂に竜人の体が鋼鉄の悪魔よりも大きくなった。

 巨大ロボットを見下ろすようにして巨大化して竜人は――


「我が名は『道化のクラストリアス』。全ての深淵を従えしリネアル・カオス様の忠実なしもべにし――」


「無礼者。余を見下すとは何事か」


 ドガァァァアンッ――


 巨大化した竜人さんは……名乗りを上げる前に左足を吹き飛ばされました。



「あんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」



 悲鳴を上げる巨大竜人さんと私。

 それでも鋼鉄の悪魔は止まらなかった。


「トカゲ風情が。余の道を阻むだけでも大罪だと言うに、見下ろすとはよほど死にたいらしい。それに――」


 つまらなそうにそう言い捨てる鋼鉄の悪魔。


「貴様は臭い。これは……そう、余が嫌いな匂いだ。他者を騙し、あざ笑い、世に闘争を撒き散らすクズの匂い。不愉快だ。く失せよ」


「足ぃぃぃぃぃぃ…………私の足が…………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ――

 

「うわわわわっ、びっくりしたぁ」

「ふん、滑稽だな」


 巨大化した竜人は片足を失った事で色んな民家を潰しながら倒れた。

 だけど、その傷は回復していく。


「分かりきっていた事だけれど、やっぱりこの巨大竜人も魔王化しているみたいね」

 

 魔王化した奴を倒すにはそいつの近くにあるであろうコアを破壊しないといけない。

 コアを隠すのに一番安心できる場所が自分の体内だからか、多くの魔王がコアを体内に収めてる。コアを破壊されれば死ぬ。それを恐れて守りやすい場所に隠しているのだ。


 だから図体のでかいコイツも、コアさえ探し出して破壊できれば倒せる。

 きっと、そのコアは体内にある。それさえ探し出せばいいだけの話。

 でも――


(でも……こいつの巨大な体の中から小さなコアを見つけ出し正確に貫くなんて……そんな神業、できるの?)


 普通は無理だ。

 でも、こいつなら――

 多くの魔王と魔物を屠ってきたこいつならもしかしたら――


 そんな期待を込めて私は鋼鉄の悪魔を見る。

 鋼鉄の悪魔は私も見ず、巨大竜人にも既に目をつけず、ただ天に右手を掲げて上空を見つめていた。


『荒廃した戦の中、平和だけを求め我らは戦い続けた』


「え? 何?」


 ゆっくりと、そして静かに何か呟いている鋼鉄の悪魔。

 その間に巨大竜人の方は完全に足を治癒を終わらせ、敵意を漲らせていた。


「この下等生物がぁ!! 殺す。貴様らはここで確実に殺すっ! あるじの元を離れて来た事、後悔しながら死ぬがいい!!」


 巨大竜人の右手がどういうカラクリなのか、ドリルのような物に変形する。

 ギュイィィィィィンと嫌な音を立てながら振るわれるソレが鋼鉄の悪魔を突く。


『平和の為の闘争。平和のための謀略。矛盾するがゆえに望みを遠くなるばかり。

 されど、その尊き世界を我らは信じ、願い、果てに聖約を果たす。

 我は光。全ての混沌を払いし光なり』


「ちょっアンタ前っ前ぇぇぇっ!!」


 眼前にまでドリルが迫っているというのに躱そうともしない鋼鉄の悪魔。

 もう躱せない。もう……ダメだ。


 数秒後に破壊されているであろう鋼鉄の悪魔。私はその光景を幻視しながらギュッと目を瞑る。


「――――――っ」


 ドリルで貫かれて鋼鉄の悪魔は死に、この竜人の集落はあいつに滅ぼされるだろう。

 唯一、私だけは生き残れるだろうがどう健一に報告すればいいのか。


 何かに祈るかのように、自然と私は手を合わせる。

 そうしていると――

 

は邪悪。其は正義。

 其は堕落。其は

 あらゆる個性無き世界の果てで我らは泣く』


「な……にぃ?」


 声が聞こえた。

 鋼鉄の悪魔が詠い、巨大竜人の驚愕する声。

 私は恐る恐る目を開くと――巨大竜人のドリルは消え失せ、代わりに鋼鉄の悪魔の掲げた右手の先に『何か』が現れようとしていた。


『望みは叶った。されど達成感はなく、しかし後悔もなし。

 ゆえに我らは続けよう。ここから始まりし創成期。

 我らこそが、世界を安定に導く者なり。

 眼前の巨悪を打ち破り、平和を維持する守護者なりっ!!』


 そこで私はようやく気付いた。

 そうか。この呟きは無意味な物なんかじゃない。

 これは……うただ。

 必殺技を繰り出すため、紡がれる唄。すなわち詠唱だ。


 かくして――この世に新たな奇跡が現出する。


『アルテミスの神弓しんきゅうっ!!!』


 鋼鉄の悪魔の右手の先の『何か』が巨大な弓となった。

 それは金色に輝く光の弓と矢。

 近くに居るだけでびりびりと感じる――絶対の武器だった。


『クリア。クリア――クリア――クリア――クリア――クリア――クリア――クリア――クリア――オールオッケー。スタンバイ、カウント3……2……1……0』


「くっ――」

「やっちゃえぇえぇぇぇぇぇぇ!!」


 

 カウントが0を告げると共に、私は右拳を前に突き出して止めだと言わんばかりに巨大竜人を見据える。


 そんな中、鋼鉄の悪魔は流れるような動きで光の弓を引き、カウントダウンを終えると共に矢を発射した。

 なぜか誰も居ない上空へと――



「「え?」」


 結果、身構えていた巨大竜人と私は肩透かしを食らう事になる。

 しかし、すぐに巨大竜人は立ち直って鋼鉄の悪魔を馬鹿にしたような目で見てきた。


「くくく。はははははははははははっははは。惜しい惜しい。凄まじそうな一撃だったが、あらぬ方向へ飛んでいってしまったなぁ。あはははははははははは」


 本当におかしくて仕方がない笑い続ける巨大竜人。

 そこに――巨大な光の塊が降ってきた。


「あばはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ふぇ?」


 光は巨大竜人をすっぽり呑み込んで全てを破壊し尽くす。

 そして――


「いんぎゅあああああああああああああ」


 光に全てを破壊され、巨大竜人は光と共に跡形もなく消えたのだった。


「あ、あ、あ」


 あまりにも圧倒的な戦いに、もはや感情がついていかない私。何を感じたとかどうかじゃなく、何も感じる暇がなかった。

 しかし、当の勝者である鋼鉄の悪魔は心なしかつまらなそうに言い捨てる。


「ふんっ。他愛もない。ただの雑魚だったようだな」


「いやいやいやいやいや。絶対に強敵だったと思うわよ!? ちゃんと名乗れてなかったけど四天王みたいなオーラはびしびし伝わってたからね!?」




 その後、私の想像通りと言うべきか。各集落を襲っていた魔物&魔王達の連携は乱れに乱れていた。

 やっぱり。鋼鉄の悪魔が倒したさっきの敵はこの戦場で指揮官とかそういう偉い人だったみたい。

 それらを千切っては焼却。千切っては冷却して騒動を治め、私と鋼鉄の悪魔は元居たエルフの集落に帰還するのだった。


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