第514話 それぞれの割り振り

「さて、全員いるな」


 ユリアが出て行ってから、リン、ノエル、エナ、ティタ、クラリス、セレナ、レオネ、ロザミア、マシラ、テンゴ、アシラ、ヴァン、オーギュスト、ダンテを自室に集める。


「リン、周囲に人影は?」

「ありません」


 全員が揃ったタイミングでリンに周囲に人影がないかを探らせる。


「クラリス、ロザミア、魔法による監視は?」

「ないわね」

「ないよ」


 また魔法に関しての監視も二人に確認する。


「で、ここに集めた理由はなんだ?」

「だな、正直部屋を割り振ったら町を見て回りたいんだが」


 テンゴとマシラがそういう。そして気持ちは同じなのかクラリス、レオネ、ロザミア、アシラも同意の様に頷く。


「……楽しみにしているようで悪いが、この町にいる間は騎士がついていても外出を許す気はないぞ」


 そういうと全員が驚いた顔をする。


「じゃあなんで、呼んだんだよ」


 こちらの言葉が不服だったのか、アシラが不機嫌そうな顔をする。


「それはこの部屋にか?それともこの町にか?」

「両方だ」


 アシラの言葉に眉を揉んで応える。


「まずこの町にだが、それは安全だと予想していたが、どうやら少しばかり不安定な状態に移行したらしい」

「……ふむ」

「もちろん、有事の時は最優先でお前たちを逃がす。その時は心配するな」


 こちらがそういうと、全員が安心した表情になる。


「そしてこの部屋に呼んだ理由だが、少しばかり窮屈だが、当面の間は此処でじっとしてもらうためだ」

「だから、出れないってか」


 エナが椅子に座り名がらそういう。


「この言葉では不満か?」

「いや、バアルなら、何とかするだろう。オレは従うだけだ」


 エナはそういうと言い切ったとばかりに椅子に体重を預けて目を瞑る。


「ひとまずは三日だけは大人しくしていてくれ、それでも警戒が解けない事態なら方針を変えるつもりだ。さて、それでだが―――」


 それから全員に行動指標を与える。


 まずクラリス、ロザミア、レオネ、テンゴ、マシラ、アシラといった来賓に属する人物には宿泊所から出ない様に念を押す。それと同時に魔法を感知できるクラリス、ロザミアには、手間だが、日に何度か宿泊所を回ってもらい、魔法による罠や監視が仕掛けられていないか回ってもらう。


