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「起きた──?」
目を覚ました私の元に、私のことを慮る先輩の声が耳に届いた。
「あれ、ここどこですか?」
行ったことはないはずなのに、記憶の端端にある資料を照らし合わせ、いやそんなはずはないと思うことにする──が。
「ラブホだよ」
「⁉︎」
飛び跳ねるようにして起き上がると、肌に纏っていたタオルがはらりと落ちた。
私は下着姿で、先輩は胡乱げな瞳で窓の外を見ており、私は首、脇、腿の下あたりにペットボトルを挟んでいて、先輩は既に私の処置を行っている。先輩は私の裸を見ているし、私はその時の記憶がない、先輩はまだ私に裸を見せていない。
「あはは、そんな顔しなくて大丈夫だよ」
「いや、でも」
「熱中症で倒れたんだよ、雛ちゃん」
諭すような声だった。別に私はラブホに連れ込んだことを責めたりはしないのに。
「すみません、ご迷惑をおかけして」
「いいよ、いいよ。私が悪いんだし。雛ちゃんに疲れてもらいたかったんだけど、やり過ぎちゃったみたいだね」
先輩は滔滔と自白した。悪びれもせずに、いや、正面から自白することで心からの謝罪を意味したかったのかもしれない。
「先輩、私──」
私は下着姿なのに、恥ずかしさはあまり感じなかった。なぜだろう。高揚感のある感情が私の腹のあたりに停留していて、じくじくと興奮が波打った。
何を言おうとしたのかわからない。私は、私は、と言葉を続けようとしているのになぜか音にはならなかった。
帰りましょうか、というべきなのかもしれない。けれど、まだ私の病状は安定していない。それは私の体だから一番わかっていた。
先輩は服を脱ぎ始める。
ニーハイをするすると脱ぐ様を私はじっと見ていた。じんわりと熱の籠った、すべすべとした足の表面にはまだらに汗が浮かんでいた。
私より膨らみのある双丘は、先輩の動きにつれて揺らぐ。
私は一線を越えてはいけないという危機感をあまり抱いていなかった。
語りかけるように先輩は肌を露にしていく。
その間、私は一ミリたりとも動けなかった。魅せられていたのだろう。西宮先輩という存在に。
「雛ちゃん」
猫撫で声の先輩が私の名前を呼ぶ。私は、意識を刈り取られるように、「はい」と答えた。
「いいんですか」
なぜか私から了承を求めている。
「今なら書けそう?」
先輩が私に近づいた。まだ大事なところは布で覆われている。
「?」
「私の小説」
「……」
「雛ちゃんもぬごう」
温くなったペットボトルをベットから落として、この舞台にいるのは私と先輩だけになる。
先輩が私から私の隠すものを奪った。はい、とか細い声にならない声が私の喉を震わす。今の私にとって、下着なんてくだらないものだった。
「じゃあ、私も」
私が一糸纏わぬ姿になると、満足したのかおもむろに自分も裸になった。
「一緒だね」
愛らしい声を出して、私を挑発してくる。
私も先輩の全部を見る。観察するように、舐め回すように。私たちはそういう行為をするんだ、負けてられない。そんな思いだった。
先輩の裸はやはり綺麗だった。
欲情させる体つきは、同性から見ても羨ましく興奮させた。先輩は。既に興奮させきって、体全部をもって、私を誘惑させてくる。
少し、離れる。胸を揺らして、私に吸い付けと言ってくる。
そこで私は、先輩の全身を見る。一つのシルエットとして、先輩の全身を。
そしてはっとする。断片的な情報が、全て一連の情報として結びつく。
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