第52話『最低なラスボス』
時は少しだけ遡る。
ルゼルスとアイファズが戦いを繰り広げている最中、俺は激しい体の痛みに耐えながらも二人の戦いを見ていた。
幸い、ルゼルスが張ってくれた防御結界が俺とセンカを守っている為、他の敵を警戒する必要はない。
「ラース様ぁ! しっかり……しっかりしてください!!」
「うぐっ……だいじょ…………がっあぁっ――」
俺が苦しむ中、必死に呼びかけてくれるセンカ。
大丈夫と返したいところだが、声を出そうとするだけで喉が張り裂けそうになるくらい痛い。
諦めて俺はルゼルスとアイファズの戦いを見させてもらうことにする……のだが……。
(ルゼルス……遊んでるな)
やろうと思えば一瞬で決着をつけられるだろうに、彼女は思いっきり遊んでいた。
まぁ、その理由は分かる。気に入らないアイファズを可能な限り絶望させ、その上で殺したいからこそ遊んでいるのだろう。
それは理解している。
理解しているのだが……
(あぁ、またわざと斬られて……くそっ、アイファズのやつ。ルゼルスを傷つけやがって……マジで許せん)
ルゼルスをその剣で斬るアイファズ。
ルゼルスは驚異的な再生能力を持っている為、あの程度の傷はすぐに癒せると理解しているのだが……こうして実際に傷つけられている姿を見せられるとイライラする。
俺の女を好き勝手しやがってという思いが沸々と湧いてくるのだ。
(俺が手を下したいところだけど……今は体が痛すぎて動けないしな。ルゼルスに任せるしかない……か。くそっ、ルゼルスもルゼルスだ。そんな奴相手に傷を負う必要なんてないだろ。アイファズを絶望させるための演出だって理解してるけどさぁ)
好きな女が傷つけられている姿を見て、怒りを露わにしない男なんて居ない。
俺もその例に漏れず、アイファズに対しての怒りがどんどん募っていく。
そして決着が着いたと思った次の瞬間――聖黒の炎で消滅したはずのアイファズがルゼルスの手を掴んでいた。
それだけならまだ良かった。
事もあろうに、ルゼルスの手を掴んだアイファズは無理やりその手を引き、彼女を抱きしめたのだ。
(はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?)
その光景を見て、俺は怒り狂う。
当然だろう。好きな女が憎き男に抱きしめられているのだ。
俺の怒りメーターがマックスを完全に振り切った。
「ゆる……さん」
「え?」
センカが困惑した声を上げるが、今は怒りでそれどころではない。
続いて、アイファズが自爆したことで奴の狙いを遅れて把握した俺だが……それでもこの怒りはもう止められない。
(俺のルゼルスを好き勝手しやがって。斬って斬って斬りまくった挙句、抱きしめるだと? ふざけんなよクソがぁっ!! そこにどんな理由があったとしても許せん)
体中を襲っていた痛みが和らいでいく。
そのせいで、怒りだけがこの身を支配する。
そして――システムメッセージが目の前に再表示された。
『――完了しました。
ルゼルス・オルフィカーナのステータス、その10%が付与されました。
ルゼルス・オルフィカーナの一部技能を獲得しました』
肉体の強制強化が終了したようだ。
少し今のステータスを見てみたい気もしたが、今も五体満足で立っているアイファズをこの手でいたぶりたいという気持ちが抑えられない。
既にルゼルスの手によっていたぶられた後のようだが、関係ない。
――真の恐怖をアイツに教えてやる――
「憑依召喚。対象は――サーカシー」
『イメージクリア。召喚対象――サーカシー。
憑依召喚を実行――――――成功。
MPを100消費し、24時間の間、悪逆皇帝サーカシーを肉体を依り代に召喚します』
そしてこの身に――狂気が舞い降りる。
「アイファズ……アイツ……ムカツクナァ……」
あぁ――頭がくらくらする。
怒り、狂気。それらが俺を支配する。
それでも――ギリギリ俺はまだ俺のままだ。
おそらく、俺の怒りがサーカシーの意識を上書きしているんだろう。
まぁ、今はそこらへんの考察はどうでもいい。
今やるべきことだけはハッキリしている。