 そして護衛に関してだが――


「リン、ノエル、セレナは宿泊所内でクラリスとロザミアの護衛、エナとティタはレオネの護衛に当たれ、絶対に逃すなよ・・・・

「ひどくない!?」


 護衛が頷く中、レオネは声を上げるが、それを聞いても話の途中ということで続ける。


「そしてヴァンは宿泊所に留まってもらい、防衛を。オーギュストは俺の護衛として動いてもらう」

「お、おう」

「了解である」


 二人ともこちらの言葉に快く頷く。


「最後にダンテだが」

「私が何ができるかわからないから、使いにくいかい?」

「……正直な。何ができる?」


 ダンテの能力はほとんど知らない。そのためどう扱っていいかがわからなかった。


「なんでもって言ったらどうする?」

「なら、好都合だ。この宿泊所を要塞並みに堅牢にしてくれ」


 こちらの答えにダンテが驚く。


「よく納得できるね」

「何でもできるんだろう?」

「……はは、ほぼだけどね。いいだろう請け負った」


 なぜかできると感覚を得ながら挑発気味に述べると、ダンテは余裕で答える。


「さて、とりあえずここまでを言ったが、ひとまずは三日は大人しくしていてくれ。それと俺が同伴している時は町の散策を許すが、そう時間も取れないと思っていてくれ」


 全員を見渡して、それぞれが納得の表情を浮かべる。











「……ティタ、一つ用がある」


 そして全員が自分の部屋に戻るか、宿泊所内を見て回るためか退室していく中、俺は出て行ことするティタを呼び止める。


「……なんだ?」

「お前にいくつか指示を出す。まず――――」


 その後、ティタにいくつかの指示を出して、今度こそ退室していくのだった。







 全員が解散して思い思いに旅館で過ごしている中、俺は動き出す。一つは騎士達に指令を出すこと、警戒を解けない状況のため有事の際にはすぐさま対応できる準備させる必要があった。それこそどこをどう防衛するか、そして施設内を点検させて、監視の目があるかどうかの探索もだ。そして二つ目は物資の確認と調整だ。都市だからと言って油断はできない。なにせこの都市では明らかに食料が充実しているとは言えないからだ。無計画に食べつくしてしまえば、それこそ餓死とまではいかないが、空腹になってしまう。そうならないようにあらかじめ、猶予を持って食料を調整しておく必要があった。そしてその際にいくつか、ティタに動いてもらうのだが、それはごく一部の騎士達しか詳細を知らないようにしておく。


 そして一通りの指示を出し終えると、今度は予定通りに動くことになる。それが――

















「ようこそいらっしゃいました。バアル様、ユリア様」


 宿泊所を後にて訪れたのはドミニアの中で最も大きく豪華な領主館だった。そして案内されたとある部屋に訪れると、目の前で歓迎の意を示す男がいた。


「私はユルグ=ミセ・アファーエズと申します。是非名を覚えていただければと」


 目の前の男はユルグ=ミセ・アファーエズ、このドミニアを治めているアファーエズ伯爵家当主だった。


(それにしても、ドワーフの土地に人族の・・・領主とはな)


 目の前にユルグという男は、一言で言えばやや我欲が強そうな男だった。肌はネンラールでもよく見る褐色で、髪は黒色で整えている。そして背は正直高くなく、正直見下ろせるほど。そして贅肉がついて丸い体や指や首もとに掛けている装飾品、そして笑みを浮かべながらも何かを探る様な視線を送ってきている。これだけならどこにでもいるやや強欲な商人の様にも見えるのだが――


(……他国とはいえ、仮にも殿下の婚約者に下卑た視線を向けるかとはな)


 ユルグの視線はよくユリアの方向、それも女性的な部分によく向く。


「急にお邪魔して申し訳ありません」

「いえいえ、友好の深いユリア様と名高いバアル様がいらっしゃったことは我が領地としてもうれしい限りです」


 ユリアはそんな視線など慣れたものだと言うばかりに話を続ける。


「それで、当領地に来られたのは」

「はい、バアル様がドワーフの技術に興味を持ったようなので案内として参ったのです」


 ユリアの視線がこちらに向き、話を合わせろと目で告げてくる。


「ええ、その通りです」

「ほぅ、では後日、組合の者に市内を案内する様に取り計らいましょう」

「それには及びません。懇意にしている者に案内を頼んでいるので」


 ユルグの提案をユリアはやんわりと断る。なにせ案内と言えば聞こえはいいが、裏を返せば常に監視されているとも言えてしまう。


「そうですか……では、後日歓迎の宴を開かせていただきたく思うのですが、いかがでしょうか?」

「それは良いですね」


 ユリアは手を合わせてうれしいとばかりに笑顔を作る。


「希望な日時はございますか?」

「そうですね……」


 ユルグの言葉でユリアの視線がこちらに向く。これはこちらで決めろと言う物だ。


「できれば連れの者が慣れる頃が望ましい……三日後・・・で頼みたい」

「わかりました。では三日後の夜、私どもの方でささやかですが宴の用意をさせていただきます」


 こうして三日後にはユルグとの会食が決まるのだが、重要そうな話はこれだけでやや拍子抜けするような状態だった。


 その後、様々な雑談を交わしてから俺たちは領主の館を後にするのだった。

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