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「どういうことかわかった?」
「どういうことって言うと少し語弊がありますよね」
「そだねー」
「けど、わかりましたよ。先輩がなぜサークルに入ったのか、そして私のことが」
「私は全部わかってたわけじゃないけどね。私は私のことと、雛ちゃんがそうじゃないのかなって推察したに過ぎないんだから」
「先輩はもの凄く化の皮をかぶってますよね」
「そう、実物の私はこんなもんだよ」
「ちょっと、下着つけてください」
「えー、やだよ。せっかく裸になれたのに」
こんな感じなら私がなんと言おうとこのままでいるのだろうな、とそこで私は諦める。私はもう一度、先輩の裸を見ておく。特に何もない、感想もない。
「じゃあ、言いますよ?」
うん、と先輩は頷く。私の気づきを、今日一日提示され続けた質問の、私なりの答えを。
「先輩はもしかしたら私になりたかったのかもしれない。けれど本当は自分自身のままでいたかった」
うん、とさっきと同じように先輩は頷く。あっている、という意味だと私は捉える。
「だけど、それになるための才能はなかった」
「そう。残念なことにね」
「──だから形から入ることにした。ファッションから口調から。それっぽさを演じて。そうではない自分を演じるために、またそうである自分を隠すために」
──そして、役を演じることを覚えるためにこのサークルに入った。
「正解」
無意識的に感じ取った感覚を言葉にするにはなんて言葉は不器用で、私は口下手なのだろうと感じる。けれど、これだけの言葉だけで、先輩は私の言いたいことをなんとなく掴みとり、誘導してくれた。
「ま、役を演じることを覚えるってのは言い過ぎだけどね。このサークルに残ってるってのがそういう理由なだけで。入りたての頃はもっと普通に青春がしたかったよ」
そこまでは知る必要はないよ、と先輩は恥じる。
「気づいたポイントはどこだったの?」
「先輩の裸です」
「え、なんだか照れるなあ」
裸の先輩はあぐらをかいている。
「先輩の裸を見た瞬間、先輩のキャラ付けが剥がれたんです」
キャラ付けというのは、自己満だけれど上手い言い方だと思った。私の少ない語彙から出た最適解、というか感じがするから。
「ほうほう、私のキャラは全て虚像だと?」
「そうです。先輩は嘘なんです。今の裸の先輩が本当で、メンヘラしている先輩は先輩じゃない」
言い切った私に一定の同意を示すと同時に、否定した。
「じゃあ雛ちゃんは裸の私を書くの?」
「そうです。そういうことなんですよね?」
「違うよ。雛ちゃんには私の憧れを書いて欲しい」
「それじゃあ、」
それじゃあ意味ないじゃないですか。なんのために謎解きまでしたんですか。心の中で愚痴る。
「意味ないって? 意味はあるよ。私の今を知った上で憧れを書くんだもん。リアルになるはずだよ」
「そうなんですかね」
私はまだ腑に落ちなかった。けど、先輩がそういうのだから、と納得した。することにした。
「先輩の理想ってなんですか」
「気持ちよく死ぬことでしょ」
「そこは変わんないんですね」
乾いた笑いが口を衝く。
あともう一つ。口には出さないけれど、私自身の中で答え合わせをする。私が先輩のことをイラついたことがあったのは、同族嫌悪だったからだ。私と先輩は少し似ている。
「自分のことを削るように小説書いてるでしょ?」
答え合わせの前、先輩はそんなことを言った。私は否定することもなく頷いた。
「それってものを書くには限界があるよね」
「そうだと思います」
小説書けたらなぁ、と先輩がラブホの天井を見て言った。
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