第14話 ブラックブラジャー

「さあ! 自己紹介も終わったところで、楽しい楽しい基礎練習といきましょう! 前に言っておいたと思うけど、着替えは持って来てくれたよね?」

 と、烏丸部長に言われたので、

「あ、はい……」

 わたしは返事をした。


「君は……今日来たばっかりだから、持ってるわけないか。その辺の誰のだか分からないジャージを使う?」

「このままで大丈夫です」

 米山君は、表情を一切変えずにそう言った。予想外の答えに、さすがの烏丸部長も目を丸くした。


 制服のまま……? カッターシャツはともかく、制服用ズボンは動きづらそう。そこまでして、練習に参加したいのだろうか? そんな熱血タイプには見えないけど。


「いいねえ! そうこなくっちゃ! じゃあ、ナッちゃんは女子二人をお願い! 俺たちは先に行っとくから!」

 烏丸部長は、そう言って米山君と部室を出た。


「えっと、兎谷さんに亀岡さん。ここが更衣室になってるから」

 七海さんが示した一角は暗幕で仕切られていて、ちょうど試着室のような格好になっていた。

「別にトイレでも良いんだけど、女子は皆んなここで着替えてるよ」


 えーと……。

 わたしは、後ろでまだ座ったままの男子の先輩達を振り返る。でも、七海さんもさっき着替えてたわけだし……。

 わたしが躊躇していると、兎谷さんがシャッと入り口の暗幕を開けた。


「亀岡さんも一緒に入って着替えたら? ちょっと狭いかもしれないけど、普段は二人ずつで使うようにしてるの。後がつかえちゃうからね」


 七海さんに促され、わたしは恐る恐る中へと入る。兎谷さんは、もうブラウスのボタンを外し始めていた。

「閉めないと丸見えだよぉ」

 七海さんが無邪気な笑顔を覗かせた。


「あっ」

 わたしは慌てて暗幕を閉めた。中の照明は、天井からぶら下がっている裸電球一個となり、とても薄暗かった。


 え……、本当にこんな所で着替えるの? いや、別にそんなたいした身体をしてるわけじゃないんですけど。わたしだって、一応、嫁入り前の身でありますからして……。あられもない姿を若い男子に覗かれた日には、隠し持っている短刀で喉をひと突きする覚悟があるような、ないような。


 わたしが乙女らしく恥じらっていると、兎谷さんがブラウスを豪快に脱ぎ捨てた。黒のブラジャーを窮屈そうに押し上げる二つの膨らみが、わたしの目の前にあらわれた。


 くくく黒……っ!? 言い換えればブラック! つまりはブラックブラジャー! もしくはブラブラ! ブラブラ言うなブラーッ!!


 もちろん同級生の下着姿を見るのは初めてじゃない。だけど、閉ざされた空間の中、こんな間近で見てしまうと何だか変な気分に……は、鼻血が出そう。


「早く着替えたら? それとも先に出て行っても良い?」

 兎谷さんが、Tシャツの袖に腕を通しながら言った。

「あっ、いや、ちょっと待って! す、直ぐに着替えるから」

 わたしは急いで鞄の中からTシャツとジャージを取り出し、鼻をすすった。

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