第22話『隠密さんは行動を共にしたい-2』


 あまりの急展開ぶりに話に付いていけなくなる俺。

 動揺する俺に気付いているのかいないのか、チェシャの話は続く。


「男性は生殖行為を行った相手を自分の所有物だと錯覚する傾向がある。そこには信頼関係が生まれる。特にラースは生殖行為に多大な興味を持つ年頃。効果的。ゆえに、信頼関係を深めるために生殖行為は最も効率的。だからラース、私を抱いて」

「それは順序が逆だろ!!!!!」


 信頼関係があるからこそそういう行為に及ぶんだろうが!!

 無の関係性からそういう行為に及んで、信頼関係が生まれるパターンなんて……あるにはあるんだろうけどそんなのレアケースだろ?


 そんな俺の激しい反論に対し、頭に?マークを浮かべるチェシャ。

 このポンコツ無感情娘。マジで俺が何に憤っているのかわかっていないらしい。


「不可解。男性は生殖行為を好むはず。なにゆえ拒む?」

「男を下半身だけの存在にすんな!! いや、まぁそれもあながち間違っていない話ではあるんだが……」


 男は一分間に一回はエロい事を考えているのだとか。そんな話をどこかで聞いたことがある気がする。


 しかし……ああ、もう。チェシャの言い分を全くの間違いとも言い切れないのが非常に面倒くさい。

 どう説明すれば分かってもらえるか考える俺をよそに、チェシャは何やらぶつぶつと独り言を呟いていた。


「――――――考察。ラースの好みと私の現状の不一致。連れてる彼の仲間からラースの好みを計算。――――――個体『ルゼルス・オルフィカーナ』童顔小柄。個体『センカ』同じく童顔小柄。個体『ルルルール・ルールル』平均的。しかし、思考回路が幼稚。――――――結果判別、ラースの好みは幼い容姿、もしくは幼稚な思考の持ち主。私自身の肉体は十分に許容範囲内。――――――問題点検出。思考が幼稚なそれとは一線を画す。適正な思考をトレース。――――――実行Run


 ぶつぶつと何やら呟くチェシャ。

 そして次の瞬間――無表情だった彼女は恥ずかしそうに頬を染めながら、


「ん……ラースおにぃちゃぁん。チェシャ……せつなくてたまらないよぅ。早くラースお兄ちゃんの……ちょうだぁい。無責任にチェシャを犯してぇ……」


「OK。お前が俺の事をどう思ってるのかは大体理解できた。だからその演技をやめろ。すぐやめろ。即刻やめろ。頼むから」


 まさに迫真の演技というやつだったが、いきなりすぎて戸惑いしか感じられない。――ってか誰がお兄ちゃんだ。俺に妹なんぞおらんわ。

 俺の静止を受けて、チェシャが恥ずかしそうな顔から一転して無表情顔へと戻る。


「――不可解。なぜ生殖行為をしない? 先ほど述べた通り、責任は取らなくていい。男性は責任を負うのを嫌がる。ゆえに、無責任というのは理想的なはず。再度質問。なぜ私を犯さない?」


 こいつ……本当にそこら辺の事が分かってないのか? チェシャの正体、本当は機械人形とかじゃないだろうな? それならここまで感情の起伏がない事にも説明がつく。

 しかし、感情という物があるかどうかすら怪しいこいつを納得させるのは骨が折れそうだ。

 こいつを納得させるのに感情論は不要。理詰めでないとこいつは納得しないのだろう。

 俺は無い頭をフル回転させ――


「お前の言ってることは確かに間違っちゃいないんだが根本的にずれてるんだよ。とにかく、俺はお前とそういうことはしたくない。百歩譲って同行を許可するのはいいとして、そういうことをする必要性を感じられない。なぜなら――」

「――言質を取った。ラース。あなたは私の同行を許可した。これよりチェシャはラース達と同行を共にする。異論は認めない」


 ………………おや?

 理詰めの理論を語る前に何か大事なものが崩れ去ったような?


