第513話 久しぶりの再会

「お~~~~~~~~~い」


 ドミニアの防壁の門に近づくと何やら野太い声が聞こえてくる。


「ん?ドイトリか?」


 馬車の窓から門の方を見ていると、門の入り口で大きく手を振るドイトリの姿があった。


「……あれをむさくるしいおっさんがやってもね」


 セレナのなんて事のない一言で馬車の中で肩を震える者が何人も出るのだった。













「待っておったぞ」


 門の元まで来ると都市の内側に入るために馬車の積荷の点検と人員の確認が行われる。そして手続きのために馬車を降りるとドイトリが近づいてくる。


「わざわざ待っていたのか?」

「おう」


 ドワーフたちによる、荷物の点検の間、ドイトリと会話を続ける。そして周囲にリンのみしかいない状態となる。


「で、そっちの準備・・は?」

「お、おう、なんでそんなに気楽なのかはわからないのだが……」


 何の気追うことなく聞くと、逆にドイトリが戸惑う。


「まぁ、賭けているものを考えれば、慎重にもなるか」

「……バアル、言葉に気をつけい。儂らはこれに全員の、お主の言葉を使うなら命を賭けている。言葉が過ぎればその場で殺し合いに発展するぞ」


 表面には出ていないが、ドイトリの本気の怒気を察する。


「そうか、それで話を続けるぞ」

「ふん、まぁいい。で、準備だったか?」

「ああ」

「正直、終わっていない・・・・・・・


 その言葉に少しだけ眉を顰める。


「悠長にして言う暇があるのか?」

「わかっておる。それで、予定のない人物たちがいるが?」


 ドイトリの視線が馬車の外に出て、防壁を見上げているテンゴ達に向く。


「ああ、だが、その分の利用価値はあるだろう?」

「お主……いや、何も言うまい」


 ドイトリはこちらの意味を理解して、難しい顔をした。


「それと……弟は、ロックルはどうしていた?」

「……カーシィムの元にいる。近くに居る限りはひどい目に会うことは少ないだろう」

「そうか」


 ドイトリは安堵の表情を浮かべる。


「ドイトリ様、完了したぞ」

「おお、今行くわい。それじゃあ、中に入れるようになったが、案内するか?」

「せっかくだ、頼もう」


 そして再び馬車に乗り込み、ドミニアの中に入ることになった。














 ドミニアの都市は何とも特徴的な都市だった。ハルジャールやその周辺の村々はイスラーム建築で特徴的だったが、こちらもまた特徴的だった。ドミニアの建物は全体的に丸みを帯びた建物が一般的で、前世のイグルーによく似ていた。


「あれは全部、金属か?」


 俺は馬車に同席しているドイトリに建物を指差して問いかける。


「すべてではないがな、金属と粘土やら、砂利やらをうまく合わせて作られている」


 そんな家の表面だが、そのほとんどが光沢を持っており、明らかな硬度を誇っていることが見て取れた。


 そして表通りにある家だが、これは普通の四角い家に屋根が丸みのあるドーム型になっている。また高さも明らかに人族向けに作られており、ドワーフからしたら使い難そうに見えた。


「それにしても人族・・がいるな」


 今通っている市街地は、場所が場所だけに数自体は多くないものの人族が確かに存在していた。


「…………ここにいる者達は?」

「大丈夫だ」


 現在、馬車には俺とドイトリ、リン、ノエル、エナ、オーギュストがいた。


「なら、話そう。準備が済むのは三日後となっている」

「また、中途半端・・・・な」

「む?」


 ドイトリの言葉を聞いて、本格的に眉を顰める。


「カーシィムから、宮中で事態を察し始めている連中がいることを聞いた。それよりも先に軍は動き出しているから、引き返してすぐにこちらに来ると言うことは無いだろうが」

「すでに中に・・何かしらがいる可能性があるか……」


 ドイトリは腕を組み悩みだす。


「警戒しろ、こちらに言えるのはそれだけだ」

「うむ、忠告に感謝するのである。それと、見えてきたぞ」


 ドイトリの言葉で視線を馬車の外に向けると、一際大きな建物が建ち並ぶ区域にやってきた。


「俺達が泊るのはどれだ?」

「アレだな」


 こちらの言葉にドイトリは指をさして答える。


「ハルジャールとはまた違うな」


 形としてはホテルというよりも旅館に似ていた。全体的に四角く大きいが、屋根はほかの家にも似ているようにドームの様に丸い。そしてこの場所周辺は特にこっているのか、建物の色が白に近い灰色の素材で作られていた。


「なるほど、貸し切りか?」

「そう聞いている。そっちのほうが安心・・じゃろう?」

「まぁな」


 それから馬車の中から声が消え、馬車は宿泊する場所へとたどり着いたのだった。












「いらっしゃいませ、バアル・セラ・ゼブルス様、ユリア・セラ・グラキエス様御一行」


 目の前にいるのはこの宿泊所のオーナー兼支配人のドワーフ。ただ接客業を生業としているためか、きちんと身なりを整えてもじゃもじゃではない珍しいドワーフだった。


「しばらくの間、世話になる」

「ええ、では当館をご案内いたしましょう」


 それから宿泊所内を案内される。それぞれの止まる部屋、館内の施設である倉庫、食堂などなど。


「何かご不明な点はおありですか?」

「いや……言いたくはないが、俺たちとドワーフでは様式が違う、それとゲストがゲストだ、身の回りの世話は最小限で、あとは要らない」

「左様ですが、では、何かご所望でしたら、すぐにお声をおかけください」

「……その時は頼む」


 その後、騎士たちに部屋を割り振らせて、馬車の荷下ろしを命ずる。そしてそれが終わればいくつかの指令を出して俺は自室に戻るのだった。











「それで、この後の動きは?」

「明日にはここの領主と会ってもらいます。その後、ドワーフの首領の元に行きしかるべき報酬を貰う予定ですね……何か質問は?」


 指示を出し終えると、俺は自室でユリアと今後のことに話し合う。


「帰る予定はどうなっている?」

「来たばかりで、もう帰る予定ですか?」

「ああ、もしかしたら変更される可能性もあるだろう?」


 そういいながら俺は笑みを浮かべる。


「それもそうですね、予定では猶予を持って五日後・・・に出発する予定となっています」

(なら間に合うな・・・・・


 ユリアの予定とドイトリから聞いた予定が被さらなくてほっとする。


「なるほど」

「ほかに何か?」


 ユリアの言葉に首を横に振る。


「では、少したら領主の元に案内しようと思っています。面倒でしょうがあしからず」


 そういうとユリアは供回りを連れてこの部屋を出ていった。


(さて、こちらも準備しておかないとな)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る