第16話 お菓子パーティー
本日は。
久しぶりの休日です。
普通なら色々使い道はあるはずだ。
出かけたり、読書をしたり、あるいは一日部屋の中でゴロゴロしたり。
あるいは恋人がいる人は、楽しくその相方さんと親交を深めたりもするのだろう。
だが、恋人云々は元からいないので置いといて、この貴重な休みの数時間はレーシャさんの為に使おうと思った。
いつもお世話になっているし、話し相手になっってもらったり友人として接してくれているのはありがたかった、なにより今まで頑張ってきたらしい友人を労わずに、どうして友人を名乗れようか。
そういうわけで、先日行った調査結果を元にして、レーシャさん用プレゼントを用意する為、王都の町中を奔走した。
順番に名のある菓子店をまわって行き、色んな焼き菓子を観察していく。
クッキーが一番好きだと言ったが、それに固執する必要はないだろう。
他にも良いのがあれば贈りたかったし、自分用にも買いたい。
マドレーヌやフィナンシェ、ドーナッツやケーキなど。
色々なものを一応見ていった。
その時間の中で、焼きたての香ばしい匂いや、店先に並べられて時間が経った後に部屋に満ちた甘い匂いが、備考をくすぐって猛烈な勢いでお腹を刺激したのは、簡単に想像できるだろう。
粉糖をまぶされた白い雪の様な化粧をしたホールケーキや、噛み応えのありそうなドライフルーツを散らされたパン、小さなチョコチップなどをまぶされたシュークリームなどもあって、調べ物の最中はかなり誘惑が満ちていた。
生クリームを使った物は痛むので候補から外して、大きな物もかさばるし資金がかかるので却下。
己の甘味ものへの欲望とひたすら戦いながら、半日かけて選んだのはクッキーだった。
セットにと売ってあった紅茶を一緒に購入して、私は夜を待ち食堂へと向かう事にした。
そして、
取り置きの頼みはしてないのに顔を覗かせた私を見て、レーシャさんは不思議そうな顔をした。
「これからもよろしくお願いします、レーシャさん」
「え、これ私に?」
ツェルトさん情報プラス私情報で仕入れた美味しいクッキーを手渡した。
レーシャさんは反射的に受け取った後に、それを見て目を丸くしてとても驚いていた。
「ええと、私にで良いのよね? でも、こんな物良いの?」
「良いんです。この間、クッキー貰いましたし。そのお礼ですよ。受け取っていただけないと、むしろ私の面目がたちませんし、苦労が報われません」
そう私が言うと、レーシャさんは、躊躇いながらも受け取る事を選んだようだ。
律儀な彼女ならば、こう言えば受け取ってくれるだろうと思っていた。
「それとは、別に……他のも買って来たので、一緒に食べませんか」
「え? そんなに?」
それはさておき、と私が出したお菓子の袋の数々にレーシャさんが再び目を丸くしてしまった。
大体数えると袋の数は十個くらいはある。
結局全ての誘惑をはねのける事が出来ず、ついつい買いこんでしまったのだ。
それで、気が付いたら一人では食べきれない量に……。
お菓子が誘惑するからいけないのだ。
仕方がない。
美味しそうにしているのがいけない。
あと、日々のお仕事がストレスすぎるのがいけない。そうに決まってる。
私は悪くない。
レーシャさんに食堂にある紅茶を用意してもらってそれから、焼き菓子を二人で食べながらお話する事になった。
クッキーやマドレーヌ……。タルト、スコーン、マフィンなどなども。
固めのお菓子があったり、口の中でほろっとほどけるくらい柔らかいお菓子があったり、砂糖の様に甘いものがあったり、逆に控えめで素朴な味わいがしたり、色々なお菓子を食べ比べてみた。
甘いものに満ち足りていてひどく幸福な時間だった。
この思い出で一週間ぐらいは部隊長に無茶ぶりされたり、下っ端で仕事を押し付けられたりしても頑張っていけそうな気がするくらいだ。
それからは、色々女子トークしたりしてですが、途中からレーシャさんの友人さん達数名が偶然やって来て、サプライズに便乗。
食堂はいつもより賑やかになった。
レーシャさんの友人のニオさんが王様の護衛をしている事に驚いたり、アリアさんがクレウスさんと付き合っている話に盛り上がったり、いつも遠くに見ていた雲の上の人達と話すのは夢の様なひと時だった。
最後にはツェルトさんがレーシャさんに絡んでて、桃色激甘空間を作り上げてたが、心の広い私なので見ないフリをしてそっとしておく事にした。
ツェルトさんは自分で糖分を生成できそうなので、何かあってもお菓子の差し入れはしなくても良さそうだ。
そんなこんながあった楽しい数時間はあっという間に終わってしまう。
「今日はありがとう、私の為に贈り物なんかを用意してくれて」
「いえいえ、いつもお世話になってますし、それに友達なら、普通の事ですよ」
「ええ、そうね、そうだったわ。また明日もね」
「はい、よろしくお願いしますレーシャさん」
今日が終わればまた明日からはいつも通りの日常だが、これで良いのだ。
代り映えのないごく普通の日常だが、それで良い。
毎日こき使われて騎士の仕事は大変だったが、レーシャさんが食堂で料理を取り置きしていてくれると思えば、そんなに辛く思えないから不思議だった。
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