11.二次試験

 試験日までの数日間、僕は一人でずっと考えていた。

 彼女が僕に言ったこと。

 僕がやろうとしていることが、本当に正しいのかどうか。

 間違っているはずがない。

 母さんを助けたいうという思いが、間違いなわけないんだから。

 それでも考えてしまうんだ。

 彼女の涙と、叫んだ言葉が頭から消えてくれない。


 そうして悩みは晴れないまま、試験当日がやってきた。


 会場には万を超える受験者が集まっている。

 試験は大きく分けて二つ。

 最初に筆記試験を実施し、その結果がすぐに出るから、指定された点数以上を獲得した者だけ次に実技試験に移る。

 筆記試験はそこまで難しくなくて、内容は魔術師としての常識を問われるだけだ。

 いわばふるい落としであり、何となくで受けにきた者はここで落とされる。


 各教室に誘導され、師弟の席について試験を受ける。

 道中、僕は自然と彼女を探してしまった。

 ここ数日ずっと気になっている。

 母さんのことより考えてしまうなんて、自分でも信じられない。

 それくらいに印象的だったのだろう。


「……何で助けてくれないんだよ……か」

「定刻になりましたので、これより第一試験を開始します」


 担当試験監督の指示に従い、一斉に問題用紙を裏返す。

 僕もワンテンポ遅れて問題に取り組んだ。

 問題は聞いていた通り常識を問うようなものばかりで、魔術の基礎や歴史についてが多かった。

 世界の歴史についても触れている。

 ただし問題に、神様のことは含まれていなかった。


  ◇◇◇


 筆記試験終了から二時間後。

 昼食をはさみ、二次試験参加者が発表された。

 受験者のうち約八割が突破し、残り二割は不合格となって試験会場を後にする。

 合格者の中には、アクトとミラの名前も記されていた。


「……ふぅ」


 掲示板を確認するミラ。

 発表された合格者に自分の名前があってホッとしている。

 そしてすぐ近くに、見知った人の名前もあって。


「……言い過ぎた……よな」


 ミラは数日前のことを思い返す。

 感情的になって取り乱し、酷いことを言ったと反省していた。

 神様のことになると、つい我を忘れてしまう。

 彼が悪いわけじゃないとわかっていながら、否定したくなのはきっと、自分の母親が重なるからだと理解していた。


「終わったらちゃんと謝ろう。よし」


 そう心に決め、二次試験に挑む。


 二次試験の内容は実技。

 学園が所有する野外演習場に受験者全員が入り、その中で戦う。

 胸には魔導具のバッチをつけ、それを破壊されるとリタイアとなる。

 最終的に残り人数が全体の三割になった時点で終了し、生存と撃破数で順位付けされる。

 合格条件は、最低でも生き残っていること。

 そして例年通りであれば、三人以上撃破していれば合格圏内とされていた。


 時間はあっという間に過ぎ、二次試験開始の合図が鳴る。

 受験者は演習場の各エリアに散っていった。

 開始直後から多くの受験者たちが接敵する中、新緑の森エリアでは――


「おや~ 君は確か田舎者の列に並んでいたような~」

「……チッ」


 ミラが出くわしたのは、受付時に嫌がらせのようなセリフを口にしていた貴族の男だった。

 一緒にいた他の貴族たちの姿はない。

 

「まったく運がないね? 開始早々俺に出会ってしまうなんて」

「それはこっちのセリフだよ。お前こそ運がなかったな!」


 ミラは左手を前に突き出し構える。


光弓こうきゅう

「ほう。光属性が使えるのか」


 ミラが展開したのは光属性の術式。

 光弓は文字通り、光の弓を生成することが出来る。

 彼女が両手につけている白い手袋には、それぞれ術式が刻まれていた。

 左手は光弓の術式。

 そして右手には――


「いくぞ!」


 光矢こうしの術式が刻まれている。


「ふんっ、浅知恵を働かせたな」


 ミラは光の弓矢を構え、イジワル貴族に向けて射る。

 狙いは胸のバッチ。

 光の矢は通常の矢より早く、目でとらえることすら難しい。


「フレアウォール」


 しかし男は炎の壁を生成し、光の矢を軽々防御してしまう。


「この程度で俺を倒せると思っているのか?」

「思ってないよ!」

「何?」


 直後、男の頭上に光の矢が迫る。

 ギリギリで気付いた男は瞬時に仰け反り、矢はバッチを掠めて地面に刺さる。


「くっ」

「チッ、惜しかったな」


 ミラは一撃目を放った直後、彼が炎の壁で視界を閉ざす瞬間を狙ってもう一本の矢を放っていた。

 それを大きく弧を描き、壁に覆われていない頭上から降り注いだ。

 光矢は魔力で生成された矢で、放った後も飛ぶ方向や速度を制御することが出来る。

 もちろん、発動者の技量に大きく左右されるが。


「やってくれたな……田舎者が」

「お前は大したことなさそうだな? 貴族の癖に」

「っ……そうか。女だから手加減してやろうと思っていたが……もう良い」


 男の目が本気になる。

 彼の足元に術式が展開され、背後に十の巨大な火球が生成される。


「多少は痛い思いをしてもらうよ」

「それもこっちのセリフだって」


 ミラは右へ左へと走り回り、動きで翻弄して的を絞らせない。

 走りながらも弓を構え、男の胸を狙う。


「そんな速度で俺を惑わせると思うな!」


 男も対抗して火球を一斉に放つ。

 そして戦いはさらに激化する。

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