第20話『解決済み案件』
なぜだか知らないが、俺は日本のヤクザやマフィアに近い行いをしているという『デスロータル』の皆さんに狙われているらしい。
しかも探しているのは『ラース』ではなく『ラース・トロイメア』だと言う。俺の元々の本名を知っているのか……。
という事は相手は少なくともこの街――スタンビークに来る以前の俺の事を知っているという訳だ。
そんな事を考えている間も、テラークさんの話は続く。
「まぁ、家名がある人間をわざわざ探してやる事なんて言ったら限られてますからね。おそらく暗殺か何かが目的じゃないすか? その『ラース・トロイメア』って奴が何をしたかしりませんけど」
えーっとですね。そいつ、ここから遠くの地で罪もない審判を斬り殺して逃げてきましたね。ぶっちゃけ、犯罪者って奴ですね。
「しかもこれまた厄介な事に背格好から人相まで兄貴とそっくりなんすよ」
そりゃあそっくりだろうね。なにせ本人だからね。
「だから兄貴。気を付けて下さいよ? あいつら、
いや、間違いじゃないよ。俺にそんな客が来たら大正解だよ。
しかし……解せない。
確かに俺(正確には斬人だけど)はアスレイク領の冒険者学校で無実の審判を斬り捨てた犯罪者だ。
だからこそ捕まらないようにここまで逃げてきたわけだが……来るのが裏稼業専門の集団?
そこは普通、騎士団的な人が来るんじゃないだろうか?
裏稼業専門の集団なんて、まるで事態を大ごとにしたくないみたいな意図を感じる。
「うーん――まぁ、なるようになるか」
考えても答えは出ないので思考をやめる。
それをどう思ったのか、テラークの忠言は続く。
「いや、油断しないでくださいよ? 確かに兄貴はクソ強いです。冒険者でいうなら間違いなくAランクの中堅には入れる強さでしょう。ですけどね? 『デスロータル』の幹部は全員Aランク下位以上の腕を持つ奴ららしいんですよ。しかも、その奴らが先日この街で確認されたらしいです」
「マジか」
それは気を引き締めないといけないかもしれない。
ラスボスの十分の一の力しか引き出せない憑依召喚では遅れを取る可能性がある。
「ええ、マジです。あいつらの特徴は分かりやすいですよ。全員、黒のフードを羽織っているんです。それで幹部連中は何の拘りか、得意とする武器がバラバラで凄腕のナイフ使いやら槍使いだったり――」
「ちょい待った」
そこで俺は既視感を覚える。
黒フードの……武器の種類がバラバラの暗殺者集団?
それって――
俺はまさかなーと思いつつテラークさんに探りを入れてみる。
「ねぇテラークさん。その幹部連中って十数人くらい居るの?」
「おぉ、さすが兄貴。良くしってますね。あいつらの組織は大きいですからね。正確には幹部が十三人居ます」
『……ねぇ、ラース。それって――』
ああ、うん。分かってるルゼルス。俺にも大体話は見えた。
それ――――――もしかしなくても昨夜ルールルが虐殺した暗殺者集団じゃないですか。
そっかぁ。あの人たち、そんなに強かったのかぁ。
それはまぁなんというか……相手が悪かったですね。ご愁傷様としか言いようがない。
ルルルール・ルールルを相手にする場合、戦闘力なんて飾りだ。
なにせ、ルールルは未練があったら死ねない呪い(祝福)を持っているんだから。
ルルルール・ルールルとの戦いは、決まって相手の心を折る戦いとなる。
だからこそ、ルールルを相手にする場合はルールルを肉体的に追い詰めるのではなく精神的に屈服させなければならない。
もしくは、ルールルに救いを与え、その中で未練が残らないように殺すしかルールルに勝つ術はないのだ。
その点、暗殺者さん達は運が悪かったとしか言いようがない。
これで俺が召喚したのが他のラスボスだったのならばまだ彼らに勝ち目はあっただろうに。
少なくともウルウェイと斬人は多人数向けの能力ではないから物量で圧倒されていた可能性がある。
『ラース、あなた、運が良かったわね。なんだかんだでこうしてあなたの心は無事なのだし』
ホントにねー。
ルールルはその能力の性質上、ラスボスの中でも最も殺すのが難しい。生き残るのに最適なラスボスだ。
暗殺者集団に狙われていたあの時点で引き当てたのは本当に運が良かったとしか言いようがない。
「兄貴、どうしたんですか?」
「いや、別に……。ああ、それでその『デスロータル』の幹部さん達なんだけどさ。もしですよ? もし俺が返り討ちにしてやりすぎて殺しちゃったりしたら……まずいですかね?」
恐る恐るといった感じでテラークさんに尋ねてみる。
もし殺人ダメ絶対とか言われたら……どうしよう。また逃げるか? いや、幸い死体は細切れで今も森の中だ。今頃魔物なんかが食い散らかして証拠なんて残ってないはずっ!!
