第11話 魚の煮つけ(猫視点)



 時刻はお昼の時間帯。

 空は快晴で、お昼寝にしゃれこむには絶好の天気ですね。


 どーも、はぐれ猫のみーです。

 私は今王宮の庭にこっそり住んでいます。


 ちょっと前までは王都の路地裏に住んでいたのですが、縄張り争いに敗れて追い出されてしまったのです。

 猫も人も社会で生きるのは大変みたいです。


 王宮に住み着く様になってからは、特に思います。


 騎士という身分の人間達は毎日忙しそうに訓練してて、とても気の毒に思えます。


 この間など、下っ端そうなお姉さんが偉そうな人に、たくさんの荷物を押し付けられてて潰されそうになってました。

 あれは人間が荷物を抱えているのではなく、荷物に足が生えてて自立歩行しているような類いの光景です。

 ご愁傷様です。なむなむ。


 他にも英雄とかいう凄い人が、よく夜中に庭に出てきて剣の特訓をしてます。


 夜は眠るものなのに、人間にはやる事がたくさんあるらしいので、とても気の毒に思えました。


 その点、猫は楽です。


 食べ物の奪い合いや寝床の確保には気をつけないといけませんが、それ以外は自由だからです。


「あ、猫さんみーっけ! ニオが先だもーん。やったね、一番!」


 ぬわっ、何をする人間の女!

 はーなーせーっ。


 考え事をしていたら不意に現れた人間に捕まってしまって、私は暴れまくりました。


「いったたっ、ちょっ。引っ掻かないで、さすがにそれ困るぞー。うりゃあっ」


 にゃ! むふん!? そこはだめ!! やーめーれーっ!!


 そんな事をしてたら、横からいい匂いのするお皿を差し出されました。

 私は状況も忘れて思わず、中身に噛みつきます。


 ふっくらとした柔らかなお魚があって、人間の味付けはしてないけれど、魚の味が良く出てて美味しい。

 上にちょっとのっかったかつぶしが、良い感じに味を引き立てて、調和してる感じ……にゃっ!


 うまうま。


「ちょっと、ニオ。イジメちゃ駄目じゃない。手伝ってくれたのは嬉しいけど……」

「あ、ステラちゃん。だいじょーぶ、イジメじゃないよ。遊んであげてただけだもん」

「嫌がってる様に見えたけど?」

「気のせい気のせい。でも、ステラちゃんも親切だよねー。例の腹ペコ猛獣さんにご飯持っていくついでにって、わざわざお猫様のご飯思い出してあげるなんて。この子たまに見かけるけど、人に慣れないんだよー」

「そうみたいだけど、最近食べてなさそうだったから」

「んー、まあ確かに……昨日まで見てた猫さんが気づいたら無言で茂みに倒れてたってのは悲しいもんねー」 


 人間が何かを言っているようだけど、もはや私には関係ない。

 このエサは全部私の物だーっ。


 うまうま。


 お魚うまっ。皮がやわらかくて身もふっくらしてて、骨も大きなのはとってあるし、とても食べやすい。

 踊るかつぶしに食らいつくのもうまっ。


 食べてる間に、人間達の話題は今日の夕食のご飯にうつっていったようだ。


「じゃあ、今日はお魚の煮つけなんだねー。レーシャちゃんの出番かな」

「ええ、でもそれなら昨日の夜の内に仕込みは終わってるわよ。料理長のお魚のメニューは得意料理だから楽しみにしてて」

「あー、うん知ってる。キノコとかと一緒に煮て煮込み汁でお魚に染みた甘辛い味が、後から来る奴だよね。パスタの次に好きな奴だよ」

「そうなの? あれ、不思議なのよね。どうやったらあんなに美味しくできるのかしら。お魚の身がふっくらしてるし、火の通りが均一でどこも固くないのよ。付け合わせのキノコなんかはちょっとしんなりしてるけど、逆にそれがよく味になじんでて、お魚と一緒に食べると、キノコの風味と旨みがちょうどいい引き立て役になるの」


 想像したらお腹空いてしまった。

 人間の食べ物はたべれないけど、考えたらよだれがとまらなくなりそうだ。


「あ、この子人間の言葉分かるんだー。はっ……。――これは、すごい猫さん!」

「わざわざ強調する意味が分からないんだけど、おかわり持ってきてあげようかしら」


 はい、ぜひお願いします。


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