「あ、ラース様がとうとう押し負けましたね」

「そうね。でもまぁ頑張った方じゃないかしら? もっと早く押し負けると思ってたわ」

「ラー君は押しに弱いからね~。これからよろしくね、ちーちゃん♪」

「……ん。よろしくお願いする」


 傍から一連の流れを見ていたセンカ、ルゼルス、ルールル。

 なぜかチェシャを歓迎するかのような空気だ。

 こういう時は……そうだ。現状の把握だな。


 チェシャに仲間にしてくれと請われた。

 ↓

 いつものように断った。

 ↓

 今回はルールルの件もあり、しつこく迫るチェシャ。俺が十六歳という年になったからか、アダルト方面の攻めも駆使してきた。

 ↓

 同行するのを許可するとしても、そういうことは絶対にしないと宣言する俺(途中で遮られたけど)。

 ↓

 言質を取ったと引き下がるチェシャ。

 ↓

 今に至る。




 ………………。

 ふむ……あー、なるほどなー……俺、うっかり同行を許可しちゃってるね。

 しかも、流れ的にみんな歓迎ムードだね。


 ………………いやなんでだよ!?


「ちょっとちょっと皆さんよぉ。なーんでそんな歓迎ムードになってるのかねぇ!?」


 センカもルゼルスもルールルもなぜこんな簡単にチェシャを受け入れてんの?

 俺のそんな疑問に対し、三人は別々に答える。


「チェシャさんが仲間になるのはセンカにとっても悪くない話ですしね。確かに恋敵は増えますけど、そのぶん強敵のルゼルスさんという壁を乗り越えやすくなります(現状、ラース様はルゼルスさんしか受け入れるつもりがないみたいですし。でもでも、誰か一人でもその壁を突破してくれたら、多分なし崩し的に私も含めた他の子も受け入れてくれるはずです。多少、癪ではありますけど仕方ありません)」


「くすくす。私はセンカの味方よ。センカがチェシャを歓迎するというのなら、私も彼女を歓迎するわ」


「――っていうかラー君『メッ』ですよ? ちーちゃん一人だけ仲間外れだなんて可哀そうです。そんなの『平等』じゃありません」



 ぐっ……各々きちんと考えているという事か……。



 特にルールル。彼女を説得するのは不可能に近い。

 なにせ、彼女は平等を愛する。

 そんな彼女が不平等とみなした物をそのまま看過してくれるはずがない。

 このまま無理強いしてチェシャを仲間外れにした場合、確実にルールルから不興を買うだろう。永続召喚したばかりなのに、だ。それはとてもよろしくない。



 ――という事は、もはや勝敗は決まったような物で……えぇい、くそ。


「わかったよもう、俺の負けだ。チェシャ、お前の同行を許す。………………だけど、足手まといだと感じたら即刻出て行ってもらうからな!? 一人だけ対して役に立っていないのに他の仲間と同列扱いってのも不平等だしな。そこは了承してもらうぞ?」

「了解した。それで構わない」


 俺の脅し? にも表情一つ変えず了承するチェシャ。


 ……なんかこれ、俺が悪役みたいだな。

 しかもラスボスとかそういう格好いいのじゃなくて小悪党ポジション。俺も他の三人に倣って素直にチェシャを歓迎した方がいいのかな?


 ――いや、ダメだダメだダメだ!! 流されるんじゃない。心を強く持てラース! お前は誰も彼もに愛想良く振る舞う主人公じゃないだろうが!





 こうしてルールルに続き、チェシャまで仲間に加わった。

 教会との決戦が待ち構えているのにこれって……いいのかなぁ?

 俺はそんな不安をこっそりと抱えながら、ルゼルスの魔術で活動拠点の町へ戻り、そこで決戦に備えて休息やら技能の試し打ちやらをするのだった――



★ ★ ★


 チェシャ・カッツェ 19歳 女 レベル:58


 職業クラス:隠密


 種族:人間種


 HP:1323/2323


 MP:902/902


 筋力:1324


 耐性:1192


 敏捷:1036


 魔力:855


 魔耐:921


 技能:気配遮断・聴覚強化・嗅覚強化・夜目・鑑定


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