『完全に犯罪者の思考ね、ラース』
うるさいよ、ルゼルス。俺だってそう思うよ。でも、俺は悪くない……はず。
『まぁ、心配しなくてもあなたは悪くないわよ。悪いのは暴走しすぎるラスボスね。いえ、まぁラスボスなんだから暴走が当たり前みたいなところはあるけれど』
そういう動き出したら止まらない所もラスボスの魅力だけどな。
『魅力だけどなって……はぁ。あなたのラスボス好きも相当な物ね。呆れ果てるわ』
いやぁ(照れ)
『褒めてないわよ?』
まぁ、ですよねー。
『ふふっ』
なんていうやり取りをルゼルスとしていたら
「あの……兄貴。さっきから何一人で百面相してるんですか? 正直、気味わるいんですが……」
「あ――」
しまった。ついついルゼルスとの脳内会話に花を咲かせてしまった。
俺はこほんと咳払いして
「それで? 『デスロータル』の幹部さんに襲われた時、返り討ちにしちゃってやりすぎちゃったらやっぱり罪に問われるの?」
と、さっきした質問をもう一度した。
「あぁ、聞いてなかったんですかい? まぁいいですけど……。罪になんて問われませんよ。っていうか全然ぶっ殺してOKです。なにせ、奴らには懸賞金がかかってますからね」
「懸賞金?」
「ええ。将来有望な貴族様の子息や駆け出しの冒険者を攫ったり狩ったりとこの国の王様が嫌いそうな事もあいつらやってますからね。生死問わずで懸賞金が出てます。確かボスのが5000万ゴールドで、幹部連中が2000万ゴールドだったかな?」
「5000万っ!?」
懸賞金の額の大きさにびっくらこく俺。
ちなみにこの世界におけるゴールドの金銭価値は日本円とそこまで大差ない。
「ええ。しかし何をそんなに驚いててるんで? あ、もしかして兄貴。もう奴らを
「あ、うん。そのボスさんが混じってたかどうかは分からないけど幹部っぽい人はみんな細切れにして、今は北西の森の肥やしになってます」
「「「………………」」」
瞬間――会話を聞いていた冒険者達が皆一様に口を閉ざした。
その多くが「何を馬鹿な」と
(((コイツやべぇ)))
――と。
そんな中、最も近くでそんなやべぇ奴であるラースと相対していたテラークは引きつってしまった顔を無理やり笑顔に戻し
「さ、さっすが兄貴ぃぃ! そこに痺れる憧れるぅぅぅ!」
と、『もうラースの兄貴ならなんでもありか』と内心感じつつ考える事を放棄したのだった――
余談だが、『デスロータル』の幹部を倒したとギルドに報告したのだが、何一つ証拠となるようなものがなかったので懸賞金はもらえなかった。ぐぬぅ。
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