第8話『魔女の一撃』
「という訳で――ルゼルス、頼めるか?」
「ええ、いいわよ。私、ずっと戦闘に不参加だったから少しだけ欲求不満だったの。くすくすくす」
そうして――滅びの歌が奏でられる。
「あぁ、神よ――今こそ私は願う……どうか死ね。
誰も救わず――無秩序を許す神ならば――滅びてしまえばいい。
私が望む光が得られないのならば、
ルゼルスは両手を天に掲げ、魔術の詠唱を続ける。
彼女の周囲から禍々しい闇が漏れ出す。
これは――ルゼルスが得意とする闇の魔術。
「
滅べ、滅べ――何もかも滅び――朽ち果ててしまえばいい。
不浄な世界など――跡形もなく消え去ってしまうがいい」
闇が球形の形へと変化していく。
それは、直径5メートル大の球体。
秘められしは圧倒的な破壊の塊。何もかも破壊せんとする呪詛の塊だ。
その前には生物も無機物も関係ない。ただ、滅びを享受するのみ――
その魔術の名は――
「滅びあれ(ザース・アレ)」!!
ルゼルスの魔術が完成し、破壊の塊である闇の球体がダンジョンの入り口に向かって飛んでいく。
このダンジョンの入り口はそこまで大きいという訳ではない。大人数で押し寄せられない為か、入り口は数人が入れる程度の大きさだ。
当然、5メートル大の球体など収められるわけがない。
よって――闇は入り口を消し飛ばす。
それでも闇の勢いは止まらない。どんどんダンジョンの奥へ奥へと全てを吞み込みながら進んでいき、すぐに見えなくなる。
拠点破壊特化型魔術――ザース・アレ。
それは触れるもの全てを呑み込み、掠っただけでも滅びを与える。まさに死の球体。
魔術を放ったルゼルスは目を閉じ、意識を集中させている。
そうして数秒が経ち、ルゼルスの瞳が開かれる。
「弾けなさい(アウファン)」
ルゼルスが指を鳴らしたその瞬間、凄まじい振動と爆音が地下から響く。
闇の球体――ザース・アレが弾けたのだ。
弾けようともザース・アレの効力は変わらない。触れた者は呑み込まれるし、掠ったものは滅ぶ。
少し触れるだけでも人間は生命活動を止め、草は枯れ、大地は崩れるのだ。
これに触れればいかにダンジョンの主といえど無事では済まないだろう。少なくとも、コアごと呑み込まれればそのまま死あるのみだ。
更に言うなら、ルゼルスは同時に知覚の魔術を用いてザース・アレを最も適したタイミングで弾けさせていたはず。
だからおそらく――
「あ、魔物が勝手に死んでいきます」
周囲にちょこちょこ残っていた魔物を影で片手間に相手していたセンカが呟く。
見れば確かに周囲に残っていた少数の魔物はこちらが何もしていないのにも関わらず倒れていた。
これは……間違いない。ダンジョンの主が死に、そのコアが破壊されたことによってそのコア生み出された魔物が息絶えたのだ。
「ふぅ――少し地味だったかしら」
やり終えたルゼルスが赤の髪をかき上げながら不敵に笑う。
「ですねー。ルールルはもっとドカーンと花火みたいに辺り一帯丸ごと焼け野原にするのかと思ってました」
「くすくす。それでも良かったのかもしれないけどね。でも、ラースやセンカの事も考えて少し抑えたのよ。あまりトラブルを起こしてほしくないと思っていたでしょうしね」
「ルルルゥ? ルゼルスちゃん、そんな事考える人でしたっけ? 少し変わりました?」
「ふふ、そりゃあ変わるわよ。今の私には大事な人が居る。それも二人もね。一人で世界を敵に回していた時と同じでは居られないわ」
「ス・バ・ラ・シ・イ!! 愛ですね。LOVEですね。繋がりですね♪ 愛は全てを救う万能薬。奇跡を引き出す人類の持つ可能性――アア、サイコウデス」
ラスボス同士、談笑しているルゼルスとルールル。
愛について一人熱に浮かされながら語るルールルにルゼルスは少し引いている様子だが、それはこの際置いておく。
問題は……
「あ、ああ。
ダンジョンだった物の前で一掴みの土を握り、茫然としているシエルだ。
「これは――なぜか土が死んでいる。急速に生命の息吹がこの一帯から消失。結論――この土地は遠からず砂漠のような死の大地と化す」
それを冷静に分析するチェシャ。
とりあえず追い打ちはやめてやってくれと言いたい。
「えと……ごめん?」
シエルの項垂れた姿を見て罪悪感が重くのしかかってきたので素直に謝る。
別に俺がやったわけではないのだが……いや、言い訳はよそう。俺の指示でこうなったのだし、この結果も予想出来ていた。
先ほどルゼルスが放った魔術――ルゼルスとルールルは地味と評したが、とんでもない。
確かに純粋な破壊力と言う意味では派手さに欠けるだろう。
だが、この魔術の
この魔術が放たれた土地は、問答無用で死ぬ。
その土地で作物は育たず、水も腐り、動植物の一切も住み着かない死の大地。
それを作り出すのがこの魔術――ザース・アレだ。
チェシャの言う通り、この土地は遠からず死の大地と化すだろう。
まったく――
「どこが地味なんだかなぁ」
その後、何かとぶつぶつ呟くシエルだったが「よ、予定より早く済んだしこれほこれで良し……です。うん、多分。きっと――」と自分を無理やり納得させて立ち直らせていた。
そして――
「それじゃあお約束通り、ご案内しましょう。私の知り合いのエルフさんが住む地――エルフの集落へ」
そうして俺たちは足早にシエルの案内の元――エルフの集落へと向かう事になった。
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