それは――
「俺の手で……アイファズ、お前に真の恐怖を刻みつけてやる」
「ラース……様?」
傍らでセンカが心配そうにこちらを見つめている。
「センカ、俺の陰に隠れてろ。俺はもう大丈夫だ」
「えと……」
何かを言いたそうにしているセンカ。
そんなセンカに対し、俺は怒声を上げる。
「いいから俺の影に隠れてろっ! 邪魔だっ」
「は、はいぃ」
俺の命令に従い、俺の影に隠れるセンカ。
サーカシーの力をもってしても、影には干渉できない。影に隠れている限りセンカの身は安全だろう。
「さて――」
後はこの狂気に身を任せ、アイファズをいたぶることにしよう。
幸いというべきか、アイファズは不死身っぽいし。それを葬るという意味でも『サーカシー』は最適なラスボスだ。
本当にアイファズが不死身なのであれば、ルゼルスにそれを滅ぼす手段はない。
だが――サーカシーならば話は別だ。
悪逆皇帝サーカシー。
このラスボスは……端的に言えばクズだ。
拷問が大好きで、人の苦しむ姿を見るのが趣味という人間として最低なラスボス。
ラスボスらしい信念なんてまるでない。自身より劣った者達を支配する事で優越感に浸るだけのド外道だ。
奴の生きる世界『ラストファンタジアⅥ』では自身に制約を付けることでその力を高めることができるという設定がある。その制約が重いものであればあるほど、その制約をかけられた者は強くなれるのだ。
そんなサーカシーが自身にかけた制約は『絶対に生き物を殺せないという制約』と『狂化の制約』。
元々、半ば狂っていたサーカシーにとって、狂うことは苦痛ではなく、生き物を殺せない制約というのは、逆に言えばどれだけ相手を痛めつけても殺さずにすむ加護とも言えた。
そうしてサーカシーは圧倒的な力を得た上で狂い、容赦なく相手を痛めつけても殺さないですむ加護を手に入れたのだ。
正直、その生き様は俺の好みから完全に外れている。
だが、俺はそんなサーカシーを少しだけ気に入っている。
なぜか?
理由は単純。
それは――圧倒的なまでに奴が強いから。
ただ、それだけの理由だ。
俺はルゼルスの張ってくれた防御結界から出て、アイファズを睨む。
奴もこちらに気づいたのか、こちらを見つめている。
やがて、アイファズの方からこちらに突っ込んできた。
その瞳には『まだなんとかなるかも』という希望の光が灯っていた。
おそらく、俺を殺せばまだ危機を脱せるかもしれない……なんて事を考えているんだろう。
散々、アイファズはルゼルスに遊ばれていたからな。矛先をこちらに変えるのは至極当然と言うべきか。
その希望――すぐに絶望へと変えてやる――
俺は憎きアイファズを睨み、吠える。
「アイファズ……ぼくちんの……俺の……ルゼルスを……よくも好き勝手してくれたなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
やはりサーカシーの精神が俺を冒しているのか。言動が少しサーカシー寄りになってしまっていることに気づく。
だが、気づいたところでどうしようもない。
俺は怒りのままに、サーカシーの力を開放する。
「絶対に許し……ませぇぇぇぇぇぇぇん。――対人間用拷問器具、第三十三番機構、串刺し――」
サーカシーが持つ数百の拷問道具。その一つを開放させる。
選んだのは串刺し。まずはこれで動きを封じる。
「は? ぎ、やぁぁぁぁぁぁぁっ――」
足を串刺しにして、アイファズの動きを制限する。
それにしても……あぁ――憎い奴の悲鳴のなんと心地いい事か。
やっぱり嫌いな奴をいたぶるのは……楽しいですねぇ♪
俺は苦しむアイファズの姿をもっと見たくて――奴を串刺しの刑に処す。
「ぷっくくくくく。あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。串刺し♪ 串刺し♪ 串刺し♪ 串刺し♪ 串刺し♪」
「あぶ、もっ、なにが、やめっ」
さぁ――楽しい楽しい拷問の始まりだ――
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