Act.67 キャメリッシュトラブル、カムヒア
一行が思わず声を上げた理由は、砂煙の中に巨大な影を視認した事が原因である。その影の規模から、すでに部隊で相手取った怪獣クラスの異獣を想像してしまったのだ。
が――
「待てよオイ! ベイルーン・サバンナにまで怪獣が出るなんざ聞いてねぇぞっ!?」
「うわうわ、しかもなんか追っかけてる!? 獲物な獣を追ってるって事!?」
「の、ノマさん!ドラケン操って回避だ! アレの進路上に荷車がいたら、旅の物資が踏み潰されて台無しになる!」
「わ、分かったアル! ハイヨ、ドラケン! ミシャリア様の声に従うネ!」
「シャギャァーーッッ!」
状況を素早く察する
睨む先には確かに追う巨体と追われる小型の獣。否――追う側が巨大過ぎて、生命種より大きめの体さえ小柄に見える動物が息を切らして駆けていた。
背にフタコブを構え、本来それほど早く走る事はないはずの動物種。砂漠地方を渡るためには必須の旅のお供。フタコブラクダルのキャメリッシュが、巨体に追われて逃走を続けていたのだ。
「って、ミーシャさん! そう言えば、いろいろなゴタゴタとドラケンが仲間に入った事で、すっかりキャメリッシュの借り入れを忘れていた感じ!?」
「でもアレ、ちょうど良くない!? ヒュレイカの乗る乗騎獣が欲しかったんでしょう!?」
「忘れていたとは失敬な! フィズを播く件が災いして、借り入れ時間がなかっただけだろう!? そもそもキャメリッシュは、冒険当初から借り入れる算段だったからね!?」
みるみる迫る小さな目標を捉え、大声でやり取りする
嫌な汗に濡れる真理の賢者は致し方なく、怪獣に該当する巨大異獣対策を脳裏で素早く組み上げていた。
賢者少女の意図は速やかに、移した双眸で精霊種家族らにも伝わり、そちらから怪獣の詳細を伝える声が飛ぶ事となる。
「体長が軽く50mを越えてる! 体躯としては小柄だが、れっきとした怪獣だぜありゃ! 普通に戦ってちゃ
「今は旅を急ぐさなかアル! ならばキャメリッシュ救出を優先して、術を用いて撒くが無難アル!」
『皆の言葉が状況に適切ですキ! 追う怪獣はアンギルモアス……固い甲羅と棘を背に持つ、肉食系にして地上を食い荒らす王ですキ! それこそかつて戦った
『幸いにも知能が低いためか状態異常が効き易く、急ぐ道中はそれを用い戦いを回避するも手ですキ!』
次々と飛ぶ精霊種の耳寄り情報で、瞬時に作戦が脳裏へ閃いた真理の賢者は首肯する。それを受けた生命種の主力達が、主の作戦号令を待つ様に砂煙を睨め付けた。
「全く……我が
「ならばあのキャメリッシュだけを救い、協力要請を申し出てみようじゃないかっ!」
巨大害獣の怪獣討伐は、悲しくも
乗騎用獣会得を懸けた、怪獣への陽動及び退避作戦の開始である。
∫∫∫∫∫∫
冒険の度に、
サイザー皇子殿下
出会う先々で強敵に巨大怪獣とぶつかるはすでに、ただの不運以外のなにものでもありません。
しかしそんな思考に惑わされている間に、小さな命が奪われるかも知れないので、ちょっと本気を出して逃走を計る準備をしましょうか。
なに……伊達に今まで、戦うだけの力がないと逃走を続けてはいないからね。
「では皆、簡潔に作戦を飛ばすよ!? 目的はあのキャメリッシュの保護と、怪獣 アンギルモアスとやらからの逃走だ! 戦略的撤退……かつての私達が得意とした、得意の逃げっぷりを披露してやろうじゃないか!」
王女様に真理戴く賢者を中心とした我が
「おっしゃ! 煙幕準備はいつでも行けるぜ!」
「んじゃあたしが、キャメリッシュに乗って強引にデカブツさんから引き離す!」
「それならオリアナさん!」
「そうね! 私とペネで、ヒュレイカを援護するわ!」
逃走さえも、専用の知識と道具を持ち成功させるテンパロットを皮切りに――
騎士である利点を活かし、キャメリッシュ保護を買って出るヒュレイカ。そのヒュレイカ援護へ素早く手を挙げるオリアナにペネ。
「ドラケンと、逃走経路上へ向かうアル! サラディンさんはこちらの援護、頼むね!」
「あいよ、ノマのダンナ! んじゃまサリュアナ……最強の
「サリー! トーソートーソー! にとをおう者はなんとか……サリね!」
『連携の度合いが、昔と比べるまでもなく洗練されていますキ! ではシェンも、この体躯と闇の精霊術で怪獣の目眩ましに飛ぶですキ!』
「ふふっ……テンパロットにヒュレイカはその意気だ! 君達は、ここにいる仲間と協力すればもっと強くなる! それにオリアナにペネ……二人の呼吸も揃い出してる! 良い成長だよ!」
「んじゃ王女様はちゃんと、ミーシャのそばにいるね! これは流石に私の出る幕はないから、足でまといにならない様気を付けるよ!」
頼もしき炎の親子に忠誠心がずば抜けるノマさん。リドジィさんに付くが常であった、すでに仲間でマスコットなシェンの力を借りて――
私も逃走成功率上昇のために、久々の術式展開に移りたいと思います。かつては非力であった私の攻撃術式も、この双腕に宿る
「よし、皆各々の役目へ飛べ! 但し後ろから、私の術式が飛ぶから注意する事 !言っておくけど、昔の様な貧弱極まる風の精霊術式ではない、修練装置解除の全力砲撃が飛ぶからね!」
『
咆哮が合図となり、武器を翳して飛ぶ仲間の姿を尻目に、
今までの様に不安塗れで放つ一撃ではない、揺るぎなき研鑽が生み出した誇りと自信に満ちた、自分自信の可能性の一欠。リーサ様により認められた、真理の称号戴きしこの御業なら、怪獣など恐るる事などなにもない。
けれど今この時は、大切な身内と救うべき弱者達のための逃げる選択をしたのです。私の力は――
力なき弱者の命を、救い上げるためにあるのですから。
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