忌避転々

蓮歌

短編②

 とある中世の住宅街の路地裏。そこにはその日暮らしを続け、帰る宛の無い人々が集まる。ここで暮らす人々には様々な事情がある。家を追い出された者、指名手配をされた者、そして──


「どけっ!お前なんかに食わせる飯なんかねぇよ!」

「何回言っても無駄だろ。悲しいもんさ、生まれながらに差別されるなんてな…」


 元は貴族、今はホームレス。彼女は忌み子であった。生まれながらにして謂れの無い差別を受け、遂には生まれし都から追放された。流れ着いた場所は住宅街の路地裏。しかし、ここでも偏見に満ちた視線が彼女を取り囲んでいた。


「ねー、ミーちゃん。今日なんか寒くない…?」

『いつもよりは寒いかもね…でも、そんなに着込んでるなら大丈夫じゃないの?』


彼女には生まれつき人外の能力が備わっていた。


「確かにね。でも寒いものは寒いんだよ…また出た。人攫いだ」

『あーちゃん、暴力は駄目だよ?』

「だいじょぶ、なんとかなるよ」

「お、居た居た。そこの嬢ちゃん!今なら悪いようにはしねぇ、ちょっと来いよ…」


彼女は人攫いを一瞥し、言い放つ。


「覚悟は出来てるの?」

「はっ、こんな小娘一人。傷でも付けられちゃあ男の名が廃るってもんだろ」

「そう…」


 彼女には生まれつき人外の能力が備わっていた。一つは《動物との意志疎通》。

そしてもう一つは──


「逃走!ミーちゃん行くよ!」

『ちょ、乗せてよっ』

「は?」


もう一つは、《動物の特性模写》であった。


「おいガキ、待て!」


男は路地裏を駆ける。しかし──


「あいつ、何て速さしてんだよっ」

「ふん、その程度なの?」


彼女は'人ならば'見慣れぬ姿勢…四足歩行で路地裏を駆け続ける。


「チィ、こっちのはずなんだが…」


男は彼女を見失ってしまった。だが、彼女が男を見逃す訳も無く──


「よしよし、気付いてないね…ミーちゃん、合図お願い」

『んー…っと…今!』

「よいしょっ!」


ガンッ!無機質な衝撃が男を襲う。男は言葉を発する間もなく倒れたのだった。


『あちゃ…あーちゃんこいつ死んでないよね?』

「流石に死なないでしょ、よしよし、お金発見」


彼女は男の財布を盗り、その場を去る。


「今回も中々の儲かりだ…やったね」

『次はもっと穏便に行こうよ、ほらほら』

「はいはーい、そーですね…っと!」


二人は今日も路地裏を進む。

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