第14話 コーンポタージュ



 今日はマメ知識が増えた。

 ポタージュスープは、レーシャさんの得意料理らしい。


 その日も遅くなってから食堂に行った私は、取り置きを頼んだ時食堂にいたレーシャと会話し、そんな新事実を知ったのだった。


 何でも初めて彼氏さんに作った料理の影響だとか、子供の頃に食べた好きな料理の影響だとからしい。


 珍しくレーシャさんと共に席に着いた私は、ポタージュの材料だとか作り方とかを聞きながら、食事を摂る事になった。


 今日のメニューの一部はお分かりの通りコーンポタージュスープだ。

 レーシャさんが一人で作ったわけではないだろうが、自分の得意料理の評判は気になるらしい。


 じっと見つめられながらなので、少し食べにくかった。


 スプーンを手に取ってまずは一口。


「ど、どうかしら」


 不安そうに聞くレーシャさんに私は答える。


「美味しいです」

「良かった」


 濃厚なコーンの味が最初にした。

 しかし強くすぎず他の調味料とうまく調和がとれている味だった。


 濃度もちょうどいい感じで、水っぽくもなくまた粉っぽくもなく良い具合だ。

 温め直されたスープの表面はほんの少しだけ乾いているが、気になる程ではない。


 味付けに足された生クリームの白い模様が、コーンスープの湖面で揺らいで見る分にも楽しめそうだ。


 たまに中に入っている粒粒のコーンは、別で茹でたものを後から足したらしく、しゃっきりとしている。


 お世辞なんて要らない味だ。

 胸を張っても良いと思った。


 そう思って完食したら、思い出したようにレーシャさんがポツリ。


「そういえば……ある人から、これを食べたらデザートが欲しくなるとか言われたけど、そのままの意味なのかしら」

「ええと?」

「ほ、他の意味かもしれないけど。その時はこれと似たようなものをその人にご褒美にって、作ってあげたのよ。けれど、食べ終わった後にそんな事言われて、どうなのかなってずっと気になってて。勘違いしてたら困るなと思ったの……」


 喋るレーシャさんの顔は赤い。

 これは分かる。

 どこからどう見ても、恋バナだ。


 皆まで言うな、と続きを手で制した私は己の勘に従って彼女にいくつか質問した。


 内容はだいたいこんな感じだ。


Q「時刻は?」A「夜」Q「その相手は彼氏か」A「イエス」Q「わりときつい仕事の後だったか」A「イエス」Q「彼氏さんとの進展はちなみにABCに例えてどれぐらい」Q「えっ? えっと……?」


 なるほど、よく分かった。

 レーシャさんは恋愛に関してはとても天然らしい。

 何て悪役らしからぬ性格なのだろう。


 そんな彼女の相手をする彼氏さんはさぞかし苦労されているに違いない。


 微力ながら、私はレーシャさんの幸福を祈ってささやかなお手伝いをさせて貰う事にした。


 私はテーブル越しに彼女の肩を掴む。


「レーシャさん」

「は、はい」

「私は、レーシャさんの事が(友達として)好きです」

「は、はぁ。私も貴方の事は好ましいと思ってるわ」

「ありがとうございます、ではこの内容と状況をそのまま彼氏さんに伝えてあげてください。きっとデザートが欲しいなんて回りくどい事言わなくなりますから」

「ええと、よく分からないけど、それで良いのかしら」

「はい、ばっちりです。お幸せに」

「あ、ありがとう……?」


 後日ヘタレなままの彼氏さんが食堂にやって来て、片っ端から男性従業員を問い詰めていくと言う明後日の勇気を見せる事になるが、まだこの時は知らない事だった。


 進展は当然してなかった。


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