8.王都初上陸
食事を済ませてしばらくすると、徐々に雨脚が遠のいていった。
次第に雨は弱まり、雲の隙間からは日差しが見えだす。
そうはいってもずぶ濡れの服は乾いておらず、仕方なく僕たちは乾くまで大人しく待つことにした。
その間に僕たちはいろんな話をした。
他愛のない話ばかりだ。
ここに来るまでのことや、それ以前の生活について。
彼女の出身はグレートリコ王国という大陸に端にある小国で、その中でも特に辺境の小さな村だった。
母親の他に妹と弟がいて、一緒に暮らしていたらしい。
「妹と弟か~ 僕はどっちもいないからちょっと羨ましい」
「そんなんでもないけどな。うるさいしかまってやらないとすぐ拗ねるし」
とか言いながら、妹たちの話をするとき彼女は楽しそうに笑っていた。
やっぱり少し羨ましいと思う。
話の中で妹たちの名前は出てきても、母親のことは触れなかった。
あの言葉を聞いていたから気になりはしていたけど……
何となく聞くべきじゃない気がして、あえて突っ込まなかった。
僕も捨てられたことや、母さんが水神様だということまでは話していない。
彼女も察してか、それについては聞いてこなかった。
互いに深くは踏み込まず、けれども楽しく話をして、少しは仲良くなれた気がする。
結局そのまま一夜を過ごし、朝になって乾いた服に着替えた。
僕たちは一日ぶりに青空の下に出る。
日の光を浴びながら、ミラは大きく背伸びをする。
「ぅ、うーん! やっぱり晴れてる方がいいな~」
「そうだね。でも雨だって悪いばかりじゃないんだよ」
「そうか? ジメジメして私は嫌いだけど」
ジメジメすることは否定しない。
嫌いと言われると、何だか自分を否定されたようで傷つくな。
そういえば母さんも言っていた。
昔は雨を喜んでくれたけど、いつしか邪魔者のように扱われていたと。
文明の発展によって雨は恵みではなく、ただの水滴になってしまったという話だった。
そこも僕がどうにかしたいと思っている点だ。
「さっ、早く出発しよう。一日あいちゃったし急がないと受付に間に合わないよ」
「そう? まだ十分間に合うと思うけど」
受付は試験の前日、夕方までとされていた。
ここまで約半分の距離を三日かけてきている。
残り半分と考えて、到着に二日程度の余裕はあると思う。
「全然ギリギリだって! ここから先に谷があるから、大回りしていくんだぞ?」
「え、ああ、そういうことか」
僕らじゃ考えているルートが全く違うことに気付く。
彼女は陸路で、僕は水路で考えていた。
「だからほら行くぞ!」
「ちょっと待った」
「え? 何だよ」
「そっちのルートでギリギリなら、僕が知ってるルートで行かない?」
ミラはキョトンと首を傾げる。
それから――
「うわっ、冷たっ」
「あーごめん、跳ねる水まで制御しきれなかった」
僕はミラと一緒に斗波に乗って川を遡っている。
そこまで大きな波じゃないから、落ちないように肩を寄せ合って。
距離感が近すぎると、さすがの僕でも緊張する。
さっきから心臓の鼓動がうるさくなってきた。
「な、なぁこれ大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。この川は王都まで続いている。ちゃんとたどり着けるよ」
「そっちじゃなくてさ! こんな使い方して魔力が持つのかって話」
「あーそういうことか。全然問題ないよ」
斗波はそこにある水を利用して波を作る。
水を生成しなくて良い分、魔力効率は良いほうだ。
睡眠を考えないなら一月は発動し続けられるよ。
「とにかく心配しないで。飛沫もかからないように制御するから」
「う、うん……お前って本当に何者なんだよ」
「君と同じ受験者だよ。それじゃちょっと速度をあげるから! 落とされないように掴まっていて」
「わかった。頼むよ」
ミラが僕の腕にぎゅっとしがみ付く。
女の子の柔らかい手と肌の感触にドキッとしながら、僕は波の速度をあげた。
それから数回の休憩を挟みつつ王都を目指す。
◇◇◇
三日後――
僕たちは王都の入り口にたどり着いた。
最初の感想は、お互いに同じ。
「「でっかいなー」」
王都の街を囲っている大きな鉄の壁と、入り口たる巨大な門。
巨人でも住んでいるのかと思うくらい大きな門に、僕らはぽけーと口を開けて驚いていた。
数秒経過して我に返る。
いつまでも門の前でつったっているわけにはいかないと、僕らは意を決して中へと入った。
門が開かれる。
正確には巨大な門ではなく、その隣にあった出入り用の門が。
大きな門が開くかもという期待感の所為でガッカリしたけど、それは街に入ってすぐ払拭された。
「大きいな……」
門を見た時と同じ感想が僕の口から出た。
何もかもが大きい。
建物はもちろん、道や看板も含めて。
基本的に三階建て以上の建物しかないようだ。
さらに奥には王城が見えている。
王都中央に立つ純白のお城は、遠くから見るだけでも別世界な感覚に襲われる。
家を二階建てにして誇らしげだった自分が恥ずかしく思えてきた。
「人も多いな。私の村とは大違いだ」
ミラもぼそりと驚きを口にした。
確かに多い。
僕はずっと湖で暮らしていたから、きっと彼女より人の多さを感じているだろう。
右も左も人、前後も人。
少し上を見上げても、建物に人がいる。
「目が回りそうだな」
初めての街、初めての人混み。
どちらも僕にとっては刺激的で、もうすでに我が家が恋しく感じてきた。
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